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祓い屋霧斗  作者: さち
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半人半妖・第5話

 3人が早瀬家に移動すると、蓮がコーヒーをいれてくれた。

「それで、桂は…」

「桂という妖狐はすでに亡くなっています。おそらく、蓮くんを産んですぐだと思います」

「母は、仲間だった妖狐に殺されたんですか?」

表情を変えずに尋ねる蓮に霧斗はうなずいた。

「あの木が見ていた。桂さんが産まれたばかりの赤子を抱いて森を出ていく姿と、手ぶらで帰ってきた姿。そして、仲間の妖狐に殺される姿を」

「彼女は、俺が関わったせいで死んだんですか?」

「あなたのせいではないでしょう。あの妖狐の一族は他の血が入ることを許さない。他の種との交流ですら疎んじているようでした。桂さんはそれをわかったうえであなたと関わったのだと思いますよ」

霧斗の言葉に徹は悲しそうな顔をして目を臥せた。

「とりあえず、あの妖狐たちが蓮くんの存在を知って放置するのか、一族の汚点として消しにくるのか、その辺を警戒しないといけませんね」

「っ!」

蓮を消しにくるという言葉に徹がハッとして顔をあげる。愛した女性はすでに亡くとも、愛した女性が命がけで託した子を守る。無為に悲しんでいる暇はなかった。

「俺が世話になっている術師の組織があります。そちらに少し情報を提供してもいいですか?もしかしたら有用な情報を得られるかもしれません」

「蓮に危険が及ばないのであれば」

徹がそう言ってうなずくと霧斗は「危険はないと約束します」とうなうずいた。

「そちらのほうは少し時間がかかるかもしれないので後日改めてご報告します。とりあえず、ふたりはこの札を肌身話さず持ち歩いてください」

霧斗がそう言って差し出したのは護符だった。

「これは?」

「これは悪意あるものを弾きます。それでも危害を加えられそうになったら結界を張ります。そして俺にも危険が迫っていることがわかります」

「すごいんですね」

霧斗の説明に蓮が興味深そうに札を手にとる。徹も恐る恐るといった様子で札を手にした。

「蓮くんは結界とか札とかに興味があるの?」

「そうですね。僕も作れれば、父さんを守れるのになって思います」

蓮がそう言って微笑むと、徹は驚いた顔をしながらもにこりと笑った。

「気持ちは嬉しいが、もう少しだけ俺がお前を守りたいな」

その言葉に蓮もはにかむような笑顔になる。笑い合う親子に霧斗は眩しそうに目を細めた。


 夕方、晴樹のアパートに戻ってきた霧斗はスマホを出すと高梨の番号を押した。

「もしもし?」

数コールのうちに高梨が電話に出る。霧斗は今大丈夫か確認して早瀬親子のことを話した。

「護星会に妖狐の術師なんていたりしませんか?蓮くんは半妖ですから寿命は人間より長いし、老化もゆっくりです。これからの生き方を相談できるようなひとがいればと思うんですが?」

「わかりました。護星会の所属ではありませんが、私がサポート契約させていただいている方に妖狐の方がいます。その方に連絡をとってみましょう」

「ありがとうございます。その妖狐はフリーの術師なんですか?」

護星会の所属ではないということに多少驚きながら霧斗が尋ねると、高梨は「人間の枠にはめられることを嫌う方ですから」と言った。

「普段は人間に紛れて生活している方ですから、色々と参考になるかと思います。連絡がとれらたまたこちらから連絡しますので」

「お願いします」

高梨の言葉にうなずいて霧斗は電話を切った。

「ずいぶんあの親子を気にかけるのだな?」

電話を終えてホッと息を吐いた霧斗に声をかけたのは影から上半身を出した青桐だった。

「自分の境遇と重ねたか?」

「まさか。ただ、ああいう父親を理想の父親というんだろうなと思っただけだよ。それに、蓮くんは力の使い方を学んだ方がいい。おそらく潜在的な力はそうとう強いだろう。暴走すれば、身近な人を巻き込みかねない」

霧斗はそう言うとベッドに座った。

「青桐はあの子をどう思う?」

「あれは人より我らに近い。人間の世に未練がないなら、早々に妖の世界に引き入れてやるべきだ」

「だが、半妖では肩身は狭いだろうな。だからこそ母親は人間である父親に託したんだろうし」

霧斗の言葉に青桐は神妙な顔でうなずいた。

「あとは高梨が連絡をとると言っていた妖狐がどのような者であるかだな。半端なものでないといいな」

「そうだね。できれば、徹さんがいなくなっても蓮くんの力になってくれるひとだといいな」

人間である徹はあと数十年で寿命を迎える。その後、ひとり残された蓮のよき理解者となり、支えとなってくれるようなら安心できる。そう思いながら霧斗はベッドに寝転んだ。

 そのまま眠ってしまった霧斗を青桐は半ば呆れたように見下ろした。自分のことには頓着せず他者ばかり気に掛ける。いくら霧斗が力の強い術師でも人間だ。あっという間に寿命はくる。他者のことばかり気にかけず、たまには自分のことにも頓着したらいいだろうと思いながら青桐は霧斗の影に戻った。

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