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祓い屋霧斗  作者: さち
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人喰い鬼・第8話

 午後3時。約束の時間に警察署に行くと、すでに百瀬と小関が待っていた。

「お待たせしました」

「いいえ。私たちも今きたところよ」

百瀬がにこりと笑うとちょうど一ノ瀬が階段をおりてくる。3人は一ノ瀬の案内で捜査一課のある階に向かった。

「一応基本的には部外者に見せられない資料なんで、俺ともうひとり刑事が立ち会いますがいいですか?」

「もちろんです。無理をいっているのはこっちですから」

霧斗がうなずくと一ノ瀬は安心したような顔をした。

 一ノ瀬が案内してきたのは少し小さい会議室のような部屋だった。中に入るとテーブルにはいくつかのファイルがあり、中年のいかにも頑固親父といった顔つきのスーツ姿の男性がいた。

「きみたちが上層部が依頼したという怪しい組織の人間か?若いな」

正直な感想を口にする男に一ノ瀬が慌て、霧斗たちは苦笑いした。

「はじめまして。小峯といいます。俺は組織の人間ではないのですが、組織経由で依頼を受けました」

「私は百瀬です。その怪しい組織に所属してます。彼は小関。彼は組織に所属していないし、今回は見学が主です」

それぞれが自己紹介すると、少し驚いたような顔をした男が口を開いた。

「捜査一課の高田だ。今回の事件は不可解なことが多すぎるが、まさかオカルトみたいな話になるとは思わなかった。ちなみに、その手の話は信用していないが、今回ばかりは信じてみたくなる」

「なるほど。こればかりは縁のない人には一生涯縁のない話ですからね。とりあえず、資料は見てもいいんでしょうか?」

見た目どおり厳しそうだが、頭が固すぎるわけではなさそうな高田に霧斗は好印象を持った。それは百瀬も同じだったようで、高田がうなずくと礼を言ってから資料のファイルに手をのばしていた。

「ふうん。遺体の写真はやっぱり見ておくべきよね」

被害者たちの遺体を見た百瀬が呟く。霧斗もそれには同感だった。どれほど詳細な話を聞いていても、見ると聞くでは全く違った。

「確かに、これは人間業ではありませんね。一ノ瀬さんの上司はこれを見てもまだ犯人は人間だと思っているんですよね?」

「そうですね。重機とか使えばできるんじゃないかと。そんな痕跡はなかったんですけどね」

一ノ瀬が疲れたように言うのを見るに、その上司には何度か困らされているのだろうと思えた。

「あんたたちから見て、この遺体はどうだ?」

「文字通り、引きちぎったんでしょうね。手っ取り早く空腹を満たして力を得るにはやはり肝を狙うのがよかったんでしょうね」

「肝っていうのは妖たちにとってごちそうなのよ。人間も動物の肝を漢方薬にしたりするでしょ?あんな感じよ」

百瀬がわかりやすく説明するのを一ノ瀬と高田、小関はなんとも言えない表情で見ていた。

「数日間隔で動いているから、今日あたり動きがあるかもしれないですね」

「そうね。たぶん、もうこの町は出てるでしょうね。地図はあるかしら?」

百瀬の言葉で一ノ瀬が近隣の市町村も入った地図を出す。百瀬は地図に鬼が封じられていた神社と事件が起きた場所にチェックを入れた。

「…隣町に移動している?」

地図を見た高田が首をかしげる。百瀬はうなずくと苦い表情を浮かべた。

「隣町には私たちが住んでるわ。他にも、術師が数人いる。餌場にするにはうってつけね」

「うちの居候もそう言ってました。そして、恐らくこの鬼は人間を支配したいのだろうとも」

「支配?」

霧斗の言葉に首をかしげたのは小関だった。

「支配して、どうするんですか?」

「とりあえず食糧には困らないだろうな。昔話とかにあるだろう?鬼が村や町を恐怖で支配し、生け贄を要求していたとか」

「確かに…」

小関は納得したように呟くと苦い表情を浮かべた。

「でも、目的がわかっても姿を現す場所はわからないわ。どうするの?」

何か策はあるのかと尋ねる百瀬に霧斗は険しい表情を浮かべた。

「こういうやり方は好きじゃありませんが、囮で誘き寄せるのが確実かと」

「囮、ですか?」

不安そうな顔をする一ノ瀬にうなずいて霧斗は小関に目を向けた。

「囮は力がなくてはいけない。でも、俺や百瀬さんは術師だから、警戒される可能性がある」

「囮には俺が適任、ということですね?」

霧斗の意図をくんだ小関が言う。霧斗がうなずくと百瀬はため息をついた。

「現状、それが最善ね」

「待ってください!それじゃあ、小関さんが危険なのでは!?」

声をあげたのは一ノ瀬だった。一ノ瀬の言葉に霧斗と百瀬は顔を見合わせた。

「小関くんは守りの術が使えるんでしょう?」

「それなら、強力な結界を張れる小関さんを囮にしたほうがリスクはいくらか低いでしょう」

百瀬と霧斗の言葉に一ノ瀬がまだ何か言いたそうな顔をするのを、小関自身が止めた。

「俺が役にたつなら、俺にできることがあるなら、やりたいです。それに、たぶん高藤さんはこうなることを見越して俺を同行させたんだと思うし」

「確かに、高藤さんならやりそうだ」

小関の言葉に霧斗が苦笑し百瀬が肩をすくめる。小関自身がやると言ったことで一ノ瀬はそれ以上は止めなかった。

「俺も一緒にいるのはやはり足手まといですか?」

「そうね。できればこれ以降の同行はしてほしくないわ」

百瀬の言葉に一ノ瀬は悔しそうな顔をした。

「わかりました。しかし、俺も仕事なので、上司に言わないといけません。たぶん、何がなんでもついていけと言われるような気がしますが」

「それには同意するな」

苦笑しながら言う高田に一ノ瀬は乾いた笑みを浮かべ、霧斗と百瀬は呆れたようなため息をついた。

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