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祓い屋霧斗  作者: さち
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年末年始の騒動・第3話

 親戚に会うと色々とうるさいので、顔を会わせないように雪菜は霧斗と早月を奥の客間に案内した。その途中、広間に顔を出して小真を連れ出す。小真は事情を聞くと快く客間まできてくれた。

「霧斗、あけましておめでとう。早月さんも、あけましておめでとうと、はじめまして」

客間にきた小真が笑顔で挨拶する。霧斗も「おめでとうございます」と応え、早月に至っては感謝と申し訳なさが混ざってしどろもどろになっていた。

「早月さんは横になってください。眠れるようなら眠ったほうがいいです」

霧斗の言葉に早月は礼を言いながら横になる。日頃の疲れもあるのか、彼女は目を閉じるとすぐに眠ってしまった。

「早月さんの姑のおばさん、前からキツいとは思ってたけど、嫁いびりなんてね。しかもお腹に自分の孫がいるのに。何考えてんだか」

「さあ。でも、雪菜さんにバレたんで何か言われるんじゃないですか?」

「その仕返しが早月さんにいかなきゃいいけど」

小真の言葉に霧斗はうなずきながらも、雪菜ならその辺も考えていそうだと思った。普段は厳しい性格の和真と勝ち気な香澄の影になってわかりにくいが、雪菜も怒るとかなり怖いというのは小峰家に親しく出入りしている者皆が感じていることだった。

「そういえば、霧斗もなんで今日ここにいるの?毎年三が日は避けてるじゃん」

「今年もそのつもりだったんですけどね。戸籍上の父親がわざわざ電話をよこして元旦に来いって言うもんで」

「マジ?それで?霧斗の戸籍上の両親、もう来てたけど顔会わせたの?」

小真の言葉に霧斗は苦笑しながら首を振った。

「俺はずっと台所にいたので。来たのは誰よりも早かったですから、文句を言われる筋合いはありませんよ。元旦に来いとは言われたけど、挨拶しろとは言われてないんで」

霧斗の言葉に小真は小声でケタケタと笑った。

「さっすが霧斗。ま、あのおばさんなんかあんたの顔見たら何言い出すかわかんないし、それに雪菜おばさんや和真おじさんがキレると修羅場だもんね」

「なんで自分から修羅場を作ろうとしてるのか俺にはさっぱりです」

「だよね~」

呆れたような霧斗に小真も笑ってうなずいた。


 夕方になり参拝客が落ち着くと香澄が住居のほうに戻ってきた。その頃には酒が飲める男性陣はかなり酔っぱらっていた。酔うと声が大きくなるもので、離れているはずの客間にも時おり笑い声が聞こえていた。

「入るよ~」

そっと声をかけて香澄が客間の障子を開ける。その手にはおにぎりと取り分けた料理、茶が乗った盆があった。

「香澄さん、お疲れさまです」

「香澄、久しぶり~」

「霧斗も小真もお疲れ。これ差し入れ。もうちょっとしたらちゃんとしたお膳運ぶから」

香澄がそう言って盆をおくとちょうど早月も目を覚ました。

「あ、すみません。私だいぶ寝ちゃいました?」

「いいのいいの。妊婦さんは休むのも仕事だよ」

「そうそう。手伝いは十分足りてるからゆっくりしてください」

起き上がって申し訳なさそうにする早月に小真と香澄が笑顔で言う。ふたりの言葉に早月はポロポロと泣き出した。

「すみません。こんなによくしてもらって…」

「気にしないで。それより、奥さんがこんなになってるのに旦那さんは何してるの?」

優しく早月の背中を擦りながら香澄が尋ねると、早月はふるふると首を振った。

「夫は、今海外に長期出張で、正月は帰ってくるって言ってたんですが、お義母さんが飛行機代がもったいないからそっちでゆっくりするようにと。私が妊娠したことは伝えたんですが…」

「じゃあ旦那さんは奥さんがいじめられてるのは知らないのね?」

「同居ではなかったんですけど、夫は出張が多くて家にいることはあんまりなくて。だからお義母さんは私が浮気をして、子どもは浮気相手の子どもだと思っているみたいで。そんなことないって何度も言ったら、なら同居して監視するって。同居なら浮気なんてする暇もないだろうって」

早月の話を聞いていた香澄と小真の表情がどんどん険しくなる。霧斗も内心舌打ちをした。

「早月さんは落ち着くまでうちにいたらいいわ」

「でも、ご迷惑では…」

「そんなこと気にしなくていいの。お腹の子を一番に考えなきゃ」

香澄がそう言って微笑むと、早月は糸が切れたように泣き出した。

「小真、早月さんをお願い。霧斗は私と一緒にきて?」

香澄の言葉に小真と霧斗がうなずく。霧斗は香澄と一緒に部屋を出るとどうするつもりなのか尋ねた。

「霧斗が気づいてくれてよかった。意地悪ばばあにはお仕置きが必要でしょ?」

「和真さんはこのことは?」

「もちろん知ってるわよ。そろそろ戻ってくる頃よ」

ふたりがそんな話をしながら台所に向かっているとちょうど玄関が開いて和真が帰ってきた。

「おかえりなさい」

「あけましておめでとうございます」

香澄と霧斗が声をかけると、和真はにこりと笑ってうなずいた。

「霧斗、あけましておめでとう。お前が今日きているということは、和彦に何か言われたか?」

和真の言葉に霧斗は苦笑するだけだったが、それだけで肯定しているも同じだった。

「まったく。和彦にも困ったものだ。それに、安静にしていければならない妊婦を働かせている人がいたんだって?」

「ひどい話よね。その人には小真がついてるわ」

和真は香澄の言葉にうなずくとため息をついた。

「霧斗は台所で手伝ってくれている人たちと休んでいなさい。香澄は広間においで」

和真の表情が険しいものになる。霧斗はうなずくと大人しく台所に行った。

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