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一日一善 今日は何をする?  作者: 99
森の狩人
6/11

6日目 便利な道具の無償貸出

狩人のいる森は避難所扱い


対価は人手か飯


理由は次回

 「そんな体制でつらくないか?」

 「あ!その、お見苦しい物をお見せいたしました。」

 「ああ、いや、気になっただけなので謝る必要はない。」

 立ち上がり頭を下げる少女に気にしないように言う。朝、診療所の主に預けた彼女に別れの挨拶をと午後に戻ってくると、どうやら掃除中だったらしい彼女の無理な姿勢を見て思わず声をかけてしまった。本当は主にのみ挨拶をして去る予定であったのであるが。


 日もだいぶ傾き、春の陽気の名残が心地よい。この陽気であれば、水仕事も苦にはならないだろうが、中腰でごしごしこすっている様子を見るとあの魔道具を知っているだけに、もったいなく思ったのである。少女は床を布のようなもので丁寧に拭いていたようだが、あの体勢を長時間続けては腰が痛くなるのではないだろうか。


 街の診療所はそこそこ大きく、普段は人の出入りも多い。しかし、どうも気配を読むに4人ほどしかいない。今日は定休日であるようで急患以外は受け付けないため、最低限の人数しかいないようだ。


 「掃除か。浮き箒は使わないのか?」

 「・・・?」

 「ロムルスさん、浮き箒なんてものはおいそれと買えるものじゃない。それよりも人手を一人でも増やすほうが大事だ。」

 奥から診療所の主が顔だけ出してすぐ引っ込めた。


 (どこの家にでもあると聞いたが、いやしかし嘘はついていなかった、ごまかされたか?)

 「そうなのか?どこの家にでもある、と聞いたが・・・。」

 最近は魔道具も安くなったがすべての家にあるわけではない。また、魔道具が安くなったといっても購入するには優先する順番がある。診療所であるため、当然ながら普通の家とは違う道具が必要とされる。特に環境を整備する大型の魔道具や、いざという時に動ける人材を呼び出す魔道具など、緊急時に対応できるものや普段の保存性を高める魔道具が最優先で集められている。そして、それらは魔力が使えなければ起動できないし、維持に魔石の魔力を消費する。掃除にまで使用しだすと消費量もばかにならないだろう。


 そこまで狩人は考えを巡らせ、しかし目の前の少女を見る。浮き箒で浮かび上がったりするならまだしも、掃き掃除程度であればすぐにできそうな人材ならちょうど目の前にいる。


 「浮き箒は使ったことはあるか?」

 聴いたことがないのか、首をかしげている元奴隷の少女を見る。彼女はすべての魔法が使える、らしい。何故疑問形かというと、隊商から既に聞き出した情報であるからだ。声と魔力の封印がされていれば当然魔法が使えることは予想が付く。驚いたのは彼女は素質上はすべての魔法が使え、魔力の容量もかなり大きいとのこと。それを見越して奴隷市でも高額の商品となる予定であったが、それをどこからか嗅ぎつけた盗賊団に襲われたようだ。

 だが、本人に聞くと実際に使える魔法は火と治癒の魔法だけらしい。使用できる魔法については彼女本人から聞いたのであるが、なぜその魔法だけなのかを聞くと悲しそうな顔で黙り込んでしまったため、理由はわからない。ただ、他の魔法がどうしても使いたくない、というわけでもなさそうであるし、魔道具の起動ができる程度には教えることはできるだろう。昨日は時間もなく落ち着いていなかったが、今日は余裕がある。


 「確かに扱うことができるならば、時間効率を考えるに、・・考慮には値するが、浮き箒自体も高い。今すぐに買う、というわけにはいかないな。」

 ケチではあるが、腕と知識は確かな診療所の主がまた顔を出してすぐ部屋に戻って行った。あの人は心配性なのだろうか。気配を見てもうろうろしているのに少女の様子を時々見ているようである。きっと昼からずっと広い床を磨きあげているであろう少女の様子が気になってはいるのだろう。

 今日の予定は決まった。


 「凄く楽ですね。しかも汚れもほこりも全然残りません。」

 「うむ。こいつは役に立った。だが、普段使う事もないだろうからここに置いていく。好きに使うといい。」

 「すまんな。また、今度酒でも奢るぞ。」

 「いや、酒は飲まない。どうせなら飯を奢ってくれ。魚がいい。」

 「はは、そうだったな。とっておきのミルクもつけてやるよ。」

 浮き箒を手に取り楽しそうに掃除をする少女の姿を見て頷く。古びた礼拝堂の隅に放置されていたものである。体への適度な負担は鍛錬になるが無理な力を加えると簡単に壊れるものだ。姿勢正しく動く姿を見て満足そうにする主と狩人。


 一度浮き箒を取りに帰って戻ってきた狩人は、重力魔法の使い方を少女に教えた。少女は最初こそ戸惑っていたが、すぐ重さを軽減する魔法を使えるようになった。使えるようになったのはよいが、勢い余って近くにあった机の重さを軽減しすぎて滑らせてしまい、危うく窓を割るところであった。

 

 魔法は素質さえあれば、既に使える人に教えを請うことで、すぐに発動させることができるようになる。自然と身に付けることもできるが、見よう見まねや正解の魔力を直接感じる事ですぐに発動できるようになる。狩人も師より一通りの種類は仕込まれている。


 ただし、制御と応用をするためには努力と時間が必要である。今回は幸い狩人がすぐに抑えたので、雇われて2日目で仕事場の大破は免れた。しかし、当然ながらその様子を見た主にはこっぴどく怒られ、室内で魔法の練習をしないことが義務付けられた。そのような経緯もあり、少女は気合を入れて丁寧に掃除している。


 「ここに連れてきてくださり、本当にありがとうございます。自由に動けるなんてはじめてです。」

 「ああ。この街はいいぞ。何より食べ物が美味い。だが、もし味付けが合わなければ呼ぶといい。森の食事でよければ出そう。泣くほどうまいらしいからな。」

 「あ、あれは申し訳ありません。」

 「では、生活に余裕が出来たら何か奢ってくれ。魚ならうれしい。」

 「はい、精一杯がんばりますね。」

 この様子なら問題ないだろう。少し気になることもあるが、この町にいる限りは問題はない。狩人は別れを告げると森へ戻った。狩人を見送った後、少女は徹底的なまでに床を掃除し、磨きあげた。そのつるつるの床で診療所の主が滑り、もう一度お叱りをうけることになった。 


 ―――――――――――――――――


一日一膳(デイリークエスト)】 


 行為:魔法の発動指導

 対象:元奴隷身分の少女


 獲得スキル(既に取得済みの場合、経験値として獲得します。)

 探知能力Lv1

 魔法能力Lv1


 行為:便利な道具の貸与

 対象:元奴隷身分の少女


 獲得スキル(既に取得済みの場合、経験値として獲得します。)

 交渉能力Lv1


 1日で同対象に複数の善をなしたため、経験値のボーナスが付与されます。


 ―――――――――――――――――


マイペースな狩人は人助けはしても、人の面倒を長期的にみることはありません。


診療所の主は狩人に回復魔法を教えた事があり、知り合いでした。


今後もポロっとある程度馴染んだキャラや設定に固有名詞をつけていく予定です。

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