2日目 兎肉のお裾分け
今回は午後の出来事です。
「おう、あんちゃん。帰ってきたか。」
ふと目線を向けると、見慣れた顔が目に入る。彼は、町の守衛であり、毎度通るたびに声をかけてくる。彼とは飯屋に一緒に飲みに行くこともある仲だ。酒は飲まないため、いつもミルクを頼むのであるが、彼も合わせてくれたのか、いつも酒ではなく、ジュースを頼んでいる。仕事柄、酔いつぶれるわけにはいかない、ということもあるのだろう。
「今日の獲物はなんだ?」
「ああ、こいつらだ。」
「それは・・、角兎の亜種か。久しぶりに見たな」
背負っていた兎を見せる。仕留めた後にすぐに冷やし、内臓を抜いたものが3羽、紐で縛ってある。朝一番に5羽仕留め、朝昼で既に2羽食べている。角兎は魔石と角の両方に価値があり、肉も売れる。難易度も低く、数も多いためちょうどよい収入源だ。それに魔石と角は保存もしやすい。肉はさっぱりしつつも脂が乗っていておいしいのであるが、連日食べたくなるほどの物ではないし、日持ちはしない。
ふと、思いつく。今日はまだ一膳を達成していない。
今日も朝から、ゴミ拾いをしたのだが、なんというか「達成した」という感じがしなかったのだ。おそらくは、同じようなことを繰り返しても達成条件を満たさないか、得られるものが少ないのであろう。
しかし、彼はこいつらを見て「久しぶり」といった。毎日食べる気にはならないが、肉はさっぱりしつつも脂が乗っていておいしいのである。
今日の予定は決まった。
「うめえな。最近食った肉は猪系ばかりだからよう。」
「・・確かに美味い。だが、今日は他の物を頼むとしよう。店主! 兎肉以外で、できれば海の物でおすすめはあるか?」
「生きの良い青魚が入っていますが、いかがいたしましょうか」
「焼きで頼む。付け合せはおまかせで。」
ギルドで依頼があるか探すか、肉屋に卸すつもりだったが、お裾分けをすることにした。
飯屋に持ち込んだ兎肉は店主がきっちり調理してくれた。自分で調理するのもよいが、やはりプロに任せるのが一番だな。一口だけ味見したが、ミートパイ、美味かった。自分では絶対作れない料理だ。だが、今日は既に2食が兎、さすがに3食兎は・・・いや、他に選択肢がなければ当然食べるのであるが、他に選択肢があるのであれば当然それを選ぶだろう。
漂ってくる焼き魚の香りに意識を奪われつつ、ミルクをちびちび飲む。
「街に住むのは嫌か?」
「・・・嫌というわけではないが、森の中の方が落ち着くな。」
「そうか。俺の家の横がちょうど先週に空いたからな。もし探しているなら大家にかけあうぞ。」
「住む家を探す時は頼むよ。」
のんびりした時間を満喫していたが、唐突な質問に守衛の方に意識を向ける。街の料理は美味いし、森では食えないものが食える。海の魚も野菜も森では手に入らない。しっかりした家もそうだろう。だが、拠点を一か所にするつもりはない。街に家を持つとしても毎日いることはないだろうし、それならば森で自由に過ごすほうがよいのだ。
「今日は飯の後はすぐ帰るのか?」
「ああ、換金して色々買ったし、明日はやりたいこともあるからな。」
焼き魚をほおばる。うむ、美味い。上にかかっているのはチーズか。蒸し野菜もいい感じだ。しっかり堪能せねば・・・。
「またのお越しをお待ちしております。」
「ありがとう。美味かったぜ。今度時間があるときに家までこいよ。泊まっていってもいいぜ」
「ああ、その時はお邪魔させてもらうよ」
店を出て門を目指す。守衛は店を出てすぐ家の方へ帰って行ったので今は一人だ。荷物を背負い直しつつ、道を歩く。チラッとこちらを見る人は多いが、すぐに目線を外し話しかけてくる人はいない。当たり前だ。世の中、誰しもに声をかける人は稀である。あの守衛は最初にあった時から気さくであったような気がするが、街の人皆がそうでないことはよく知っている。しかし、今日はその視線に憐みや恐れが含まれているような気がした。目線を合わせても特に反応がなかったため、気のせいかもしれない。うーむ、そんなに服装が貧弱なのだろうか。結構丈夫で気に入っているのだけどなあ。
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【一日一膳】
行為:お裾分け
対象:仲の良い守衛
獲得スキル(既に取得済みの場合、経験値として獲得します。)
交渉能力Lv1
観察能力Lv1
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マイペースな狩人さんにも知り合いはいる。
今の所、飯屋の店主、守衛の2人だけ。
取引相手、仕事仲間も別にいる。




