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松本駐屯地内にある軍病院を退院して、戦技学校に戻ったのは六月も半ばの事だった。
日本と変わらない景色。
日本と変わらない地名。
だけど、この国の名前は日本ではなく、陽本という。
原因はわからないけど、この異世界。パラレル世界?にやって来て歴史で知ったのは、第二次世界大戦以降は宇宙開発時代に突入して科学技術も順調に向上して行ったが、今度は外宇宙からやって来た侵略者と戦争状態にある。
侵略者が使う戦闘ポッドは、触手やら多腕やらを装備して全周囲を攻撃する能力を持ちながら戦闘機以上の機動性を持ち、さらにレーダーに映りにくく既存の技術の兵器、戦闘機や戦車では太刀打ちできないため、戦車以上の装甲と戦闘機並みの機動性を持った汎用戦闘兵器オクスタンが作られるようになった。
さらに陽本では、オクスタンをより発展させて艦艇並みの頑強さと火力を凝縮したオクスタンの上位兵器、特戦機が誕生したと。
まぁ、理由・・・設定? なんてものは人間の想像力で思いつく物で実現できないものはないとかかんとか聞いたこともあるし、ぶっちゃけあの軍隊クソユルユルお花畑なゲーム世界だと考えれば、真面目に化学するのもバカらしいけどな。第一、俺そんな化学するほど頭良くないし。
二週間ぶりに学校の校門の前に立つ。
さて、トラブルは御免だし、真面目に強くなってオクスタンを扱えるようにならないと。ようよう命の危険が出て来たからな。
しかも新型の専属パイロットって。
はぁ、こういうゲームで量産機の新型パイロットって、大概かませ犬的なモブポジで敵機来襲時にのっけでやられて、主人公機のスーパーロボットの活躍に花を持たせるのが役目なんだよなあ。
アンナ先生・・・。マジで恨みますよ・・・。
ん?
憂鬱に俯きながら校門をくぐると、花弁も散った緑の葉の茂った桜並木の中程に、メガネなおさげの女生徒一人と、取り巻き男子生徒三人が道を塞ぐように立っているのに気付いて顔を上げた。
なんだアイツら、邪魔なところに突っ立って・・・。
タタタタタッ
ん?
男子ども走り出したぞ。
俺に向かって?
がっと、左右から腕を掴まれた
「は? な、なんです一体」
「気にするな!」
「我々は生徒会役員だ!!」
「え、意味がわからない・・・」
なんなんだコイツら俺は早くクラスに行って優に会いたいんだよ邪魔すんなよ。
メガネな娘が悠然と俺の正面にやって来て、直立姿勢で左手で胸を強調するように胸を抱き、右手でクイッと、クイッとメガネをキザに押し上げてレンズに光を反射させると言った。
「アイングライツ戦技学校三年。戦術科Aクラス。十八歳。生徒会会長の天空月子です。一年特別クラスの轟沢斗真十九歳ですね」
「年齢を強調するあたりご自身の優秀ぶりアピールが物凄いですけどそうです私が橋詰志郎二十一歳未婚男子ですが何か?」
「ご冗談がお好きなようですね。あの問題児、橋詰恭太郎と同じ苗字を名乗るとは」
あれ、そういえばアイツ、俺の本名と同じ苗字か。
苗字変えろよあんにゃろう。
「ですが! その程度の抵抗は想定内です」
抵抗?
何を言ってるんだこの生徒会長殿は。
「轟沢斗真。あなたを待っていたのです」
うわなんか物凄く嫌な予感。
「人違いですこの手を離してください」
「俺は生徒会副会長、長部進だ!!」
「生徒会書記、品唐大蔵だ!!」
「「我ら戦技科三年生の筋肉からは! 逃げられないぞ轟沢斗真!!」」
暑苦しい!!
なんなんだほんと、コイツら!?
「あ、あの、生徒会の、多田野均です。普通科です。よろしく」
よろしくじゃねえよ。なんなんだよ。
「フッ・・・」
生徒会長が意味深に笑った。
がばっと右手を俺に振るって指差して、宣言しやがった!
「この男を轟沢斗真本人と断定! 至急体育館に連行せよ!!」
「ちょ、ま、なんなんだよ!?」
「黙りなさい問題児二号。貴様には全校集会でステージ上で演説してもらいます!」
「はあああああ!?」
「行くぞ大蔵くん!」
「了解だ進くん!」
「「必殺二人神輿行進撃!!」」
「ちょー! まー!?」
なんて怪力だ俺を文字通り神輿みたいに宙に横たえて走り出しやがった!?
それより、全校集会って!?
演説ってなに!?
ちょっ、まっ、助けてえええええ!?