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 起きました。

 もうオメメパッチリです。身体中痛いです。

 何ここ、ここ。どう見ても病院。


 えー・・・。


 まぁ・・・。


 あのビームの直撃くらって、よく生きてるな俺。

 オクスタンって頑丈なんだな。

 でも、パイロットスーツ無しでコクピットの中でシェイクされたおかげで、全身激痛ものですよ。

 そして、俺の右にベッドにしがみついて眠ってる女生徒は誰だろう。寝顔が超可愛い。

 まさかの笹凪。

 それは無いか。笹凪優也がデレるのは好感度が貯まる二年生の夏だからな。

 いや、まて?

 本当に笹凪か?

 髪型がポニテになってるけど。いや、まさかな。

 うーん・・・可愛い・・・困った。

 ちょっと大人な部分が大変な事になりそうなので頭を左に向けて少女を視界の外に出そうとすると、・・・杏香が俺の顔をじっと見つめてきてた・・・。


 ちょちょちょ、目、目が、見開いてる、怖い怖い。


「斗真。起きた?」


「エッ、ウン」


 おっと、杏香の表情が怖すぎて声が裏返ってしまった。

 杏香が近付いてくる。

 真顔で、

 目を見開いて。

 怖い怖い、近い近い近い!


 おでこがくっついて、


 ちゅ


 ・・・んん!?

 キスされた!?


「良かった。熱も無いみたい」


「え、うん・・・?」


「斗真」


「あ・・・はい・・・」


 杏香ってちょっと暴力的な所あるから、こういう雰囲気になると一層怖いんだが・・・。


「あたし、死ぬ所だったね」


「え、うー・・・。何故あんな所にいた?」


「斗真が悪いんだよ」


 なんでじゃーい・・・。

 てか、なんか杏香、発病してないかい?

 ヤンデレか? メンヘラか?

 目がおっかないよ?


「斗真は・・・」

「ん」


 あ、右の子が起きた。


「とうま?」


「あ、うん、」


 あ、本当に笹凪だ。

 優也じゃなくてデレた後の、笹凪優だ。


「お、おはよう、優・・・」


「うん。おはよ、とうま」


 チラッと杏香を見る。

 真顔だ。怖い。どうしてそうなった。

 もそっと、身体に女の子の身体が乗っかってくる。

 ちょちょ、優さんや、どうしちゃった!?

 キュッと俺に抱きつい、いててててっ。


 ちゅ


 キスされた!

 じゃなくて!


「いい、いてて・・・!」


「あ、ご、ごめんとうま。まだ身体痛いよね」


 そっとどいてくれる。

 何、この可愛い小動物。


「どいてくれる?」


 ふぁ!?

 杏香の声が怖い。


「なんで?」


 ちょ、優もちょっと怖い?

 あれちょっと・・・。なにこの展開・・・。


「斗真の看病はあたしがするから帰っていいよ」


「平気だよ。とうまの看病はぼくがするから。キミも大変でしょ帰っていいよ。普通科は授業あるんでしょ」


「帰れって言ったんだよ。この害虫」


「なに? キミがあそこに居なければ、とうまがこんなに怪我することもなかったんだよ?」


「あんたこそ、あんな大層なモノに乗ってて、何も出来なかったくせに!」


「キミも一緒だよね。さっさと逃げればいいのに戦場でうずくまって」


「五十歩百歩ね」

「そうだね五十歩百歩だね」


「あたしが残るから」


「キミは帰りなよ」


「あたし、彼と同棲してるから」


「別に関係があるわけじゃないんでしょ?」


「はっ、アンタは違うっての?」


「違うね。ぼくはとうまの彼女だから」


 ちょー・・・え、まって?

 いつから?

 それにいつあなたは女の子ってカミングアウトしましたかね?


「ね、とうま」


「あ、・・・ハイ」


「とうまは、ぼくのこと好き?」


 ちょちょちょ、この場面でか。

 いや、ちょっと、この状況はどうしたら正解なんでせう。


「斗真、あたしを裏切らないよね?」


 ええー・・・

 ちょっと〜・・・。


「とうま、ううん・・・。シロー」


「あ、うん・・・なに?」


 本名を言われて自然と優の顔を見つめる。

 

 ガンッ、と、ベッドの脚が多分杏香に蹴飛ばされた。


 びっくりしてそっちを見ようとするのを、優に両手で頬を挟まれて彼女の顔を見つめ続ける。


「橋詰志郎くん。ぼく、笹凪優は、キミのことが好きです。キミのお嫁さんになりたいです」


「え?え? えっと? 俺も、優の事が最初から好きでした・・・。え? ん? ええと? あー・・・、つ、付き合って下さい?」


「ぷっ、へんなの。なんで質問系なのかな」


 いや、わからんけど・・・。


「ざけんな!! 斗真とは、昔っからあたしが付き合ってんだよ! ポッと出の泥棒猫が!!」


「泥棒猫で結構だよ。キミこそ、記憶喪失なとうまを良い事に、なんでも思い通りに出来ると思わないでよ」


「なんだと!?」


「そもそも、彼は、轟沢斗真なの? 本当にそう?」


「何が言いてえんだ、このアバズレッ」


「轟沢斗真って、本当に生きてるの?」


「テメー・・・!」


 優が、すごく真剣な表情でまっすぐに杏香の顔を見つめている。

 杏香の方は焦りがある、冷や汗をかいている。


「ちょっと調べたんだ。轟沢さんって、今年の四月に事故で亡くなってるよね。一家全員」


 は!?

 え、そうなの?

 え、まったまった、この世界での俺の存在は?


「死んでるんだよ。オクスタンの研究員だった轟沢夫妻はハワイのオクスタン研究施設で、異星人の襲撃を受けて研究所ごと一家は死亡してるんだ」


「でっちあげよ!? 斗真は、旅行中の爆発事故で・・・!」

「何の爆発事故? どこで?」

「それは・・・!」

「異世界、ううん、パラレル世界から転移して来た志郎を、轟沢斗真として手元に置いておきたかったんだよね」

「違う・・・」

「だけどね、轟沢斗真っていう人は実はもう居ないんだよ」

「違う!!」

「ガメリカの極秘事項で、異星人がすでに何回か地球上に斥候を送ってきてて、ガメリカ軍が実は彼らと戦ってる、だからオクスタンの研究が世界で最も進んでいるっていうのは、口外したくない真実なんだ」

「いい加減にしろよ・・・」

「だから、轟沢一家の死因もただの事故になってる」

「やめろよ・・・」

「でも志郎は志郎なんだ。轟沢斗真じゃない。ましてやキミに独占する権利なんてない」


「お、おい、優・・・」


 ちょっとやばい感じがした。

 思わず優を止める。

 優はそんな不安そうにする俺に視線を落として、微笑んだ。


「でもね、志郎。ぼくもキミとは、轟沢斗真として出会ったんだ。本名はともあれ、ぼくの中でもキミはとうまなんだ。それは、許してくれるかな」


「許すも何も、この世界じゃあ俺は斗真だからな・・・。戸籍上は?」


 頑張って微笑むちょっと寂しそうな優。

 恐る恐る杏香を見ると、泣いていた。


「何でだよ・・・。なんであたしから斗真を取り上げるんだよ・・・。お前、何様だよ・・・!」


「戦友で、恋人だよ。ぼくもまだ臆病だけど、ぼくはとうまの隣に立ってるって決めたんだ。普通科に逃げたキミとは一緒じゃないんだよ」


「ふざけんなよ!!」


 杏香は激怒して、ベッドの脚を蹴り上げようとして空振りして、そのまま病室を飛び出して行ってしまった。

 追いかけるべきなんだろうけど、身体が動かないし、優がここにいるから俺は見送る事しかしなかった。

 優が寂しげに微笑む。


「とうまって酷いね。普通、この場面だと女の子を追いかけるんだよ?」


「それで、優は悪者になるんだな。でも追いかけない。そもそも身体が動かないし、俺は優の彼氏だからな」


「・・・本当にそう思ってくれてるの?」


「夢で、優をお嫁さんにしたいって言った気がする」


「・・・うん」


「アレ、ここだよね? 俺、意識が朦朧としてただけで、夢じゃないよね?」


「・・・うん、そうだよ」


「じゃあ、俺は優の彼氏だ。いや、彼氏にして下さい、好きです」


「バカだなもう・・・。ぼくも、とうまが好きです。一緒にいて下さい」


「あ、はい・・・」


 俺たちは、それからしばらく笑い合ってた。

 なんだか、ちょっと怖い時間だったけど、幸せな時間だ。

 ゲームの展開は知らんけど、優はいきなり、というか最初からデレてて、俺たちは付き合う事になるのだった。


 そして、ここは、あのゲームの世界によく似た現実の、パラレル世界だという可能性が出てきていた。


 レイラ先生が何食わぬ顔で入ってくる。


「ササナ、やりすぎだ。あの女、自殺するかもしれんぞ?」


「しませんよ。だって、まだとうまのこと諦めてませんもの」


 え!?

 そうなの!?

 いやだって、あの状況、俺完全に杏香のこと振ってるよね?


「そんな顔してもダメだよとうま。女の子ってね、執念深いんだから。身体で迫られても籠絡されちゃダメだからね、そしたらぼく、とうまの事背中から刺すから」

「怖いんだよないちいち!!」


「あはは、冗談だよ」


 きっつい・・・きっついわマジで・・・。

 オクスタンのパイロットとしても、男としても死なないように鍛えないといけないですね・・・怖い怖い・・・。


「私も貴様には興味がある。ガメリカへの留学の件、真剣に考えておけよ?」


 こ、怖い・・・怖い・・・。






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