転生したい!
至って普通の高2の俺、三宅隼人。
最近は異世界転生無双系のラノベにハマっている。
そんなファンタジーばっかり読んでるからさ、少し憧れるよね、異世界。
「あー、どっかで美少女が勇者とか待ち望んでないかなー。『お待ちしていました!どうか我々の世界をお救いください、勇者様!』みたいなみたいな!?」
「まーたそんな変な妄想ばっかりして~…ほら!隼人には私と言う可愛くて優しい幼馴染みがいるんだから!ね!異世界とかファンタジーすぎるよ、現実的になろ!」
えーと、コイツは河合ねね。幼い頃から家が隣同士で、なぜか学校までずっと一緒の自称「可愛くて優しい」幼馴染みだ。
今は朝8時。いつも通りねねと学校へ向かっているところだ。周りからは
「まさに熟年夫婦!付き合ってないのが不思議すぎる~!」
だの
「今日も見せつけてくれてやがる!俺らだって、ねねちゃん狙ってたのに」
等と言ってくる。
ねねにはファンクラブができているらしいが、俺は興味ない。むしろ、こんなヤツのどこがいいのか疑問だ。幼馴染みの権利を譲ってあげたいよ。
…ところで、今視界にトラックがかなり速いスピードで走ってきているのが見えた。周りはまだ気付いてない。危ないよな?これ。
これってチャンスじゃね?とか思ったよ。マジで。
『危ないっ!』的な感じで周りのヤツらを庇って飛び出せば誰も文句ないよな?
よしっ、行くか!
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周りがザワザワしている。暴走するトラックに気付いたようで俺を含めトラックから逃げる。
やっぱ無理だ、トラックの前に飛び出すなんて。このまま早く逃げよう。
ふと振り返ると、逃げ遅れたヤツが1人いる…ってねねじゃねーか!
「早く来い、ねね!」
呆然と立ち尽くすねね。
1度はやめようと思ったが、ねねも俺も助かるように頑張ろう…よしっ、行くしかない!
ねねのすぐ目の前に迫るトラック。俺は飛び出した。
「危ないっ!」
ドンッ
一瞬の滞空感の後に猛烈な痛みと熱さが襲ってきた。
ねねが心配して(?)泣いているのが見える。
なんだよ、いつもは怒ったり笑ったりしてるのにこういう時だけ泣いてんじゃねーぞ。
「……………!」
え?何?全然聞こえない。事故って耳まで聞こえなくなるんだな。
ってか、マジ痛え。トラックに轢かれるってこんなに痛いんだな。ラノベだと、痛さに悶えてるうちに、急に未知の存在に話しかけられて『痛覚無効』みたいなスキル的なやつが貰えてもいいはずなんだけど…来ねーじゃん!
あ、ヤバい。意識が途切れそうだ…どうか次目覚める時には異世界でありますように…
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「…せんでした、ミヤケハヤト様。」
「あっ、はい!何ですかっ?」
「ここは天界、私は死者を導く天使でございます。今はハヤト様の死因とそれに関する項を述べさせていただきました。」
「え…?天使って…?」
「はい。天使でございます。ハヤト様は死後は異世界に転生する、でよろしかったでしょうか?」
「え、あ、はい。」
「では、ここでの記憶を含めた『ミヤケハヤト』としての記憶を全て消去し、異世界への転生となります。
本当によろしいですか?」
「あ、はい…って、記憶ってなくなるんですか!?ラノベとかの異世界転生って普通、前世の記憶を使って無双するみたいなヤツじゃないんですか!?無双出来ないなら転生する意味がないじゃないですか!」
「ライトノベルや漫画などで描かれる『異世界転生』は、フィクションでございます。異世界転生を望まないのであれば、死後の選択肢は3つでございます。
1つ、あなたの生前の行いにより判断されますが、天国が地獄へ行く
2つ、あなたが生まれ育ってきた地球に転生する
この場合も記憶の保持はできません。
3つ、この事故は天界側のミスでございまして、特別に我々と同じ『天使』としてここで下界の様子を観察しながら仕事をする
この3つに加え、異世界への転生も…」
「ちょ、ちょっと待ってください!今サラッと『天界側のミス』って言いましたよね!?」
「はい。最初に説明して謝罪も申し上げたはずですが。」
「え、聞いてないですよ!って言うか、へぇ〜、俺が死んだのってそっちのミスなんだ〜」
「はい。その節は大変申し訳ございませんでした。」
「そうかそうか〜…お詫びにちょーっとでいいからお願い聞いてくれません?」
「はい。私が何とかできる、ちょーっとだけ、なら構いませんよ。」
「じゃあ、記憶を保持したまま異世界に転生させてよ!いいでしょ?」
「それは、規定によりできません。」
「え?マジで言ってんの?こっちは被害者なんですけどー?ちょーっとだけ融通を利かせて、ね?」
「申し訳ありません。私だけでは判断しかねますので、1度女神様の元へ行ってまいります。」
「良い返事を待ってまーす。」
よっしゃ!天界に来てからすぐに意識が戻ってたら、つまんねー転生になってただろーな。
それにしても、天界側のミスってなんだよ!もしかして、あの事故は大怪我で終わる程度だったとか?ほんとは、ねねが死んだかもしれなかったとか?
まぁ、きっと俺は死ぬ運命じゃなかったんだな。
17年の人生って短かったな。心残りと言えば、彼女が出来なかったこととか?考えれば考える程きっと悲しくなるよな。やめよう。
「遅くなりました。」
「あぁ、天使さんか、俺のちょーっとしたお願いは叶えられそう?」
「そのことに関してですが、直接女神様と話していただきたく、大変申し訳ありませんがこちらへお願いします。」
「はいはーい。わかりましたー。」
女神様ってどんな人(神?)だろー?優しいといいなー。あと、ついでに美人であることを願おう。
「私が天界の主たる女神テミスである。貴殿をこちらの都合で呼び寄せてしまい申し訳なく思っている。しかしながら、貴殿の願いは記憶の保持であろう?人間の記憶とは膨大なもので、転生後の貴殿の体に負担がかかりすぎるのだ。もし、新しい体に意識を移すことを失敗したら記憶も貴殿の意識も全て消失してしまうのだ。それでも記憶を持ったままの転生を望むのか?」
「えーっと…意識が消えるってことは『俺』が消えるってことですよね。じゃあ諦めます。前世の記憶を駆使して無双が無理なら…転生特典みたいなのはできるんですか?すごい才能とか、超強い武器とか!」
「それぐらいなら良いだろう。では貴殿は何を望むのか?」
「転生する世界に『魔法』ってありますか?魔法があるなら使ってみたいので『魔法』の才能をお願いします!」
「魔法だなんて、非現実的だな。そんなの無いぞ?」
「えぇ!?じゃあ何があるんですか!?俺の行く異世界って!」
「貴殿の思っているような『魔王』だったり『勇者』だなんてものはいない。あるのは荒んだ人間たちと、無駄に進んだ科学技術のみだ。時代の流れに合わない科学技術は世界を滅ぼすだけで、人間たちは技術を応用した兵器を使い、日々戦争をしている。貴殿が先程から言っている『無双』と言うのは、この世界なら不死能力さえあれば良かろう。」
「えぇ!?魔王を倒す冒険とかも無いんですか!?
もうやだ、こんな異世界なら行きたくねーよ!」
「なんなんだ、さっきから。巫山戯たことばかり言いよって。さっさと天界から出ていけ!私の聖域を喧しい声で埋め尽くすんじゃない!
死んだことに文句があるなら生き返らせてやるわ!」
「え?生き返るのってありなんですか!?」
「あぁ、そうだ。貴殿が望むのであれば死因である『トラックの事故』を無かったことにして、すぐにでも下界に返してやるわ!」
「じゃあ、ここでの会話を忘れないようにして、すぐに生き返らせてください!!」
「よかろう。女神テミスによって願いは聞き届けられたぞ。ちなみに聞くが、何故ここでの記憶の保持を望むのか?」
「俺がまた異世界転生を望まないためですよ!」
「はっはっはっ…それは大事だな。では、今から事故が起きる5分前に時を戻そう。今度はしっかりと彼女を守り、自分自身の命も守るのだぞ?」
「はい、わかりました。ってアイツは彼女じゃないですよ!?」
「わかってるわ!では、さらばだ!」
さらばだ…さらばだ…だ…
女神様の声が響いている。
視界が暗くなった。
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「ねぇ、隼人!」
「ん?どした、ねね。」
「いや、急にぼーっとして、そっちこそどうしたのよ?またいつもの妄想?」
「妄想って言うなよ!あれは、いつ転生とか転移が起きても良いようにシュミレーションしてただけだ!」
「それを妄想って言うのよ!で、どうしたの?なんかあった?」
「ははっ、何でも知られちゃうんだな、ねねには。
まぁ、言っても信じないだろうから言わねーよ。」
「もうっ!隼人がそんなふうに言うくらいなら平気ね。ほら、早く行こ!」
「わかったよ。あ、ちょっと急ごうぜ?ここはちょっと危険だからな。」
「え?なんで危険なの?ねぇ!」
うるさいねねは置いてさっさと歩いていく。
これから起こる事故のことを話してもきっとねねは信じない。俺が1度死んで、天界で異世界転生を巡って駄々をこねた事も話すにも恥ずかしいしな。
まぁ、結果として殺伐とした異世界には行かなくて済んだし、彼女を作るという夢もきっとすぐ叶うだろう。
転生できなくても今の人生を楽しめればいいさ。
ーおわりー