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祓い屋霧斗  作者: さち
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髪が伸びる雛人形・第4話

 翌日、霧斗は毛倡妓が入ったウサギを持ってアパートを出るとそのまま依頼主の家に向かった。

 昨夜遅く、高梨から霧斗に連絡があった。妖を祓いまくっている人間について、それらしき人物がいるということがわかった。その人物は目的は不明だが、確かに時々ふらりと妖を祓いまくっていた。だが、接触を試みようにも近づこうとすればふらりと姿を消してしまっていまだに詳しいことはわかっていないとのことだった。


 霧斗は依頼人の家に行くと預かっていた男雛を返した。

「もう髪が伸びたりするようなことはないと思います」

「本当ですか?ありがとうございます」

「一応数日は様子を見てください。俺のほうから確認の連絡を入れさせてもらいます」

霧斗の言葉に和子と美紀子は安心したように微笑んだ。

「今まで大事にされてきた人形です。できればこれからも大事にしてあげてください」

「はい。こんなことがあって気味悪いって思ったけど、やっぱり思い出が詰まった大切な人形ですから」

美紀子の言葉に霧斗は安心したようにうなずいて依頼人の家を後にした。

「さて、本題はここからだな」

依頼自体は毛倡妓が男雛から抜けた時点で解決している。残る問題は毛倡妓をここまで弱らせたもの。妖を祓いまくっている人物だった。

「毛倡妓、お前が襲われた場所はどこだ?」

『公園だ。公園の木の上で休んでいたらふらりとやって来て突然祓いだした。あそこにいた他のものは祓われたかもしれない』

霧斗は眉間に皺を寄せながら毛倡妓が言う公園を探した。

『ここだ』

毛倡妓の言葉で足を止める。そこは人気のない静かな公園だった。遊具はブランコだけ。そんな公園の中央に立っている男がいた。

『あの男だ!』

男を見た毛倡妓が叫ぶ。霧斗は毛倡妓を落ち着かせると何気ない足取りで男に近づいた。

「こんにちは」

霧斗が声をかけると男が不審そうな目を向けた。男は20代前半に見えた。前髪が長く目を隠している。全体的に細身の男は声をかけられるとビクッと反応して顔を上げた。

「…だれ?」

「小峯霧斗。フリーの祓い屋をしてる」

「祓い屋?」

霧斗の言葉に男が首をかしげる。その反応に霧斗も首をかしげた。

「あなたも祓い屋じゃないのか?ここら辺の妖を祓いまくってるって聞いたけど」

「あ、いえ、その…」

霧斗の言葉に男がおどおどとうつくむいた。

「俺は、見えるわけじゃ、ないから…」

「見えない?見えないのに祓ってるの?」

「気配は、するから。それが嫌で…」

「すごいな。術は誰に?」

霧斗が尋ねると、男は「自己流…」と言った。

「古文書とか、読むの好きで…。それで見つけて、試しに…」

「はあ…書物を読んだだけで祓えるとか、すごいな。きっと才能はあるんだな」

霧斗はそう言うと少し考えた。

「今、俺のそばに妖がふたりいるけど、わかる?」

霧斗の問いに男はこくりとうなずいた。

「ひとりは俺の式神。もうひとりはここであなたに祓われそうになった妖だ。俺は祓い屋だけど、基本人間に害がないのは放っておいてる。あなたが祓いまくるのは気配が嫌だからか?」

「そう。俺は、気配はわかるけど、見えない。だから、見えない気配が怖い…」

男の言い分はわからないでもなかった。目に見えない強い気配は確かに恐怖だろうと思った。だが、妖からしたら見境なく祓いまくるこの男のほうが恐怖の対象なのだ。

「とりあえず、術の使い方とか、色々学んだほうがいいと思うんだけど?」

「どこで?俺、金もないし、身寄りもないんだけど」

男の言葉に霧斗は少し考えた。

「仕事は?それとも学生かな?」

「学生じゃない。前は大学通ってたけど、授業料払えなくて辞めた。今はバイトしながら食いつないでる」

「ん~、バイトしながら術のこととか学べるところがあったら行く?」

霧斗の言葉に初めて男がハッとしたように顔を上げた。それを見た霧斗はにこりと笑うと自分の名刺を差し出した。

「これ、俺の名刺。隣の県に住んでるんだけど、今からこれる?」

名刺を受け取った男はうなずくと「小関翔」と名乗った。

 霧斗は小関を連れてとりあえず春樹のカフェに行った。

「ただいま」

「あら、おかえり。そっちの人は?」

ちょうどカウンターにいた春樹が小関を見て首をかしげる。霧斗は「妖祓いまくってた人です」と言うと春樹は納得したように笑った。

「春樹さん、俺の奢りでこの人に何か出してあげて」

霧斗はそう言って小関をカウンターに座らせるとスマホを持って奥の事務室に入っていった。

「甘いものは好きかしら?」

ひとり残された小関に春樹が声をかける。小関はおどおどしながらもうなずいた。小関の様子に苦笑しながら春樹がコーヒーとケーキを出してやる。小関は目を丸くしてそれを見ると春樹を見上げた。

「きりちゃんの奢りだそうだから、遠慮なく召し上がれ」

「い、いただきます…」

春樹の言葉に促されて小関がケーキを一口食べる。小関は「美味しい…」と呟くとケーキとコーヒーをあっという間に平らげた。

「あなた、普段ちゃんと食べてる?」

「えっと、金があんまりなくて…」

心配そうな春樹にうつむいて答える。小関は自分は運に見放されているのだと言った。

「大学入って、好きな考古学の勉強をしてたけど、実家が火事になって両親もその火事で。俺がぼやっとしてる間に保険金とかは親戚が持ってっちゃって、あっという間に無一文です。授業料払えないから大学も辞めて、どうにかボロアパート借りてバイトをしながら生活してました」

「大変だったわね」

小関の話を聞いた春樹は今度はケーキではなくサンドイッチを出してやった。

「これはあたしの奢り。気にしないで食べて?」

「っ、ありがとうございます」

久しぶりに人の優しさに触れた小関は深く頭を下げてサンドイッチを食べた。

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