赤ちゃんの正体
話しは、一ケ月程さかのぼり、王都の王城では、国王の妃のお産が行われていた。
初子という事もあり、城内は緊張に包まれ医師や助産婦、メイド達が慌ただしく動き回っていた。
やがて、助産婦が1人の赤ちゃんを無事に取り上げるのだが、医師が、
「もう1人入っています。」
と叫ぶと、産室は、更なる緊張に包まれた。
少し時間は掛かったものの、2人目も無事に産まれ、「2人とも元気な男の子です!」との報告を聞き、国王が産室を訪れ、妃に労いの言葉を伝え、産まれた我が子との対面をはたしたのだが、後に産まれた子供胸の中央に、赤く丸い痣を見付け、その子に対する愛情と興味が急速に失くなってしまった。
「この子は、生まれながらに、胸に傷を負っている、こんな傷を負った子供が王子であってはいかん!」
国王の発する言葉に産室中に新たな緊張が走った。
「陛下、この子をどうするおつもりで?」
妃の悲痛な言葉に、国王は、唇を噛み締め少し思案した後に、
「何も命まで奪おうとは思わぬ、子供を欲しがる夫婦を探し、この子の身元明かさず、当面の養育費を持たせて引き取ってもらおう。
王族としては、育てられないが、充分に幸せに成れる様に、子供を欲しがる心優しき者を探し出すが良い。」
傷物を皇族として育てる事は出来ないと言ったものの、自分の子供が不幸になるのは忍びないと、考え抜いた結果の答えだった。
「それでは、○○子爵の所が、最近、事故で子供を亡くされていますので、其方の方へ話を……」
医師の提案に国王は、
「待て!貴族はならん!もしもこの子の出自が明らかになれば、国が割れるかもしれん!」
「はっ!仰せのままに。」
その後、産まれた子供は1人と公表され、秘密裏にもう1人の子供の引き取り手を、産室内に居た者達の手によって捜索が為された。
そして一月後に、助産婦の夫から、善き人が見付かった。
その者は、隣国からの旅の大商隊の隊長であり、資産、人柄共に申し分ないが、子供に恵まれず、養子でもいいので、跡取りが欲しいとこぼしているので、話しをしたところ、大事に育てるので是非にとの報告を受け、助産婦の夫の手に赤ん坊が委ねられる事になったのだが、この助産婦の夫が食わせ者だった。
国王の子供と莫大な養育費を預かると、城の裏手から、堀の橋を渡り城下に出ると見せ掛け、係留しておいた小舟に、赤子を乗せそのまま堀から流れる川に舟を流したのだ。
この男は、国王からもたらされる莫大な養育費目当てに、旅の商隊を率いる夫婦が子供を欲しがっていると、虚偽の申告をして養育費を横領したのだった。
その時たまたま、上空を飛んで羽を休める為に城の尖塔に留まっていたドラゴンと城壁の上の何も知らない兵士が、その状況を目撃していた。
そして、ドラゴンは、流される無人の舟を見て、暇潰しに舟を泉に持ち帰って舟遊びをしょうと思い、人目に付かない所で舟に降り立ち、赤ん坊を見付けて舟ではなく赤ん坊を持ち帰ったのだった。