堕天使=悪魔とドラゴンは新たな生活を始めようとする。
赤ん坊の仮の呼び名が決まったところで、レダは、少し悩んだ。
自分とドラゴンだけの生活ならば、これ迄通り空を屋根に眠りに就く事も問題ではないのだが、事が人間の赤ちゃんと一緒となれば話しは変わってくる。
人の身体は、自分やドラゴンと比べるとはるかに脆弱じゃから、夜露に雨風、太陽の光すら、この子の健康を損ねる原因になるだるう、あまり一処に長居はしたくないのじゃが、この子の成長を通して人間の一生を観察するには、人間の社会に紛れて、普通の人の生活に倣うとするか!
そうなると、やはり最初は、雨風を凌ぐ事が出来る住処が必要になるのう。
レダは、考えた末、この森に来る前に立ち寄った最寄りの街の外れに、庭付きの立派な家を出現させた。
その場に居なくても、レダの現象を操る奇跡の力は、念じるだけで、離れた場所に庭付きの家を出現させてしまった。
そこにドラゴンと移り住み、人間の暮らしを真似て仕事をしながら、エルディオスと言う家族として、この赤ん坊を育てる事にしたのだが、現在レダの見た目は、10~12歳の少女である。
実のところ、この姿は人間を観察するのに都合が良いと作り上げた仮の姿なので、赤ん坊がいてもおかしくない年齢の姿を作り上げる。
20才位の姿になったレダは、まさに傾国の美女だった。
シャンパンゴールドのロングヘアーに晴天の空を思わせるスカイブルーの瞳、大き過ぎないが、しっかりとした膨らみを主張した胸、細く括れた腰から芸術的な曲線を描くヒップライン、およそ全ての女性が、そう成りたいと憧れる黄金比と言われる体型ではなかろうかと思われる、そして身に纏った簡素な黒のドレスは、白磁器の様な滑らかな白い肌を、より一層引き立てた。
これで、赤ん坊を連れて街に住んでも大丈夫と思い、赤ちゃんを抱き上げながら、気が付いた。
「あっ!ドラゴン!」
「ギャウ?」
「お前を、そのままの姿で連れて街に住むと、一悶着あるだろうし、どうしたものか?」
「ギャウギャウギャウ!」
「何?人間に化けられる?
それならそうと早く言わんか!
それが判っていれば、今迄、毎日こんな森の中で野宿などしとらんわ!」
レダにまくし立てられると、ドラゴンは、真っ白な翼を大きく拡げ眩い光に包まれて、艶やかな純白の髪の毛を腰の辺りまで伸ばした金色の瞳の美しい5~6歳の幼女に変身した。
「おい!何故全裸なのじゃ?」
「ギャウ!」
「服は、まだ無理?それと人の言葉は、喋れんのか?」
「ギャウ!」
「練習してないから無理?今まで、散々儂の言葉を聞いておったのに、何をしておったのじゃ?」
「ギャウギャウ!」
「何?儂がドラゴンの言葉を理解していたから必要無いと思ったじゃと、今から練習せんか!」
「ニャア~!」
「何故、猫の鳴き声なんじや?」
「ギャウ!」
「昔、猫と暮らしてた?お主本当にドラゴンなのか?」
レダは、頭を抱えながらドラゴンの為に服を出現させて、
「服の着方は解るか?解るならさっさと着てしまえ、これから赤ん坊を連れて街で暮らすぞ、お前は人の言葉を喋れるようになるまで、人前で喋ってはいかんぞ!」
「ニャア~!」
「もう猫の鳴き声はいい!」
「ワン!」
ドラゴンがニコニコしながら犬の泣き真似をしたので、おちょくられたと思ったレダは、こめかみ青筋を立てて、左手でエルディオス(仮名)を抱き、右手で渾身のアイアンクローをドラゴンに決めると、
「あいたたた!痛い!痛い!」
「ん?なんじゃ?お主、喋れるではないか。」
「ギャウ?」
「ん?ちゃんと痛いと喋っておったぞ、その調子でもっと言葉を覚えるのじゃ。
しかし、ここでウダウダしていても始まらん、先程、街に家を作ったから、そちらに行くぞ。」
こうしてレダとドラゴンは、新たな生活の拠点を手に入れ、人の中に紛れてエルディオスファミリーとしての生活を始めるのだった。