25
「おわったあああああうわあああああん!!」
生徒会室で、偉い人のデスク風に長テーブルを飾った真ん中に豪華に見せる風の背もたれカバーを付けてちょっと小洒落たクッションを敷いたパイプ椅子に座って、生徒会長の天空月子は頭を抱えていた。
側近の進くんと大蔵くんがどうしたらいいか分からずオロオロしている。
頭を抱えていた手で顔を乾拭きして目だけを覗かせ、月子が愚痴をこぼす。
「段取り違うんですけど、打ち合わせと違ったんですけど、何してくれてんのあの教頭先生! ちょっと活躍したからってあの二人をちょっとだけ、ほんのちょっとだけ恥かかせるだけだったのに、これじゃああの二人全校生徒を敵に回したような物じゃない!」
「え? 全校集会にした時点で、二人とも標的になりますよね?」
「全校集会の時点で、新型の専属パイロットな時点でいじめの対象ですよね?」
進くんと大蔵くんの静かな指摘に涙目な月子。
「どうしよう。どうしましょう。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ轟沢くんの興味を引きたかっただけなのに大事になってしまったのだけれど」
「生徒会長の肉、もとい、私欲に生徒会を巻き込まないでください」
「生徒会長、肉はお料理だけにしてください」
「人をインランみたいに言うな!!」
テーブルの上の鉛筆立てを右手で掴んでフルスイングすると、大蔵の額に激突して鉛筆やマジックが床に飛散した。
「あいたーーーーー!?」
「大蔵! なんとかしなさい!」
「え!? 俺ですか!?」
「進!!」
「いや、もう無理じゃないですかね。しばらく放っておきましょうよ傷が抉られるだけですよ」
「うわあああああん、なんで私が不在の時に戦闘あったのよ私だって戦えたのにうわあああああん!」
((いや、戦術科の生徒はオクスタン授業もほとんど無いでしょう・・・))
英雄になりたかった月子は、しょうもない現実にも向き合えず敵戦闘ポッドを撃破して実績を上げ、正規の階級まで受領した下級生二人が羨ましくて仕方がなかったのだ。
生徒会長と思えない乱れっぷりの所に、無遠慮に引戸をガラッと開けて真っ白な学生服を着て金縁の制帽を被った長身の男子生徒が進入して来てビシッとキメて月子に言った。
「うーーーんっ姉さん!! 新型の話はっ、本当なのかぁい?」
「はっ!? 愚弟!?」
ピッと姿勢を正してテーブルの上に手を組んでクールを演じる月子。
「し、新型?」えと、えと、そんな話もあったわね「そうね! 本当よ!?」
「あはああああん!! マジなのかい!?」くるっと回転して右手で胸を抱き左肘を持ち、左手で制帽を掴んで顎を引く「新型・・・。それって・・・。僕のためにあるようなものじゃあないのさ!?」
「んなわけないだろ!! はぁ、全く・・・。いい?ヒロ。搭乗者はすでに決まっているの。トラブルは起こさないように、」
「つまり決闘して奪えと言うんだね姉!! さん!!」
「そんな事言っとらんわ!! 絶対問題起こすんじゃないわよ!?」
「解ったよ姉さん! お! れ! が! ・・・んんん僕がっ! 決闘に勝利して新型のパイロットの座を射止めてくるよ・・・」
「ダメだっつってんでしょこのポンコツ愚弟!」
「さらばデュ!?」
アデューと言いたかったんだろうか、と、大蔵と進がキョトンとしていると、天空ヒロは生徒会室を華麗に立ち去り、その爽快な立ち去りっぷりにフリーズしてしまった月子がハッとして右手を振り上げて役員に命じる。
「た、直ちに追いかけなさい!! 決闘なんて無意味だし、これ以上、生徒会の醜態を晒すわけにはいかないわ!」
「今、」
「わたしっていいました?」
「生徒会の醜態を晒すわけにはいかないわ!! さっさとあの愚弟を捕まえて来なさい!!」
「「あ、はい・・・!」」
生徒会長命令で、副会長と書記へ直ちに真っ白学生服を追いかけて生徒会室を出ていくのだった。
「ああ、もう・・・問題児ばかり・・・」
天空月子は自らを棚に上げて頭を抱えて悩むのだった。




