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宇宙、月軌道。
彼方から地球に高速で接近する光源を睨む艦隊がいる。
中欧民国宙軍、宇宙戦艦1、宇宙巡洋艦2、宇宙空母1からなる四隻の宇宙艦。
宇宙巡洋艦が主砲のビームを三斉射するも、擦りもしない。それは威嚇射撃であった。
艦橋。
「威嚇射撃終了。敵、進路変わらず」
オペレーターの報告を聞いて、エン・ザオマ中佐は苦々しく顔を歪めた。
「異星人どもめ、我らの攻撃など取るに足らんと言うことか。オクスタン緊急発進、敵の進路に展開、これを迎撃せよ」
「旗艦、宇宙戦艦コリオウより入電。敵、進路は陽本と判明。全艦攻撃停止せよ」
関係ないから見逃せ。
そのような政治的判断に、エン中佐は憤りを覚えて命令を無視した。
「防空網を抜かれたら、我が軍の能力を各国に疑われるのだ。陽本といえど民間人もいる。敵を見逃す理由にはならないオクスタン発進を急がせろ!」
オペレーターが振り向く。
「旗艦コリオウより入電、ギ少将です!」
嫌な上官だ、と、エンが苦虫を噛み潰した顔をした。
「・・・」苦悶の顔で堪える「メインモニターに出せ」
「モニター、出ます」
艦橋の正面、宇宙を見渡せる窓の上の大きな画面に、痩せ型の目が異様に大きく見える不健康そうな将官が映し出されてエンを見下ろす。
エン中佐は目に不満の色をたたえたまま敬礼して言った。
「艦隊司令殿」
『エン中佐。直ちにオクスタンの発艦作業を中止したまえ。他の僚艦は戦闘行為をすでに中断している』
「お言葉ですがギ少将。ここで敵の地球降下を許しては、我が国の威信に傷が付きます」
『たった一機だ。どうにでもなる』
「中欧七千年の歴史に泥を塗れと!? 地球に行かせたら民間人に犠牲が出る!」
『陽本人に、な』
「司令!?」
『陽本のサルが多少死のうが問題ない。コレであの島国も、遠い大陸の同盟国より、隣国の我が中欧民国の傘下に入る事こそ正しい道だと模索するだろう』
「異星人との戦争に政治を持ち込むのか!? ギ少将!!」
『中央議会の決定だ。頭を冷やせエン中佐』
「!?」
(本国は何を考えている! 侵略者との戦争に、未だ地球は一つなれないというのか・・・!!)
『エン中佐?』
有無を言わせぬ余裕じみた艦隊司令、ギ少将の念押しに、本国の議会をチラつかされてエン中佐は渋々首を縦に振った。
「了解しました・・・。オクスタン発艦は中止。僚艦合わせて当該宙域より離脱します・・・!」
悔しそうな配下の敬礼を見てげひた笑みを浮かべるギ少将。
『それでいい。地球の支配者は、我が中欧民国でなければならんのだからな?』
通信が切れる。
エン中佐は制帽を右手で掴むと床に思い切り叩きつけた。
「くそう!! 他国に落ちる分には問題ないなどと!!」
オペレーターが心配そうに振り向き、報告する。
「艦長、侵入コースより算出された落下地点は確かに陽本です・・・」
「だからどうした! 同じ地球人だぞ!?」
「も、申し訳ありません・・・」
敵を示すビーコンが、レーダー上のレッドラインを越えて地球降下軌道へ入る。
オペレーターが寂しそうに呟いた。
「・・・最終防衛ライン、突破・・・。敵戦闘ポッド、陽本への侵入コースに乗りました・・・」
「最早、我らに出来ることは無い。陽本の空戦隊が如何に優秀でも、アレの機動性にはついていけまい。撃墜を成すまでに、何人の犠牲が出るのか・・・」
(それに、たった一機とはいえ地球まで侵入を許すとは・・・。木星軌道上の地球連合艦隊は何をしているのだ・・・)
悠然と大気圏を降りていく敵の、摩擦の赤い光を遠く眺めて、エン中佐は辛そうに見送る事しか出来なかった。
アイングライツ戦技学校、地下格納庫。
虎を想起させる頭部が特徴的な、シャープなデザインの青い基調に黄色いラインの入ったオクスタンの兵装を点検していたレイラの腕時計型通信機に通信が入る。
「レイラです」
『ガメリカ陽本駐留艦隊のエドワードだ』
「艦隊司令殿? どうなさったんですエドワード大佐」
『中欧民国の艦隊が敵を撃ち漏らした。敵の戦闘ポッドが陽本に向けて降下中だ』
「チッ、これだから・・・。また政治的判断というやつですか」
『奴らもデータが欲しいのだろう。陽本特有の、スーパーロボットっという戦力の』
「スーパーロボットなど、ただデカいだけの金食い虫でしょうに。専用の整備施設も。一機維持するのに艦艇一隻分の・・・。ちょっと待ってください、陽本のスーパーロボットは今、全て外縁防衛ラインに送られているのでは!?」
『敵の降下予測ポイントは、ソコだ』
「なんて事を・・・。ここにいるのは学生たちなんですよ!?」
『その学生を動員して迎撃せよ。陽本内陸では本艦もようよう手出しが出来ん』
「中欧の愚か者どもめ!!」
『時間が無い、レイラ中尉』
「了解しました。直ちに迎撃準備に入ります・・・!」
シミュレーター8戦目。
俺と優のバトルは市街地戦を選んでガンガンに打ち合っていた。
建物を盾に戦闘を進める俺に対して、優は建物ごと俺を薙ぎ払おうと平気で肩のキャノンを水平射撃してくるので、息を吐く暇がない!
「おいちょっと優! ちょっとは民間人をいたわれよ!?」
『あれあれえ、どしたのかなあ? 第一コレはシミュレーターだから人なんかいないんですよーだ』
「きったねえの!?」
『勝ったもん勝ちでーす』
言い合いながらもお互いに楽しそうにキャノンを、右手に持ったライフルを撃ち合う。
高度にジャンプして、射線から優の位置を割り出した俺が断続的にライフルを叩き込むと優の悲鳴が聞こえた。
『うわわわわ!? 見つかったあ!?』
「そんだけ無茶苦茶に撃ってれば、位置もバレバレだっつの!」
バチンッと、急にシミュレーターの電源が落ちた。
うお、まさか、訓練用の装置で遊んでたのが他の先生にバレたか!?
慌ててシミュレーターのポッドから出ると、同じく出てきた優がキョトンとした目で俺を見つめてくる。
次に、明るかった室内灯が落ちて壁の随所に付けられたオレンジ色の緊急灯が回転し出して俺たちは何かまずい事をしたかと青ざめていた。
優が駆け寄ってきて俺の胸に飛び込んでくる。
「ちょ、とうま、コレまずいやつ?」
「い、いや、だってレイラ先生から許可ももらってたし?」
トドメに来たのは、遠く聞こえる街のサイレンだった。
ウーウー・・・ゥゥゥウウウウウウウウウウウウウ!!
「空襲警報!? なんで!?」
「とうま・・・」
格納庫の奥、大型エレベーターが動いた。
重々しく隔壁が開き、青いシャープなデザインのオクスタンが砲身の長い重ライフルを両手に抱えて姿を現し俺たちに向かって外部音声で命令してくる。
『貴様等! さっさと奥のオクスタンに乗れ!!』
「れ、レイラ先生!?」
驚く優。
俺も優の肩を掴んで引き離すと、何をすればいいか分からず聞いてしまった。
「お、奥のオクスタンに乗れって、なんなんです!?」
『敵襲だ馬鹿者! 奥の二機は常にスクランブル出来るよう調整されている、生き残りたかったらさっさと乗り込め!!』
まてまてまて・・・。
え、まって?
最初の敵襲は夏休み明けだよね・・・。
まだ全然先のはずなのに、この展開。コレ、俺、生き残れるのか・・・?




