4日目 遭難者の救出
「・・・来たか。」
強い日差しがまだ残る午後の森の中、熟れた果実達の前でおやつにどれを食べようか選んでいた狩人はすっと目を細める。感じ取った場所へ重点的に感覚を研ぎ澄ませると、珍しいことに複数の気配がある。ただし、どれも別の方向へ離れていくように感じられる。
「・・・何かを探している?もしくは逃げている?」
この森は迷い易い植生をしており、たまに迷い込み、遭難する人がいる。そして奥まで入ってくると必ず迷子になり出られなくなる。そのため、森の周りにはそれとなく入らないように【誘導】があるのであるが、それを突っ切って入ってきたのは何か意味があるはずだ。しかも、それが同時に4人で、バラバラに走っているときた。いくら迷いやすいとはいえ、走った程度で集団が離ればなれになってしまうほどの効力を持っているわけではない。意図的な散開の理由があるはずだ。気になる木になった果実を一瞥し、一息ため息をついて未練を断ち切ると一番弱い気配の持ち主の元へ向かった。目星の実も数時間くらいは持つだろう。
そのものは麻色の服一枚の恰好であった。当然ながら森の中で走れば体は傷付いていく。涙目で走るその姿は狩人からは隙だらけであった。横からまずは手首をつかみ、足をかける。たまらず頭から地面に転びそうになる体を上手く回して、地面に転ばせ、抑え込んでから声をかける。突然のことに驚くが声が上がることはなかった。
「・・肯定なら縦、否定は横に首を振れ。逃走の手伝いは必要か?」
「(!。コクコク。)」
「では少し眠っていろ。」
今日の予定は決まった。
「敗残兵か?」
「(フルフル)」
「どこかの町に住んでいたのか?」
「(コクコク)」
「逃げ出してきたのだろう?」
「(コクコク)」
「何か悪いことをして捕まったのか?」
「(フルフル)」
「目の前に兎がいたら仕留めて食べるか?」
「(フルフル」」
熟れた果実を渡して目を丸くしているその物へ狩人は様々な問いかけを行った。時々かまをかけたりしてみたが、根っからの善人であることと、どうやら色々と問題を抱えていることはわかった。首を縦と横に振ることで受け答えをしているが、それは声を出せないからだ。異様に魔力が低いことから弱っているのかと思っていたが、首の封があり声が封じられている。スキルや魔法は原則言葉で発声せねば発動しない。沈黙という効果のある状態異常もあるくらいだ。喉を使って音を出す必要はないが、正しい発音のためには道具が必要で、単に頭の中で唱えたりしても意味はない。また、魔法使いの場合は、必要量の魔力も生成する必要があるが、手足にも魔力発動を阻害する魔道具が装着されており、封がなくとも魔法発動はできないであろう。弱弱しく感じた気配はこの影響である。おそらく呪文使いであろう肉体的にもほっそりしている。しかし、だれであろうと手足が自由であれば戦える。実際このものはここまで逃げきったのだ。若き狩人は師の教えで素手の相手でも一切油断はしない。質疑応答で嘘はつかず、素直に答えていたため、狩人はこの者に対しての警戒は既に解いていた。
「とりあえずこれを食ったら今日は寝ておけ。」
「(フルフル)」
「追いかけてきたやつが気になるか?」
「(コクコク)」
「安心しろ。既に確保済みだ。」
「!」
狩人に抜かりはなかった。追手の3人からは先に聞き込みを済ませている。他に逃げ出した者もいたようであるが、森の中に入ってしまったのが運のつき、一人ずつ丁寧に捕えたが、相手もこの場所がどういう場所なのかわかっていたのであろう、素直に質問に答えてくれた。当然封印もなく普通に話せたため何故追い懸けていたのか聴いてみたところ、どうやら彼女が奴隷で、彼らは商人見習いであることが分かった。女性であることも彼らの言動でわかったことだ。値段を聞けばすぐにでも払える金額であったため、雇い主の名前と住処を聞き出すと、夜には返すから寝ていろと伝えてから眠らせた。
食事を終えると安心して気が抜けたのか、彼女は毛皮の上で寝てしまった。礼拝堂周りに仕掛けてある罠の状況と森の仕掛けに意識を向け、問題ないことを確認すると立ち上がる。
「さて、もう一仕事行くか。」
―――――――――――――――――
【一日一膳】
行為:森の遭難者の発見・確保・救出
対象:奴隷1名、追手3名
獲得スキル(既に取得済みの場合、経験値として獲得します。)
観察能力Lv1
武術能力Lv1
身体能力Lv1
魔法能力Lv1
探知能力Lv1
―――――――――――――――――




