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祓い屋霧斗  作者: さち
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年始の挨拶

 三が日をすぎたころ、霧斗はカフェの定休日に小峰神社を訪れた。結局元旦にはろくに挨拶もできなかったこともあり、晴樹と一緒に挨拶に行くことにしたのだ。

「やっときりちゃんが小峰神社に連れていってくれると思うと嬉しいわあ」

ゆっくり歩きながら晴樹がクスクス笑って言う。その言葉に隣を歩く霧斗は肩をすくめた。

 今まで霧斗が晴樹を小峰神社に連れていったことはなかった。お互いいい大人だからと普段は互いに干渉しすぎないふたりだが、それでも霧斗が実家ともいえる場所に一緒に行こうと言ってくれるのは嬉しかった。

「ここですよ」

神社の鳥居の前について霧斗が足を止める。晴樹は大きな石造りの鳥居を見るとほうっと息を吐いた。

「さすがきりちゃんの伯父さんの家って感じね。神聖な空気だわ」

晴樹の言葉に霧斗はうなずいた。この神社の宮司である和真は霧斗よりも強い力を持っている。その和真が管理するこの神社は常に清浄な空気に満ちていた。

「青桐ちゃんはこの中に入っても大丈夫なの?」

「青桐は俺と契約してるから大丈夫。でもそこら辺の弱い妖は近づいただけで祓われるかもね」

霧斗はそう言うと神社に向けて軽く会釈してから鳥居をくぐった。晴樹も霧斗に続いて鳥居をくぐる。ふたりはそのまま社殿に行ってお参りをする。霧斗が社務所に行こうとすると、ちょうど和真が歩いてくるのが見えた。

「和真さん、こんにちは」

「霧斗、よくきたね。そちらは?」

霧斗が挨拶すると和真が微笑む。霧斗は晴樹を雇い主兼家主と紹介した。

「はじめまして。橘晴樹です。カフェのオーナーをしています。霧斗さんにはいつもお世話になっています」

「あなたが晴樹さんでしたか。私は小峰神社の宮司の小峰和真です。霧斗がいつもお世話になっています」

挨拶がすむと和真はふたりを住居のほうに招いた。

「和真さん、仕事は大丈夫ですか?」

「今日は平日だし祈祷の依頼はきていないから大丈夫だよ。社務所には香澄もいる」

「なら良かったです」

和真の言葉に霧斗が安心したように言う。和真は相変わらず自分の負担にならないようにしようとする霧斗に苦笑しながら玄関を開けた。

「雪菜、霧斗が晴樹さんを連れてきてくれたよ」

和真が玄関で声をかけるとパタパタと軽い足音を立てて雪菜がやってきた。

「あらあらまあまあ!いらっしゃいませ!」

「お邪魔します。橘晴樹といいます」

「小峰雪菜と申します。息子がお世話になっております」

挨拶をして頭を下げる晴樹に雪菜も挨拶を返す。霧斗のことを息子と言う雪菜に晴樹は驚きながらも嬉しそうに微笑んだ。

「霧斗さんからお話は聞いていましたけど、本当に可愛らしいお母さまですね」

「あら、嬉しいわあ」

晴樹の言葉に嬉しそうに笑いながら雪菜は「上がってください」と声をかけた。

「雪菜さん、早月さんは?」

「居間にいるわ。あれからうちでゆっくりしてもらってね、この前病院に行ったら少しくらいは動いても大丈夫だって」

「そうですか」

雪菜の話に霧斗は安心した表情を浮かべた。

「さ、こちらにどうぞ」

和真が晴樹と霧斗を居間に案内する。居間に行くと早月が所在なげ座っていた。

「あ、霧斗さん。この前はありがとうございました」

霧斗に気づいた早月がパッと表情を和らげて礼を言う。霧斗は前よりずっと明るい様子に安心したように微笑んだ。

「いえ、大事に至らずよかったです。俺はただ雪菜さんに知らせただけですし」

「だが、お前が気づかなければ、私が戻るまで手伝いをさせられていただろう。そうなれば、手遅れになっていたかもしれない。お前が気づいてくれてよかったよ」

和真の言葉に早月もうなずく。霧斗は困ったように笑いながら頬を掻いた。

「きりちゃんはこういうお礼を言われ慣れてないのよね?」

クスクス笑いながら晴樹が言うと、霧斗は「どう答えていいかわかりません」と苦笑した。


 雪菜が茶をいれて居間にくると早月は部屋に戻っていき、4人で取り留めもない話をした。和真と雪菜は霧斗のカフェでの様子を聞きたがったし、晴樹は霧斗の子どもの頃の話を聞きたがった。とうの霧斗は居たたまれない様子で黙って3人の話を聞いていた。

「晴樹さん、また遊びにきてくださいね?」

「ありがとうございます。カフェにもぜひ遊びにいらしてくださいね?」

帰り際、玄関で雪菜と晴樹が言葉を交わす。ふたりは気が合ったようでこの短時間でずいぶん親しくなっていた。

「霧斗、またいつでも遊びにきなさい」

「ありがとうございます」

和真の言葉に霧斗が微笑みながら頭を下げる。和真は苦笑しながら下げられた頭をそっと撫でた。

「そんなに他人行儀に気を遣わなくていいんだぞ?」

和真の言葉に霧斗は嬉しそうに微笑みながらも無言を通した。


「きりちゃんの育ったところ、実はずっと気になってたのよね」

帰り道、ゆっくり歩きながらふと晴樹が呟くように言った。その言葉に霧斗は意外そうな顔をして晴樹を見た。

「そうなんですか?」

「お互いいい大人だし、プライベートに口を出すのもなあって思って言わなかったけど。きりちゃん、実のご両親とは不仲でしょう?育ててくれた家族とも他人行儀な気がしててね。でも、今日会ってみてあたしの杞憂だってわかったわ」

晴樹の言葉に霧斗は照れ臭そうな顔をした。

「俺も、和真さんたちを実の親のように思ってますよ。俺の家族は小峰神社の人たちだ。でも、分家の生まれである俺が引き取られたからといって気安い態度でいると、よく思わない親戚も多いですからね」

「なるほどね。きりちゃんが気を遣ってるのは親戚からよけいなことを言われないようになのね」

霧斗の言葉に晴樹は納得したようにうなずいた。

「雪菜さんとも仲良くなれたし、今度はあたしだけでお伺いしてみるわ」

「それは全然いいと思いますよ」

晴樹の言葉に霧斗はクスクス笑いながらどこか安心したようにうなずいた。

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