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祓い屋霧斗  作者: さち
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古民家旅館からの依頼・第2話

 依頼内容はお化けが出るという噂の真偽を探ってほしいというものだったはずなのに、怪我人が出たことを言い当てられた。固まる後藤に霧斗は苦笑して茶を飲んだ。

「古い家屋は色々なものが寄りやすいんです。特に人の住まなくなった家屋は。通常はお祓いをして綺麗な状態にして売りに出す不動産屋が多いんですけどね。ここはお祓いをしていないから住み着いてしまった色々なものも一緒に移ってきてるんですよ。あと、それとは別に力の強いものもいますね。こっちは調べてみないとはっきりしないけど、妖怪とかの類ではなさそうです」

「あの、どうにかしてもらえるんでしょうか?」

震える声で後藤が尋ねると、霧斗はにっこり笑って「そのために来ました」と言った。そしてジャケットの内ポケットから1枚の名刺を取り出してテーブルにおいた。

「もし俺に何かあったときはここに連絡して後始末をしてもらってください」

「何か、とは?」

「不安にさせてすみません。ただ、この業界は何が起こるかわからないのが常です。組織に所属していればアフターフォローもしっかりしてもらえる場合が多いんですが、俺はフリーなんで、もし俺に何かあって仕事が続行不能になったときはここに連絡するように依頼主全員に話しています。あなたにだけ話しているわけではないんで、万が一の保険とでも思ってください」

ますます不安がる様子の後藤を安心させるように笑顔で言う。後藤はまだ不安そうにしながらもテーブルにおかれた紙を手にした。それには「護星会(ごせいかい)」という組織の名前らしきものと、電話番号が書かれていた。

「ここに話せば俺の後始末をしてくれるんで、万が一の時にも安心してください」

そう言ってにっこり笑う霧斗に後藤は「はあ」と曖昧な返事しかできなかった。

「じゃあここの中を見てまわってもいいですか?」

「はい。ご案内します」

そう言って立ち上がった後藤に礼を言って霧斗も立ち上がる。事務室を出てゆっくり歩き始めると、小さな妖たちが目についた。

「細かいのが多いな。とりあえず簡単に掃除をするか」

呟いた霧斗が立ち止まってパチンッと指を鳴らす。すると霧斗の後ろに精悍な顔立ちの青年が現れた。

「お呼びか、主」

「ここの細かい妖たちを一掃してくれ。食っていい」

「わかった」

ニヤリと獰猛な笑みを浮かべて青年が姿を消す。隣に立っていた後藤は不思議そうな顔をして霧斗を見ていた。後藤には青年の姿は見えておらず、霧斗がひとりで何かぶつぶつ話しているようにしか見えなかった。

「あの、何を?」

「小さい妖が多すぎるので式神に片付けさせます。それだけでも空気は違うと思いますよ」

「式神…」

耳慣れない言葉に後藤がポカンとする。霧斗は苦笑するとまた足を進めた。さきほどの式神、青桐(あおぎり)のおかげで細かい妖たちは瞬く間に消えていった。そのおかげでだいぶ息がしやくすなったと同時に、この建物の奥にいるものの力がはっきりわかるようになった。

「後藤さん、ここに神棚ってありましたよね?それはどうしました?」

「神棚は確かにあります。それもそのままここにあります」

「たぶん、今回の騒動はその神棚が原因ですね。神棚には神がいます。この家を守ってる。知らないうちに勝手に移動されたらそりゃ怒りますよね」

霧斗が言うと後藤は青ざめた顔でコクコクとうなずいた。

「不動産屋の話を真に受けるんじゃなかった。どうしたらいいですか?この建物を元に場所に戻すとか?」

「実際問題、戻せって言われたら戻せるんですか?」

霧斗が尋ねると後藤は渋い顔をした。

「この建物があった土地はもう別の人が買っています。でも、近くの場所なら空き地があったはずです」

「なるほど。とりあえず、元の場所の地酒と、この土地の地酒を用意してもらえますか?できるだけ上等なやつで」

「わかりました」

後藤はうなずくとすぐさま酒を用意しに走っていった。

「主、掃除は終わったが、奥に荒ぶる神がいるぞ」

「お疲れさま。俺も気づいたよ。とりあえずできることをするさ。怒りを鎮めてもらえればここをまた守ってくれるはずだ」

霧斗はそう言うと奥に向かって一礼し、一旦事務室に戻った。まさか神がいるとは思っていなかったから服装の準備はしていないが、神に相対するのだ。禊は必要だった。

 事務室に戻って後藤の娘に風呂場を借りられないか尋ねると、温泉に案内された。

「温泉か。ちょうどいいな」

服を脱いで桶に湯を溜め、頭からかぶる。禊のためにそれを何度か繰り返し、用意してもらった浴衣に袖を通す。霧斗の準備ができた頃、ちょうど後藤も酒を調達して帰ってきた。

「ちょうどいい酒がありました。これで大丈夫でしょうか?」

「お、いい酒ですね。大丈夫です」

にこりと笑う霧斗に後藤がホッとした表情を浮かべる。霧斗は盃と塩も用意してもらうと後藤を連れて神棚がある奥の座敷に向かった。

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