7日目 裁きを受けさせる
「ハハ、もうダメだ・・。」
走るのをやめて、腹を押さえながら、倒れ込んだ男はそうつぶやく。まだ息に余裕はあるが、わき腹が痛く、足もひきつるような痛みが続いている。元々、そこまで万全の状態ではなかったうえに、今は道を外れたためにどこにいるかもわからない。口にしたものも本当に食べてよかったものか自信がない。
楽な仕事ではないことはわかっていた。今回でこの稼業から足を洗える。だから絶対生き延びる。そう思っていた。そう美味い話はないとは、・・分かっていた。なんだかんだ言って辞められない可能性もあった。しかし、本番になれば仕事の内容に嘘はなかった。悪徳商人の確保のために道路を塞ぐ。これが出来れば、今までの罪をなくすとまでいわれたそれは成し遂げられた。変わりに金銭報酬がないとしてもこれでなんとかなる。そう思っていた。
最初はよかったのだ。完全に囲めており、武装解除も進み騎士が調査していた。だが、一点を突破されてしまった。恐らく戦力の偏りをしっかり見抜かれたのであろう。道に沿って前後に集中させたために、横に突破されたのだ。こちらに来てくれさえすれば抜かれなかった、そう思ったがもう遅い。男たちは追いかけるが、すぐに止まることとなった。森の方から何かが来て、気づいたら転がっていたからだ。
惨敗だった。本当に最後になってしまった。仲間はもう一人も残っていない。みんなあの化物に連れ去られてしまった。一人残ったのは運がよかったのか悪かったのか。だが、逃げることに必死で道を外れてしまい、もうどこにいるかもわからない。完全に遭難していた。
「ハンナすまない。約束したニョッキは一緒に食べることはできなそうだ。」
「ほう、ニョッキとはなんだ?」
「!?」
なぜ、返事があるのか。驚いた男はいつの間にか後ろにいたその姿を見て、さらに驚く。
「・・・人?」
「ああ、俺は狩人だ。」
「えっとそうか、ええっと、ニョッキは食い物で・・・」
男は必死に説明をする。さっきまで腹が痛み、足も動かずめまいもし始めていたことはなぜか忘れていた。気付いたら立って身振りまで交えていた。
「そうか、エビの出汁が絡んで美味いと、いやはや、是非食べてみたいものだ。」
「ああ、もちろん他の味付けもいいのだが、俺はそれが一番好きで・・。いや、すまない。その前に、道に出るにはどの方向へいけばいいのだろうか。見ての通り完全に迷子になってしまって途方に暮れていた。」
「ああ、行きたい街の名前はなんだ?」
「ペルージャという町だ。何も返せるものはないのだが、道まで出るだけでもお願いしたい。」
男は頭を下げる。狩人はペルージャという町は知らなかったが、男のほうを見て頷く。
「わかった。すぐに近くまで届けよう。お前の仲間も一緒でいいか?」
「ああ感謝する。仲間・・? え?」
男は顔を上げて、違和感に気付く。なぜ、こんなところに人がいるのか。何故、背に木を付けているその背後から近づいてきたのか。そして、なぜ、確かに人のはずなのに人とは思えないこの圧力はなんだ。何かに気付いた男は気を失った。
今日の狩人の予定は埋まったようだ。
気絶した男を背負うと狩人は走る。走ったその先には男の仲間たちがいた。彼らは一人いなくなった男を心配していた。狩人もここ数日で一人を除き確保していたが、森から離れると探知も鈍る。最近はその探知領域も広がっていたが、男は運がなくその外までいってしまっていた。
「お前たちもペルージャとやらでいいのか?」
「はい、問題ありません。ありがとうございます。」
屈強な男たちが地に頭を付ける勢いで下げている。
「こいつの対価は海老ニョッキだ。知っているか?」
「はい、提供させていただきます!」
「うむ、ジャガイモはまるごとでもよいぞ。あれはピリっとして好きだ。」
「ボス!その食べ方を我らがすると一人残らず食中毒です。」
「そうか。まあ、任せるぞ。」
その後、男たちは誰一人かけることなく街にたどり着いた。そして一人ずつ処刑された。だがだれれ一人欠けることはなく、狩人の所有物となった。
曰く、あれは森の主だ。曰く、何か新しい知識を与えると師と仰ぎ、懐かれる。曰く、どうやら海の幸が大好物だから合いに行くなら持っておけ。曰く、あれは人を集めている、それは海の幸を手に入れるためだ。曰く、あれは人を助け、人を育て、人を観察するのが趣味だ。曰く、人の姿をしているが人ではないらしい。曰く、退治しに来た勇者を退けた。曰く、勧誘に来た魔王を逆に手下にした。
そして、あれは必ず【狩人】と自称するのだ。
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【一日一膳】
行為:今日を生きるために必死な者達への明日の保証
対象:盗賊達
獲得スキル(既に取得済みの場合、経験値として獲得します。)
交渉能力Lv3
観察能力Lv2
武術能力Lv2
採取能力Lv1
身体能力Lv3
魔法能力Lv2
探知能力Lv3
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マイペースな狩人は今日も人を狩る。
森では食べられない物の価値を知っているからだ。
だが住処は当分森の中である。




