第二話 異世界転移した先で未来の自分からの手紙を拾う
光の中で体が浮くような違和感を覚えながら詠唱を終えた魔王が、立っていたのは夜の森の中だった。
「森……転移そのものは成功したみたいだが……」
転移が成功していてもいまだ帰還者がいないという事は、帰還を妨害する何かがあるという事、魔王も妨害に対して警戒しようとするが、転移の為に魔力を使い果たした体では自由も利かず倒れてしまう。
「ママー、コッチにいるよ~」
「は~い、今行くから待ってね」
という話声が近づいているのも気付かずに。
どれくらい眠っていたのだろうか、目を覚ましたのは倒れた時と同じ夜の森の中だった。改めて自分の体を見返してみる。
「人間なんだな……この体」
「?! この服はなんだ?」
転移前に着ていたブカブカの服ではなく、元居た世界の人間の魔法使いが着ているような服になっていた。
周りを見渡してみると、封筒が落ちていたので拾って中身を見ると手紙が入っていた。
「魔王よ異世界にようこそ、色々混乱していると思うが説明するのでよく読むように、まずお前は人間だ、代々続く魔法使いの家系で強大な魔力を持っていたため、四歳頃にワールに攫われ、姿を魔族に変える魔法をかけられ、自分が魔族と思い込むように記憶改ざんされて、ワールが望むまま魔族内の権力闘争のため、他の魔族を葬って約十年後に魔王と呼ばれる地位を得た」
「我が人間……? 攫われた……?」
衝撃に襲われながらも続きを読んでいく。
「なぜこんな事を知っているか疑問だろうが、理由は簡単だ私は未来のお前だからだ、一応証拠となるように同封の写真も見てみろ」
「未来……?」
書かれているように写真を見てみると、一人の女性が赤ちゃんを抱いていた。女性は姿見で一度だけ見た自分の姿に似ていた。
「一度だけしか見ていない身体だから、ピンとこないだろうが本当だ。後で鏡でじっくり見てくれ、ワールに騙され言いなりになってきた事に憤りを感じないか? 写真にあるような幸せな生活を脅かす恐れのある、ワールの侵攻作戦を許せるのか? ワールの愚行を妨げるために立ち上がってくれると信じ、一回目の転移実験の日に送らせてもらった」
「一回目の転移? ミミの?」
一回目の転移実験で送った者を、思い出しながら続きを読む。
「一人で防いで欲しいとは言わない、現地の人間が数人協力してくれる。まもなく迎えに来るはずだ」
「協力者……」
「人間と協力していく上で注意点として、魔王であったことは暫くの間は隠すように。心から信じ合い支え合う相手ができた時、恋愛した相手に打ち明けてもいいだろう。あと、魔力が強すぎるので抑制する魔法と、ワールに攫われる時の記憶の一部を封印する魔法の二つをかけたが、恋愛を重ねていけば魔法は解けるだろう」
確かに自らの魔力が弱くなってるのを感じられる。
「でも、なぜ記憶を?」
思い出そうとすると頭が痛みだした、これが封印の効果だろうか?
「この世界の人間と協力というが会話などできるのか?」
先を読んでいくと
「現地の人間とのコミュニケーションを図るため、日常的な会話や読み書きできるような魔法もかけてある。私と娘で寝てる間に服を着替えさせ、手入れが面倒なので髪も切りそろえた。その時に封印魔法もかけた後、過去に転移させた。後のことは迎えに来るであろう協力者に聞いてくれ、健闘を祈る」
と手紙が終わっていた。
手紙を読んでようやく自分の髪が、短くなっているのに気付いた。その後手紙にあるように数人が、近づいてくる話し声が聞こえてきた。