3日目 床掃除
あの目線ははたして何が原因であったのか。
「・・味気ないな。」
朝仕留めたばかりの兎肉を頬張りつつ、思わず言葉に出してしまった。何時は不満なく食べているが、今日ばかりは昨日の守衛との食事の名残がある。普段通りの塩気だけの食事、師の教えで肉と果実を主体に食してはいるが、まだ若い狩人はそれだけで満足できるほど達観できてはいない。体の動きが違うので、間違ってはいないのであろうが、精神面での充足はできていなかった。兎と果実たちだけで十分と言っていたが、昨日食べたカリカリの衣に包まれたミートパイとチーズのかかった焼き魚の味を思い出すと唸ってしまう。昨日、守衛に連れられて入った飯屋は普段入る飯屋と比べても小奇麗で値段も高かった。中にいる人の動作も心なしかゆったりしていたように思う。少なくとも忙しなさを感じることはなかった。複雑な味付け、だが素材の味は損なっていなかった。
また、味気ないという言葉には、一人で食べている、という意味も含まれている。昔は師と一緒に食べていた。数年前に彼は「ちょっと狩りにいってくる。」と言い残し、旅立っていった。師が元気に今も狩りを続けていることはギルドで時々渡される手紙から知っているが、何時までかかるかは不明だ。初めて師とあったこの森を離れないのはそれも理由である。
食事を終えて、火の始末をしてから古びた礼拝堂に戻ってきた。ボロボロではあるが日が差し込み、唯一残った綺麗なガラスの窓は少し汚れているものの綺麗な色を出している。入り口横には昨日持ち込んだ簾と掃除道具がある。ギルドで薦められたままに買い揃え、その場で使い方も聴いている。準備は万端である。
今日の予定は既に決まっていた。
「まずは簾の設置だな。」
簾を森の中で持ち運ぶのは苦労した。馴染みのギルドの職員が嫌に進めてくるのと購買の担当からも効果は保証すると太鼓判を押されて買った数は5巻。白い木で出来たその簾は防虫・モンスター避けの半永久的な効果も持つものであり結構な値段がした。今は窓が4つに出入り口が1つ、そのすべてが開けっ放しになっているのであるから仕方のないことだと自分に言い聞かせる。本来は野営のテントや便所の設置などに使用するものらしいので、使用方法としては間違っていないだろう。窓をふさぐことで視界は狭まるが、周りは森であり、なおかつ視界に頼らない察知能力を持っている狩人はそこまで気にしない。
簾を丁寧に窓枠ふきんの出っ張りを利用して太い紐で固定していく。普段から愛用しているこの紐は、このあたりでは見かけない虫系の魔獣の糸を利用しており、普段の狩った獲物を縛ることや罠にも使用している。紐を買う際に頼まれ、自分で狩りにいったこともあるが、そのすべてが捕獲して引き渡す依頼であったことからどこかで飼育、もしくは養殖もしているのかもしれない。
窓と出入り口に設置し、すべて降ろすと、礼拝堂の中が少しひんやりした気がした。大きさは窓に対しては十分な幅であるが、出入り口には対しては少し足りない。もう一つ設置するか別の手段が必要そうだ。
「次は床掃除を済ませるか。」
買ってきた箒は一見すると見た目はなんの変哲もない物であるが、重力の魔法が使用できる魔道具でもある。その効果の一つは上下に浮かぶことができる。使用に魔力が必要ではあるが、屋根や木の上に上るときにも利用できるということで、一家に一本という名目で広く普及している。簾の設置の際もこれを利用して安定した足場を確保した。掃き掃除の際には塵を残さず浮き上がらせることができ、掃いた先におとすことができる。
昼を過ぎても作業を続け、お腹が鳴る頃には、年季の入ってはいるが綺麗な床が広がっていた。
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【一日一膳】
行為:簾の設置
対象:礼拝堂
獲得スキル(既に取得済みの場合、経験値として獲得します。)
加工能力Lv1
観察能力Lv1
行為:床掃除
対象:礼拝堂
獲得スキル(既に取得済みの場合、経験値として獲得します。)
採取能力Lv1
観察能力Lv1
3日連続で達成したことによりスキル「三日坊主」を獲得しました。
1日で同対象に複数の善をなしたため、経験値のボーナスが付与されます。
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マイペースな狩人さんの師は何を狩りに行ったのでしょうか。
登場予定は未定。
魔道具が登場。今後も不思議な効果を持ったものが出てくると思います(ご都合主義的な!)。




