5日目 1泊と1食の提供
「ひゃっ!え?!」
横から聞こえた声に反応し、全方位へ探査の網を広げつつ、立ち上がる。特に脅威となる物は感じられない、声の聞こえた方へ顔を向けると、驚いた顔をしながらへたり込む少女の姿があった。
「おはよう。」
「お、おはようございます。え、声がなんで・・」
「封印は解いた。すぐに帰りたければ仲間の元まで送るし、休みたければここにいるとよい。味は保証しないが、飯くらいは出そう。」
「あ、ありがとうございます。少し考える時間をください。」
どうやら緊張しているようであるが、声はしっかりでているし、処置に問題はないようだ。昨日、本心から逃げたいとも言っていたし、ゆっくり考えてもらう必要があるだろう。
昨日、3人の遭難者を送り届けて事情を聴くと、どうやらそこまで大きな問題でもなかったようだ。彼女は奴隷であり、他の者達は隊商の新人達であった。街から街へ移動する途中であったが、中規模な盗賊団と遭遇してしまったとのこと。戦える者が多い隊商ではあったが人数が多ければ乱戦となる。その前に「確実な安全のために」と戦えない者をとにかく森に逃げ込ませた所を俺が拾ったようだ。
その隊商のリーダーは強面の親父であったが、狩人を見ると頭を下げてきた。一目見て「森の主ですか?」と聞かれたので、ある程度この辺りのことはよくわかっているのであろう。問いに直接答えずに「狩人だ。」と答えれば、察したのであろう、「宜しくお願いします。」と、もう一度頭を下げてきた。
損得貸借にはうるさいのが商人であり、無償の奉仕はあり得ない。何か欲しい物があれば便宜を図るといわれたが、金銭は必要ない森暮らしであり、必要となれば必要なだけ狩ればよい。森に逃げ込んだ者たちを無事に送り返した事を貸し一つ、あれをもらうことで借り一つでどうだ、と話をもちかけた。相手もそれで納得したようで、彼女の契約書を差し出した。流石にそれをその場で燃やすと驚かれたが。
そのまま隊商と別れ、果実と飯になる物を収集し、いつもの古びた礼拝堂へ戻ってきて夜が明けて今に至る。
今日の朝飯は果実とハチの子の素焼きである。彼女は意外な事に嫌な顔一つせず味わうように食べていた。俺は無言で栄養素補給と割り切って食しているのであるが、どこかうれしそうな顔をしているのが不思議でつい聴いてしまう。
「美味いか?」
「おいしいです。」
おいしいらしい。それはよかった、がそれを口に出すことはできなかった。なぜならそのまま目に涙を溜めながら、「おいしいです。」と繰り返し言い続けているからだ。
塩を振るとほんのり甘くておいしいハチの子であるが、見た目は慣れるまで大変であることは、知人たちに出したときの様子でよくわかっている。師も、虫は栄養が豊富だから成長期のお前が食え、といつもすべて渡されていたのでもしかしたら苦手なのかもしれない。もう少し暑くなればセミもいけるのであるが、まだ寒さがどこか残る春の陽気、近くで取れるのはナナフシくらいか、蜘蛛はまだ小さいしなあ、と目の前の少女の様子から目を背けながら、この辺りで取れる虫を思い浮かべる。
いったいどんな食生活を送っていたのであろうか。色々と考え込んでしまう狩人と、そんな様子の狩人にとても話しかけることができない気弱な少女の間でその後も沈黙が続いてしまったことは想像に難くないことである。
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【一日一膳】
行為:宿と食事の提供
対象:奴隷身分の少女
獲得スキル(既に取得済みの場合、経験値として獲得します。)
観察能力Lv1
加工能力Lv1
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