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祓い屋霧斗  作者: さち
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行方不明者と目撃者・第6話

 霧斗の話を聞き、その日の業務日誌を読み終えた村木は難しい顔をして日誌を霧斗に返した。

「このトラブルを起こした客が、加害者というわけですか?」

「そうです。あの客、なんか変だったけど、薬物中毒なら納得できますね」

「でも、来たのは1回だけですよね?どうしてここを巻き込むような嘘をついて通報したんでしょう?」

「さあ?あのあとここの噂を聞いて嫌がらせのつもりで通報したのか、罪を晴樹さんに被せるつもりだったのか。どっちにしろ俺たちにはいい迷惑です」

霧斗の言葉に村木はうなうずいた。この話が本当なら晴樹はこの事件に無関係だ。

「改めて公園付近の聞き込みをします。ご協力、ありがとうございました」

村木は立ち上がって一礼すると事務所を出ていった。


「ずいぶんと機嫌が悪いな?」

霧斗がひとりになると影から青桐が姿を見せた。青桐はいつになく機嫌が悪い主にクスクス笑った。

「別に。巻き込まれるだけ巻き込まれて終わりってのが気に入らないだけだ」

「なるほど。主が見た記憶は俺も見た。あの男、探してやろうか?」

青桐の言葉に首を振りかけた霧斗は、少し考えてうなずいた。

「見つけて、少しお仕置きしてやろう」

霧斗の不穏な言葉に青桐はニヤリと笑って姿を消した。


 男はいつものほうに違法薬物を買おうと歩いていた。時間は深夜、いつも売人がいる場所に向かう途中、男は視線を感じて振り向いた。振り向いた先にいたのは髪の長い女だった。髪で隠れて顔は見えない。だが、髪から覗く目がじっと男を見つめていた。

「ひっ…」

男はゾクッと背筋を震わせると足早に歩き出した。この前殺した女と似た女。だが、女は確実に殺して隣の県の公園に埋めた。生きているはずがない。あの女のはずがない。自分に言い聞かせて歩いていた男はいつの間にか走っていた。

「はあっ、はあっ…!」

息が切れて足を止めた男は膝に両手をついて呼吸を整えた。きっと薬が切れたせいで見た幻覚に違いない。自分にそう言い聞かせて顔をあげると、さっきの女が目の前に立っていた。

「ひいっ!」

男は尻餅をついて倒れこんだ。さっき後ろにいた女だ。自分はここまで走ってきた。いつのまに追い越された?いや、そもそも足音なんて聞こえなかった。薬のせいでまとまらない様々な考えが男の頭の中をぐるぐる回る。男が動けずにいると、女が一歩男に近づいた。

「…ねえ、どうして殺したの…?」

「ひっ!ぎゃぁぁぁぁっ!」

髪から覗く目がじっと男を見つめる。女から発せられた言葉を聞いた瞬間、男は絶叫してそのまま気絶した。

「ふん。他愛もない」

男が気絶すると女の姿は消え去り青桐の姿になった。女は青桐が変化した姿だった。

「さて、帰るとするか」

男の絶叫を聞いて誰かが通報したのか近づいてくる人間の気配がある。青桐は男をそのまま放置して姿を消した。


 カラン。乾いた音とたててドアを開け、村木がやってきたのはそれから1週間後の開店時間前のことだった。

「こんにちは。あれから色々と進展があったので一応お知らせにきました」

「あら、わざわざありがとうございます。座って?」

晴樹がにこりと笑ってカウンターを勧める。霧斗は何も言わずにコーヒーとマカロンをひとつ皿に乗せて出した。

「わ、いいんですか?ありがとうございます」

コーヒーとマカロンに嬉しそうに笑う村木に霧斗は小さく笑みを返した。

「それで、進展っていうのは?」

「あ、そうでした。結論から言うと、あの女性を殺した犯人が捕まりました。ここからあの女性が出てきたって通報した人と同一人物でした」

「それって、犯人がわざわざ殺した女性をここで見たって通報したってこと?どうして?」

不思議そうに尋ねる晴樹に村木は「嫌がらせです」と言った。

「以前晴樹さんとトラブルになって、というか勝手に逆恨みして嫌がらせをしたみたいです。うまくいけば晴樹さんに罪を着せれると思って」

「あら、ひどい話ね。それで、どうして捕まったの?」

「薬物中毒だったんですが、道路で倒れているのを発見、保護されて言動がおかしいことから検査をして薬物の陽性反応が出たんです。そこからはよくわからないんですが、殺した女に呪われるってひどく怯えて、自分で殺人についてペラペラ喋ったみたいですね」

それを聞いた晴樹は無言で霧斗を見た。

「晴樹さん、顔怖いよ?」

視線に気づいて霧斗が苦笑する。晴樹はため息をつくと村木に向き直った。

「それで、あたしの疑いは晴れたのかしら?」

「もちろんです。あ、それとあなたを殴った笹原さん退職しました」

「あら、そうなの?」

思わぬ言葉に晴樹が驚いた顔をした。

「あたしを殴ったから?」

「いえ、それはそれで処罰があったんですけど、笹原さん、長年浮気をしてたみたいで、浮気相手の女性の妊娠がわかった途端捨てたみたいなんですよね。しかも、お相手の女性はそれを苦にして自殺。それが奥さんや上司にバレて一応依願退職ですけど、解雇も同じですね」

「そうだったの」

晴樹は笹原に憑いていた女性と水子の霊を思い出してなんとも複雑な表情をした。

「ちゃんと供養してくれるといいけど」

「そのへんはなんとも。とりあえずこの件はこれで終わりです。色々とご迷惑をおかけしてすみませんでした」

コーヒーとマカロンを綺麗に平らげた村木は立ち上がると深々と頭を下げた。

「気にしないで。今度はお客さんとして来てちょうだい?」

「え、いいんですか!?」

晴樹の言葉に村木の表情がパッと明るくなる。村木は「ここのコーヒー美味しかったからまた来たかったんです」と嬉しそうに言って帰っていった。


「きりちゃん、ありがとう」

村木が帰ってから、開店準備をしていると晴樹が霧斗に礼を言った。

「なんのことですか?俺は何もやってない」

「別に隠さなくてもいいじゃない。犯人に何かしたんでしょう?それに、遺体を見つけるのを手伝ってくれた。あたしじゃできないことだわ」

「俺は俺のできることをしただけですよ。俺だって、ここの平穏な時間を壊されたくはないから」

そう言って笑う霧斗に晴樹は微笑みながら「ありがとう」と繰り返した。

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