8日目 お礼のお礼
ふろしきはひろげたので折り目をつけていきます。
「おう、嬢ちゃん。こっちの森に何かようかい?」
「はい。狩人さんに合いに行こうと思っています。」
診療所で働く少女は守衛の問いかけにそう答えた。昨日は1日大忙しであったが、なんとか乗り切った。浮き箒は『患者を軽く浮かす』ということもできることに気付き、それ以後、移動がとても捗り皆大喜びであった。今入院している患者は2人。どちらも自分の足で歩ける状態ではない。介護が出来るスタッフは主を含め3人しかおらず、しかも主はスタッフ2人に休みを必ず7日に2回は取らせる。そのため、2人共が休む定休日はどうしても掃除などに手が回らないことがあったが、少女のおかげで余裕が出来た。
少女は、それはここに連れてきてくれた狩人さんのおかげです、と主張した。だが主はこう言った。
「あの偏屈が態々買って恵んでくれることはない。あいつは、飯以外には無頓着だ。借りられたことは凄く運のいいことだ。ここに今これがあるのも使いこなせるのもすべて君と君の努力のおかげだよ。」
なんとなく、前半部分で納得してしまい、後半で照れて真っ赤になった少女は、であるならば、と狩人にお礼を言いに行こうと思い、町の飯屋で魚料理を頼み、バケットを手に森へ行こうとしていたのだ。お金は日給でたっぷりと貰っていた(少女主観)。
「理由はわかったが、あいつならそこらの木に手を当てて呼べば来ると思うぞ?」
守衛は彼の秘密を知っていた。そして、この町ではほとんどの人が知っている公然の秘密。彼は木を基点とする探知スキルを持っている。そして、一定範囲の木を中継して探知の網を作成することができる。常に音は聞こえており、それを処理するスキルも持っている。集中すれば視線も通すことが可能だ。そのため木の前で呼びかければ大抵狩人は探知してきてくれるのだ。この町は一定間隔で木がある。この町で何か問題が起こりそうになっても大抵その前に狩人が来て解決するのだ。
少女はそこまでの事情は知らなかったが、狩人さんならば、と納得した。彼女の中で狩人とは神様と変わらない存在となっている。あのときもいきなり現れてお姫様抱っこ(あくまで少女主観)されてしまったし、っと思い出して顔を赤くする少女。彼ならばやろうと思えば何でもできるのだろうと思っていた。
「えっと、では・・狩人さん。浮き箒を貸して頂きありがとうございます。おかげさまで患者さんもニコさんもソフィア先輩も喜んでくれました。お礼に魚を挟んだパンを持っていこうと思ったのですがよいですか?」
「おお、ありがとう。今日の昼飯はこれにするよ。」
いつの間にか彼はそこにいた。一言目が始まる前に大体の事情は聴いており、二言目の間には周囲を探索して、三言目の間には果実をもぎとり、言い終わる前に到着していた。この間動き始めて30秒も経っていない。
「お礼は蜜柑でいいか?」
「うわ!あ、ありがとうございます。」
本当に来た!少女は驚きを隠せていなかったが、お礼を言って果物とサンドイッチが入ったバケットを交換する。イワシ・ニシン・サーモンといった定番の魚がパンに挟まった各種サンドイッチである。守衛はそんな二人の様子を温かい目で見守っていた。
「なんと、これはサーモンではないか!有難く頂こう。」
「いえ、こちらこそお礼のつもりでしたのに、ありがとうございます。」
今日の昼飯は決まったな。
狩人は初めてあったときから気になっていることがあった。それは少女の体にある無数の傷跡である。恐らく治癒魔法で直して上手く隠しているつもりなのであろうが、狩人の眼でみればはっきり痕跡が見える上に、たとえ、きれいに消して、傷が残っていなくともすべて判る。彼の眼は観察対象の歴史を読み取ることができる。魔眼の一種であると、師は言っていた。そして、それにより読み取った情報はその相手に話すべきではないとも聞いていた。
その執拗な何かの跡は特に足に集中しているように見えた。しかし、楽しそうに話している少女の邪魔をする気はない。彼女が話すことがあれば手伝おうとは考えていたが、こちらから話題を振るつもりはなかった。
「それでですね。患者さんの体をそっと持ち上げようとしても私一人じゃダメでした。でも、浮き箒を使うとなんと私でも片手で持ち上げることができました!体重自体を下げているので負荷も少なくなって安全になったってニコさんも喜んでいましたよ。」
「ふむ、そんな使い方もできるのか。いやはや参考になった。とはいえ、また掃除をするとき以外に必要になることはないし、ずっと貸しておく。有効活用してくれ。あと、ニコは神経質なところがあるからな。いやそこがあいつのいいところでもあるのだがな。もし、何か怒られても理不尽に感じたとしても、思い悩むな。ちょっとでも悩んでしまったら俺を呼べ。すぐにかけつける。」
「ありがとうございます。また、お礼を何かを考えておきます!」
「うむ、海の幸ならうれしいぞ。」
彼女が今笑っているならそれでいい。それにどうやら根本的な解決には師が帰ってくるのを待つしかなさそうだ。
狩人は、今もどこかで何かを狩っているであろう、師達を思い浮かべる。なんとなくもう少しで帰ってくる気がする。今の回復魔法の実力ではあの怪我は直せない。彼女の回復魔法であれば赤子のような肌にまで戻せるはずだし、そのときにはまた教えを請おう。国と国との争いには関与する気はない。これは自分で動かず彼に頼む方がよさそうか。
彼女との話をしながら狩人は彼女が欲したときに何ができるかを考えていた。
守衛はそんな二人の様子を眺めながら考える。狩人もまだ若い。前に年齢を聞いたことがあり、逆算するとまだ18歳のはずである。少女の方は、見た目年齢では10歳を満たしているかどうかも怪しい。元奴隷と聞いているため、成長が遅い可能性はある。成長が遅いのはたまたまの可能性があるし、言動を見聞きしたところから考えると、もう少し上の12,3歳の可能性もある。この街では食事に困るやつはいない。どんな怠け者であっても自分にできることを何かしているし、仕事はいくらでもある。彼女は働く事に幸せを感じるようであるし、これからの人生に幸あらんことを願う。
2児の親でもある守衛はそんなことを考えつつ、今日も森の方向にある門の出入りする人を見守るのであった。
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【一日一膳】
行為:お礼の対価に採取した果物を渡す
対象:診療所で働く少女
獲得技術
交渉能力Lv1【対話を行う。】
観察能力Lv1【目で何かを発見する。】
探知能力Lv1【目以外で何かを発見する。】
採取能力Lv1【手を使用して、何かを取得する。】
身体能力Lv1【足を使用して、運動を行う】
武術能力Lv1【体を使った技術を使用する。】
魔法能力Lv1【魔力を使った技術を使用する。】
同スキル所持の場合は経験値に変換
善行値が一定値になりました。取得条件が解放。
【】内は取得条件(一定以上で獲得)
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奴隷から診療所で働く少女にランクアップ。
次回は刑を処された彼らが出るかも・・?予定は未定。
周りの地理などもそろそろ固まりそうかな。




