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祓い屋霧斗  作者: さち
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人喰い鬼・第3話

 楓も連れてアパートに帰ると晴樹はウキウキとキッチンに向かった。

「楓ちゃん、ご飯の準備するから好きに寛いでね?」

「わかった」

うなずいた楓が何気なくテレビに目を向ける。それに気づいた霧斗がテレビをつけると、ちょうど連続猟奇殺人のニュースをしていた。今まで人伝にしかニュースを聞いていなかった楓が興味深そうにニュースを見る。霧斗もニュースを見ていたが、スマホが着信を知らせる音を出すと部屋に入った。


「もしもし?」

「高梨です。夜分に失礼します。今、お時間いただけますか?」

電話の相手は高梨だった。霧斗が大丈夫だと伝えると、高梨は依頼したい仕事があるのだと言った。

「警察のほうから、護星会に依頼がありました。連続猟奇殺人のニュースはご存知ですか?」

「ええ。ニュースでやってますし、店のお客さんたちの話題にもなってますから。警察から依頼ということは、捜査が行き詰まったんですか?」

「そのようです。司法解剖の結果、遺体の四肢はまるで引きちぎられたようで、人間が素手で行うのは無理だという結論になったようです」

高梨の話に霧斗はそうだろうなと思った。報道を見ていても人間がやったとは思えない惨状で、鬼に喰われたと言い出すコメンテーターもいるほどだった。

「護星会への依頼をなぜ俺に?護星会にも優秀な術師はたくさんいると思いますが」

「高藤さまの推薦です。霧斗さんと小関さん、あと百瀬さんで調査をしてほしいと」

高梨の言葉に霧斗に黙り込んだ。小関は妖を祓いまくっていた素人術師で霧斗が伯父に預け、そこから高藤の弟子になったと聞いていた。百瀬は以前同じ依頼を受けたことがあった。

「…霧斗さん?」

黙り込んだ霧斗に高梨が心配そうに呼び掛ける。霧斗はため息をつくと「わかりました」と言った。

「高藤さんからの話じゃどうせ断れないし。いいですよ。それで、俺はどう動いたらいいですか?」

「とりあえず明日、顔合わせをしたいのですが、高藤さまも同席されるということで、そちらのお店をご希望です」

「どうして高藤さんが直々に?依頼主は警察でしょう?」

仕事からは引退したと言っている高藤が表に出てくることは珍しい。しかも、現場である隣町でと言うならまだしも、常連として通っているカフェでとは普段なら考えられなかった。

「どうやらそちらで働いている毛倡妓が気になるようで」

「楓が?そういえば、高藤さんは楓が居ついてからきたことがなかったな」

「はい。店に迷惑はかけないからとおっしゃっていました」

申し訳なさそうな高梨の声に霧斗はため息をついた。

「わかりました。晴樹さんに話しておきます」

「ありがとうございます。では、明日16時にそちらにお伺いします」

心底ホッとしたように明るい声で言って高梨は通話を切った。高梨とは対照的に霧斗は重いため息をつくとリビングに戻った。


「きりちゃん、夕飯できたけど、仕事?」

「仕事の電話でしたけど、今日は出掛けませんよ。夕飯いただきます」

心配そうに声をかけてきた晴樹に言って食卓につく。テーブルにはいい匂いのするカレーライスとサラダ、玉子スープが並んでいた。

「楓ちゃんも遠慮しないでたくさん食べてね?」

「ああ。ハルの料理は美味いから楽しみだ」

楓の言葉に嬉しそうに笑った晴樹が「いただきます」と言うのに合わせてふたりも手を合わせて食事を始めた。

「ハル、明日は霧斗は休みなようだぞ?」

「あら、そうなの?」

カレーを食べていた霧斗は楓の突然の言葉に危うき口の中身を吹き出しそうになった。

「お前、聞いていたのか?」

「まあな。部屋に入る際のお前の顔が気になった」

悪びれもせずに言う楓に霧斗はため息をついた。

「食事中にする話じゃないですが、今話題の事件で依頼があったそうです。それで、高藤さんが俺と他2名を指名したそうで、明日晴樹さんの店で顔合わせをしたいそうです」

「うちで?別にいいけど、珍しいわね?」

霧斗でさえ外からの依頼の話をするのに店を使ったことはない。だから珍しいと不思議そうな顔をする晴樹に霧斗は肩をすくめた。

「高藤さんも来るそうで、楓を見たいみたいですよ。それに、今は高藤さんの弟子になってる小関さんも来るそうなので」

「ほう?あの見境なく祓いまくっていた男か。どれほどのものになったか楽しみだな?」

危うく自分も祓われかけた男の名に楓の目が鋭くなる。霧斗は「今の楓なら小関さんにも見えるだろうな」と苦笑した。

「小関さんは確か見えなかったのよね?そういうのって修行したりすると見えるようになるものなの?」

晴樹の質問に霧斗は曖昧な顔をして首を振った。

「基本的には修行でどうこうというのはないと思います。ただ、何かきっかけがあって見えるようになることはあるでしょうが」

「きっかけ?」

「手っ取り早いのは死にかけることだな」

楓の答えに晴樹が驚いた顔をする。霧斗は苦笑しながらもうなずいた。

「言い方はあれですけど、そういうことです。臨死体験した人が霊能力に目覚めた、というのを時々テレビで見るでしょう?あれと同じことですよ」

「なるほど。でも、あまり経験したくはないわね」

「安心しろ。ハルがそんなめに合う前に私が助けてやる」

微妙な顔をする晴樹に楓がさも当たり前のように言う。晴樹はそれを聞いて嬉しそうな顔をしていたが、霧斗はよくまあここまで毛倡妓が懐いたものだと感心していた。

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