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陽本軍の対応は迅速である。
敵の地球降下を確認して、予測到達地点を割り出す前に空軍はスクランブル体勢に入り、練馬基地のF4戦闘機四機、横浜基地ではF15戦闘機が四機離陸体制に入っていた。
他にも熊本基地、北海道基地でも周辺国であっても迎撃支援出来るよう戦闘機の発進準備が進んでいる。
赤坂、陽本軍統合本部。首相、芹崎幸弘総理大臣と統合幕僚長、大松剛大将が並んで円卓に座り情報を待っていた。
他にも閣僚数名と統幕将兵が円卓を囲む中、少し離れた壁際の大画面の下に並ぶ五人のオペレーターが矢継ぎ早に各基地との通信を繰り返す。
中央のオペレーターの女性が円卓を振り向いた。
「横浜基地早期警戒機より入電! 敵、落下地点は我が国、陽本と断定!」
「防空網を抜かれたのは、中欧軍でしたな。やられましたなコレは」
大松大将がポツリと言うと、芹崎総理は頭を抱える。
「陽本とガメリカが本海と太平洋の制海権を握っているのが気に入らないと、随分挑発的な軍艦運用をしていましたから。しかし、わざと敵を撃ち漏らすとは・・・」
「総理、今は政治の話をしている時ではありません。迎撃許可を」
「そうですね。幕僚長、戦闘機スクランブル、発見次第迎撃を行なってください」
「承知しました」
大松大将が立ち上がり、オペレーターに告げる。
「練馬、横浜の迎撃機スクランブル。発砲許可。敵を発見次第撃ち落とせ」
「了解! 練馬、横浜、聞こえますか・・・」
『スクランブル、スクランブル! 即時迎撃許可が降りた!』
『離陸離陸! 我が空軍の力を見せてやれ!』
『ゴーゴーゴーゴーゴー』
直ちに空へと上がっていくF4とF15戦闘機群。
八機の精鋭が異星人の戦闘ポッド迎撃に即時上がったが、不幸な事に地球への敵侵攻は今までになく、敵戦闘ポッドとの交戦経験はゼロで敵の能力は書類に目を通した程度しか無かった。
空に上がってすぐ敵機を捕らえ、マッハで加速して距離を詰めつつミサイルの照準を合わせていく。が、ロック完了と同時にロックが外れ僅かに隙を作ってしまう。
隊長機が統合本部に緊急通信を入れる。
『本部、本部、敵のロックに失敗。敵のステルス性能は情報以上と思われる。これより接敵しバルカンの斉射で撃墜する』
一度椅子に腰を落とした大松がハッとして再び立ち上がった。
「いかん! 戦闘機を下がらせろ! ドックファイトでは戦闘機では敵戦闘ポッドの相手にならん、逃げるんだ!!」
『本部、本部、敵戦闘ポッドに接敵、迎撃開始・・・な、なんだ、触手か!? うおおー』
ブツンと通信が切れる。
大松が力なく椅子に座り、静かな声でオペレーターに告げた。
「各基地の戦術砲兵隊に通達、対空戦闘に備えさせろ。全ての対空兵器を出して迎撃するんだ」
数十秒前。
陽本上空、迎撃機群。
大気圏を抜けた戦闘ポッドを四方から包囲してバルカン砲の照準を合わせた時、黒く丸い胴体から十本のフレキシブルスラスターを魚の尾のように引いた戦闘ポッドのフレキシブルスラスターのうち四本がウネウネと蠢き、接敵してくるF4とF15に狙いを定め、隊長機が目を見張った。
「本部、本部、敵戦闘ポッドに接敵、迎撃開始・・・な、なんだ、触手か!? うおおおおおお!?」
距離に構わずバルカンの斉射を行うが、飛距離が足りず重力に引かれて砲弾は海に落ちて行く。
触手の先端が、スラスター口のやや上あたりが煌めき、迎撃機群に向けて眩い光線が放たれた。
同時に八機の戦闘機が胴体を撃ち抜かれ、爆散する。
戦闘ポッドは鬱陶しい蚊でも落としたかのように、爆散する爆炎に見向きもせず目的地を目指してひたすらに飛び去って行った。
松本駐屯地。
司令の山田忠明大佐が対空高射砲を回し、なけなしの攻撃ヘリ四機を離陸させる。
基地司令部で指揮に当たっているところに、オペレーターの男性が振り向いて報告を上げた。
「敵の目標地点、ここではありません!」
「何? どこだと言うのだ。位置を割り出せ」
「目標地点は、アイングライツ戦技学校」
「てっきり納入したばかりの新型オクスタンを狙ってきたかと思ったが・・・。いや、あそこには特戦機があったか?」
「特戦機ザーシュゲインは最終調整に入っていますが・・・、パイロットはまだ選出されておりません」
「稼働前に沈めるつもりか・・・」
「いかが致しましょう」
「誘導弾は敵のステルスを超えられん。高射砲での直接攻撃しか敵わぬ以上、ヘリを出しても無駄に撃墜されるだけだ。対空兵装を持たせた煌角は何機用意できている」
「現在三機が出撃可能です」
「輸送トレーラーに乗せてアイングライツに送れ。間に合うとは思えんが・・・」
「了解しました。・・・オクスタン搭乗員各員、オクスタン搭乗員各員、対空兵装にて専用トレーラーでアイングライツ戦技学校へ向かえ。敵の目標は・・・」