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祓い屋霧斗  作者: さち
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青桐が助けた人間・第1話

 霧斗が高梨とサポート契約を結んでから、久しぶりに祓い屋の仕事が途絶えた。絶え間なく仕事が入るということもなかったが、3ヶ月も仕事が入らないのは久しぶりだった。

「青桐」

深夜、寝室にいた霧斗が青桐を呼ぶ。霧斗の影から姿を現した青桐は不機嫌そうな顔をしていた。

「何用だ?」

「機嫌が悪そうだな。今日は満月だし、久しぶりに狩りに行ってきていいぞ?仕事がないから暇だったろう?」

不機嫌そうな青桐に苦笑して霧斗が言う。狩りという言葉を聞いた青桐は獰猛な笑みを浮かべて瞳をぎらつかせた。

「朝までに戻ればいい。他の祓い屋に気を付けろよ?」

「わかっている」

うなずいた青桐はそのまますっと姿を消した。


 霧斗のそばを離れた青桐は狩り場を探して夜の闇の中を飛んでいた。

 平安の世は魑魅魍魎が跋扈していていたるところに狩り場となる弱い妖の溜まり場があったが、今の世も狩り場に困ることはなかった。

 電気のせいで闇は減ったが、人間の心の闇は変わらない。人間が増えた分、人間が作り出す闇は昔よりも濃かった。ビルの間の暗闇、公園の暗がり、遊園地など人がたくさん集まる場所。闇の淀みはいたるところにあり、弱い妖はそこかしこにいた。

「今宵の狩り場はここにしよう」

青桐が見つけたのは遊園地だった。人間が集まる場所は様々な淀みが溜まりやすい。その淀みから生まれた妖が多くいる遊園地に青桐は降り立った。

 獰猛な笑みを浮かべて妖を狩りまくった青桐は空腹を満たすと止まっている観覧車の頂上に座って空を見上げた。

 空には満月が静かに輝いている。その光景は平安の世から変わらないものだった。

「人の世は移ろいやすいな」

自分が封印されてから約千年。妖の時間でも短くはないその時の中で、人間の世界は変わってしまった。電気が暗闇を消し、町には人が溢れている。何度も戦いがあり、災害があったと霧斗から聞いていたが、人間はそれでも町を再興させ、さまざまなものを産み出していた。

「人間とは弱いのにしぶとい生き物だな」

呟いた青桐の言葉を肯定するかのように一陣の風が吹く。ふと、その風に血の匂いを感じて青桐は立ち上がった。

 目と耳を凝らすと少し離れた場所で妖とそれを狩る人間がいることに気づいた。血の匂いはその人間のものだった。

「面倒だな」

呟いた青桐が空を飛ぶ。向かった先は人間と妖のいる場所だった。


 人間と妖がいたのは人気のない公園だった。木が生い茂り闇を作っている。そこに術師らしい若い男と妖がいた。

「何をしているんだ?」

妖のほうは知性があるようには見えない。ひとまず近くの木の枝に腰かけて声をかけると、若い男は驚いたように青桐を見上げた。

「妖っ!誰かに、使役されているのか?」

男には青桐に絡む霧斗の鎖が見えたらしい。目は悪くないと思いながら青桐はニヤリと笑った。

「ならどうした?お前はこのままならそいつに喰われるぞ?」

青桐の言葉に男が唇を噛む。目は悪くないとはいえ、男の実力では目の前の妖を倒すのは難しそうだった。

「…助けてくれないか?」

意を決したように言う男の言葉に青桐はぎらつく目を細めた。

「お前を助けて俺に何か利はあるか?」

「っ、お前を縛る主人との鎖を断ち切ってやる」

「無理だな。お前程度にはこの鎖は切れぬし、切ってほしいとも思っておらん」

男の言葉を一刀両断して笑う青桐はふわりと男と妖の間に舞い降りた。

「ここで死なれては面倒だ。貸しにしておいてやる」

青桐はそう言うと男の返事も聞かずに妖に向けて手を向けた。

「ぎゃあああっ!!」

途端に妖の体が燃え上がり、普通の人間には聞こえない断末魔の悲鳴が響く。青桐は妖の体が燃え尽きる前に妖の心臓とも言える核を取り出すとごくりと飲み込んだ。

「まあまあだな」

そこそこ力ある妖だったと呟きながら男に向き直る。男は腰が抜けたのか地面に座り込んで呆然としていた。

「おい。何を呆けている。助けてもらったのに礼のひとつも言えんのか?」

男の前にしゃがんで青桐が言うと、男はハッとして正気に戻った。

「わ、悪い。助けてくれてありがとう」

「別にお前のために助けたわけではない。それより、これは貸しだからな?ちゃんと返せよ?」

ニヤリと笑う青桐に男が青ざめる。妖に借りを作ることの危険性はわかっているようだった。

「ど、どうやって返せばいい?」

「そうだな。俺にではなく、俺の主の役にたつことで借りを返したことにしてやろう」

「お前の主?」

青桐の言葉に男が驚いたような顔をした。

「お前の主は祓い屋か?もし、人に害をなすような奴ならお前の主には手を貸せない」

「ふん。助けられておいて偉そうだな?だが安心しろ。俺の主は祓い屋だ。人は殺さん」

男は青桐の言葉に険しい表情で考え込んだあと、意を決したようにうなずいた。

「わかった。お前に借りを返すためにお前の主の力になろう。俺は何をすればいい?」

「そう急くな。今、主に仕事はきていない。お前のことは伝えておくから連絡があるのを待つがいい」

青桐はそう言うと自分の親指を噛みきって血を流すとその血を男の額に塗りつけた。

「これで俺の印がお前についた。お前がどこにいても俺にはお前の居場所がわかる。逃げようなどと思うなよ?」

「逃げたりするものか。これ、俺の名刺だ。お前の主に渡してくれ」

挑発的な青桐に言い返しながら男が名刺を差しだす。青桐はその名刺を受けとるとニヤリと笑った。

「これは確かに預かった。俺は青桐という。ではまたな」

そう言って青桐は闇に姿を消した。

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