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 やっと退院の日が決まった。

 揺さぶられた、よりもビームの直撃でコクピット内がモニターが弾けたり内装が外圧で吹き飛んだのを身体に受けた傷がかなり酷かったらしい。

 生き延びられたのは、咄嗟にオクスタンの腕でコクピットをカバーしたのと、二五式にこしきを筆頭に陽本のオクスタンはコクピット周りが無駄に頑丈に造られているから他国のオクスタンよりも生存率が高いからだそうだ。

 そのおかげで命拾いしたわけだね。開発陣さまさまです。

 余談だが、オクスタンのコクピット周りの頑丈さは筆頭はドルゼ連邦国で、ドルゼ製の兵器は全般的に頑丈なんだそうな。

 基本性能と整備性の高さは、流石異星人との交戦数が圧倒的に多いガメリカ製。

 陽本製は故障が少なくて信頼性が高いのが売りだという。

 他にも、ゾルシア帝国や中欧民国なんかも代表的なオクスタンを開発しているが、性能は高いらしいがその二国は人口が多いせいもあってパイロット共々使い捨て感が強く、陽本の特戦機スーパーロボットほどじゃないにしても一騎当千の戦闘力がある割に帰還率は軒並み低いらしい。

 そんな人も機械も使い捨てるような国の兵器には乗りたくないもんだ。

 イルグラント連邦王国やフレイル王国、スパーニャ公国とか、他にもいくつもの国が独自にオクスタンを開発しているが、ドルゼとガメリカの二国の性能が抜きん出ていて、特にガメリカは型落ちしたオクスタンを周辺国に販売してたりする。

 この世界は地球の国同士では表立った戦争こそしていないが、異星人のおかげで、それでも兵器を流通させてるあたりは元の世界と大して変わらないんだなと思う。

 さて、余談が過ぎたが、外傷も塞がって全治二週間と言われた入院生活の間は毎日、晴れて恋人になった優が学校で取ったノートを見せてくれたり宿題を病院で一緒にやってくれたりで授業の遅れはあんまり心配なさそうなのは有り難かった。


「どうしたの? とうま」


 いけないいけない。優の宿題をやる横顔が魅力的過ぎて見入ってしまった。


「いや、なんでもないよ。いつもありがとうな、勉強教えてくれて」


「こんな事しか、今のぼくには出来ないからね。あ、それはそうと、授業の内容がかなり変わったよ。オクスタンの操縦訓練は二年生からだったけど、来週からは一年生も二年生と一緒に受けるようになるって。時間割も午前中が座学で、午後は戦技教練になるって」


「まぁ、なぁ。直接攻め込まれちゃあな・・・」


 日に一度、俺の様子を見にくる軍人さん(事務方の女の人。基地オペレーターらしい)に聞いた話では、地球が攻め込まれた初のケースとか言われちゃいるが単機で攻撃してくる今回みたいな戦闘ポッドは割と飛来しているらしい。

 そのほとんどがガメリカ軍によって破壊されたり、ゾルシア帝国や中欧民国なんかは徹底した情報統制でもみ消されているから知られていないだけなんだそうだ。

 陽本は情報機関がガメリカ任せな所もあって、情報統制が弱いから、マスコミにごっそり報道されて世界中から陽本の軍隊は大した事ないってレッテルを貼られてしまった。

 異星人との戦いで主導権争いをするのが、現代の国同士の戦争と言えなくもないが、そうすると情報戦をガメリカに頼り切っている陽本はどうしても後手に回ってしまう。

 そうして今回、中欧宇宙軍が撃ち漏らしたにも関わらず、陽本の戦力は当てにならないというイメージを植え付けられてしまったわけだ。

 交戦経験が無かったからこそ、そして情報不足だったからこそ虎の子の航空戦力をたった一機の戦闘ポッドに八機も落とされてしまっては言い訳も立たない。

 中欧民国ってのは、元の世界のあの国によく似て実に嫌がらせをしてくれる。


「そしたら、もうみんなシミュレーターじゃなくて実機で訓練してるのか?」


 素朴なことを聞いてみると、優は少し困った顔をして言った。


「二年生と一緒でやるから、一年と二年でパートナーを作って交代で乗るんだけど。二年生の男子が一年生の女子にちょっかい出すから少し問題になってるんだ」


「授業中に? 教官がそういうの承知しないだろう」


「時間外なんだよ。放課後とかさ。戦技教練はぼくたち特別クラスも一緒になるから、大凪さんなんかは引くて数多だし。だからね、ぼくも学校ではまだ男子で通してるんだ」


「そ、そうか」


「とうま以外の男子に言い寄られたくないし」


「う、うん。そうだなっ。それはけしからん」


「ほんとにそう思ってる?」


「当たり前だろう」


 疑わないでほしい。俺は優一筋なんだからな!


「まぁ、信じるけど」


 優は悪戯っぽく笑った。

 もしかして試されたか?

 二人楽しく会話しながら宿題をしていると、ドアがノックされて思いがけない人が訪問して来て俺も優も驚きすぎて固まってしまった。


「こんばんは。元気にやっているかな生徒諸君」


 アイングライツ戦技学校、校長、星野アンナ校長その人である。


「え? えと? 校長先生? お見舞いありがとうございます・・・」


「そう改まらなくてもいいわよ、轟沢候補生」


「は、はぁ」


「あ、あの、ぼくはこれで・・・」


「キミもここにいていいんだよ、笹凪候補生」


「え、でも」


「何故なら、二人に関係することだからね」


 俺と優は顔を見合わせて、優も一度浮かせた腰を椅子に腰掛け直す。

 すぐに何かに気付いて飛び上がると、窓際に置かれたパイプ椅子を引っ掴んでアンナ校長の前に差し出して言った。


「あ、あの、校長先生。椅子をどうぞ・・・」


「ああ、構わないよ。すぐにお暇するからね」


 アンナ校長は優の気遣いを無用として軽く微笑んでみせる。

 笑顔なのに緊張感を周囲に与える有無を言わせない雰囲気で、アンナ校長は話し出した。


「これは戦技指導にガメリカから派遣されているレイラ中尉も、この松本駐屯地の士官にも承知されていることだが。次期主力オクスタン、第四世代の四式壱型機甲兵、その試作機にして先行生産型のオクスタン、四一式よいちの専属パイロットとして、君達二人を推薦する」


 ええ!?

 し、新型のパイロット!?


「あ、あの、自分は二五式を一台大破させてます! 新型を任されるなんていうのは・・・」

「ぼ、ぼくも、何も出来なかったし・・・、その・・・」


「二人とも謙遜しすぎだ。まぁ、笹凪候補生は確かにアレだが」


 ひぐうっ、と、優がショックを受けている。

 そんなにショック受けなくてもいいんじゃないかな。学生なのにいきなり実戦は堪えるよ。

 アンナ校長が続ける。


「轟沢候補生、キミに関してはレイラ中尉の推薦もあって実戦で即戦力足りうると判断された」


 困った。

 あの時はずっとシミュレーターやってたせいもあって気分が高揚してたから出来たんであって、次は俺も優と変わらず何も出来ないかもしれないんだから。

 でもアンナ先生、それを許してくれる雰囲気じゃない・・・。


四一式よいちはドルゼ連邦軍と共同開発した、彼の国ではMT04Fラウアティガーと呼称される最新型のオクスタンだ。その国内ライセンスとなる四一式は先行してこの松本に三機配属されたばかりだ。一機は松本駐屯地で慣熟訓練に使用されるが、二機はアイングライツ戦技学校の自衛戦力として与えられることが正式に決まっている。そしてそのパイロットは実戦経験のあるキミたちが適任だと松本駐屯軍は判断したんだよ」


「学生に任せるって・・・。陽本軍は人手不足なんですか?」


「そういうわけではないよ。本来は三機とも我が校に練習機として配属する予定だったが、敵の襲来を受けて実戦力としての配備が決まったのでね。こういう形になった」


「ですが、一学生としては・・・」


「轟沢候補生」


「は、はい・・・」


 あれ、なんか、雰囲気がすごく重いぞ。

 嫌な流れだぞ?


「キミに関しては実はガメリカ合衆国軍からも圧力のようなものがあってね。留学ひきわたしを要請されているんだ」


「強制ですか!?」


「だから我が校としてはそれに対抗するために、キミに正式な階級を与えてレイラ中尉と共にアイングライツ戦技学校を守る正規の兵士として扱う事に決まったのだ」


 寝耳に水・・・。

 おいちょっとまって、十九才の卒業見込みでもない生徒を正規の軍人に仕立て上げるとか正気じゃないのでは・・・。


「キミが断った場合、レイラ中尉は原隊復帰する事になる。本校としてもキミを引き留めておける理由が無くなるから、キミもガメリカ海兵隊所属オクスタンパイロット訓練校に編入する事になる。二人は僚機として敵機を撃破しているからね。セットで欲しいのだろう」


「つまり・・・半ば強制的に決定事項という事ですかね・・・」


「なんとか引き受けてくれ。少尉待遇として、在校中は准尉になるのだが、正規の階級章も与えられる。階級持ちは格納庫への出入りも自由だ。もちろん笹凪候補生も同様だ。そして、当面はレイラ中尉直属の戦力として今後は戦ってもらう事になる」


「ザーシュゲインはどうされるのです? 動かせる生徒は出たわけですし」


「ザーシュゲインは戦力たり得ない」


「でも、この間は戦って・・・?」


「ザーシュゲインのAIナビゲーターが臨時措置として、橋詰候補生を暫定パイロットと選んだに過ぎない。ザーシュゲインはまだ、正式なパイロットを選定していない」


 マジか・・・。

 リアル恭太郎。さっさと成長してザーシュゲインのパイロットに選ばれろよな。次の規模がゲーム通りなら、一個小隊が、戦闘ポッド四機が相手になる。

 次も死ぬ目にあいたくないぞ・・・。

 これ以上話を聞いても、俺と優の新型専属パイロットはゆるぎなさそうなので、俺たちは渋々首を縦に振るしかなかった。

 他の生徒と揉める種にならなきゃいいんだが・・・。






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