11日目 道案内
光陰矢のごとし
朝のしっとりした静けさの森、どこか遠くから鳥の鳴き声が聞こえる。まだ、薄暗いその中を歩く人影があった。
「いやあ、今回は疲れた。海を自在に作るなんてな。さすが海の王様だわ。」
「あれには参った。海の壁は流石に弓が届かん。今回は賢者には苦労をかけたな。」
「あなたは周りの雑魚担当って役割を全うしていたじゃない。おかげで魔王に集中できたわ。でも、雷魔法を海水で逸らされたときはちょっと焦ったわ。・・海水だから雷魔法で余裕でしょ、って誰のセリフだったかしら?」
「すまん、すまん、知らなかったんだよ。水タイプに電気ってのは鉄板なんだけどなあ。まあ、地面で無効化なんてのもよくあったけど。後雨降らせてくるのは想定外だった。あめふらしにすいすい持ちとかチートだわ。」
「お主の知識は有用なのかそうでないのか判断に困ることがあるからのう。まあ、何でも試してみることが大切じゃ。」
狩人が少女を川の源泉まで連れて行く予定であったが、勇者パーティの3人がなぜか先導している。他のメンバーは朝が苦手なため宿に置いてきたようだ。
「狩人さんは勇者さん達と知り合いだったんですね。魔王退治ってやっぱり大変なんだろうなあ。」
「魔王は2回みたことがある。今回の相手はなかなか手ごわかったようだな。海の魔物は強い。(だからこそ食べごたえがある。)」
「魔王ってことはどこかの国の王様なんですか?」
「いや、魔物の王という称号だな。早いと1年に1回出現するのだが、ある程度年月を経て強くなった魔物が魔王となるようだ。国を治めている王とは違い、どちらかというと将軍のような存在だな。必ず軍を率いて攻めてくる事が特徴だ。」
「ほええ、強くて悪い魔物さんなんですね。」
「確かに強いが、悪いとは限らないな。以前あった魔王は、片方は助けを求めてきたので保護したし、もう片方は、・・・勇者たちが倒したな。」
「善い魔王さんもいるんですか!」
(君は両方見たことがあるはずなんだが、これは、本当に気付いていないようだ。)
魔王といえども、自分から必ず名乗るわけではない。狩人や勇者は一目見れば魔王かどうかわかるが、一般的には暴れていなければそこらの魔物と何ら変わりなく、強さも魔王化した際に取得したスキル次第で様々であり、戦闘力で見れば通常の魔物と変わらないときもあるのだ。
「魔物も友好的な種はそこそこ多い。大体10種に1種か2種は人にも友好的だ。残りもほとんどは人に懐かないというだけであって中立。ただ、魔物同士では種族単位で明確に対立している。それはお互いの魔石を食べるために戦っていると言われているな。魔石を食べることで魔物は強くなるらしい。魔王であってもそれは変わらないそうだ。」
「そうなんですね。魔物は怖いものとばかり思っていました。」
「これから会いに行く相手も、一応魔物だぞ?」
「へ?」
「ついたぞ。」
突然森が開ける。そこには湯気の立ち上る泉があった。周りには大きな狼達が寝そべっている。モフモフ大好きな勇者がワクワクし始めていたが、それを敏感に感じ取ったのか一斉に、スクッ、っと立ち上がる。
「!」
少女がびっくりして思わず飛び跳ねる。無意識ではあるが狩人の腕に抱きついていた。狼達は一瞬狩人達の方を見るが、そのまま森の奥へ走り去っていった。
「ああ、行っちゃった。」
「あんたの目が怖かったのよ。本当に獣耳大好きよね。」
「ええ・・。だってもふもふしたいじゃん。獣耳の女の子がいれば、告白して、健全なお付き合いから始めるのに。」
「ほほ、獣耳を人間が持つというのは面白い発想じゃな。獣化のスキルを持つ者はおるが、耳だけ獣というのは聞いたことがないのう。・・!」
その時、突然水が割れて何かが飛び出してきた。気を緩めていても流石の勇者達、一瞬で身構えた。しかし、それが何か分かると緊張をとき、構えを解いた。そして、狩人は構えすらしていない。最初から見えていた。そしてそれは猛烈な速度で向かってくると叫びながら狩人に抱き着いた。
「ああああ! また女の子つれてきて! この浮気者!」
「ええ!?」
それは少女を見ると、狩人との間に割って入った。そして、歯をむき出して威嚇するかのように唸り始めた。
「う、うわきって!えっと、私はそんな、あわわ。」
「狩人に近づく女はみんなそういうのよ!彼は私のなんだから!」
「ええっ!?そ、そうだったんですね。あの、ごめんなさい。」
「・・・育ての親というだけだ。気にしなくていい。」
「ふん!」
「あううう・・。」
突然始まった言い合いに、しかし、3人は動じない。見たことがあるからだ。
「前にもこんなことがあったな。あいつ、本当に人外にモテるよな。」
「あら、人にもモテモテよ。町に来るたびに女の子に相談を受けるわ。」
「うむ、敵を作らぬこと。それが一番の強さじゃ。しかし、味方同士での争いを止めるのが一番大変なのじゃ。」
「はあ、俺も早く獣耳女の子見つけて仲良くなりたい。」
勇者達は気にせず泉を回り奥に入って行った。勇者達がここに来た理由は温泉があるからである。始めて来たときは狩人と師、勇者達で一戦交えたが、森を荒らしにきたわけでないとわかると、師が先導してここにつれて入った。勇者は風呂好き、賢者は肌に良いということで定期的に訪れている。
残された少女は狩人の前で質問責めにあっていた。
「歳はいくつなの?」
「え、えっと11、だと思います。もうすぐ夏に12になります。」
「うーん人間にしては成長が遅いわね。長命種の血でも入っているのかしら?」
「い、いえ、わかりません。すみません。」
「そう、もっとちゃんと食べなさい。体作りは最低限よ。」
「は、はい!頑張ります!」
「で、この子のどこが好きなの?」
「優しくて頼りになるところです!」
「ふーん、そう。何かしてあげたいことはある?」
「えっと・・、手料理を食べてもらいたいです。!」
「いい心がけね。海の幸なら何でも喜ぶわ。だからと言って手を抜いてはダメよ。」
「はい!わかりました!」
「・・・・。(海の物ならなんでも、とは言えんな。)」
いつの間にか姑と嫁のような会話になっているが、狩人は何度か見た光景であるために何も言わないでいた。ここで下手に口を出すと余計に話がこじれるし、そもそもマイペースな彼は余り気にしていなかった。
「よし!あなたを4人目の妻候補として認めます!善行を積みなさい!」
「ありがとうございます!」
「終わったか・・。」
いつの間にか妻候補が4人になっていたらしい。2人まで思いつくが、3人目は思いつかない。いったい誰なんだ。狩人は考え込み、そして、ふと思い出す。
「そういえば、あの礼拝堂で聞こえる声ってスキュラの仕業か?」
「あら、気付いたの?そうよ、一日一善でスキルが貰えるってウンディーネに聞いてね。でもこれを達成する前に、明確に誰かに教えられると貰えなくなるらしいの。しかも一定以上の善行じゃないとダメなようだけど、狩人なら簡単に達成できると思うわ。」
「ああ、いくつか伸びていた。」
あの声はスキュラの仕業であったようだ。道理で壁際にあるの水場近くほどはっきり声が聞こえたわけだ。彼女は水をとして声を届けるスキルをもっているのだ。
この世界にスキルを与えてくれるような絶対の神はいない、しかし、魔法があり、スキルがあり、それらを会得する手段はある。
また、二人で話し始めた二人から目線を逸らし、今日は何が出来るかを考える。この森に入る人は少ない。迷い込む人も年に1度あるかないか。今日も森は平和であった。
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【一日一膳】
行為:川の源泉へ案内する
対象:将来の嫁候補の少女
集計結果(能力に補正がかかります。)
交渉能力Lv4
観察能力Lv4
探知能力Lv4
加工能力Lv2
採取能力Lv3
身体能力Lv4
武術能力Lv3
魔法能力Lv3
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2週間ありがとうございました!
ちょうど仕事の合間で時間が取れていましたが、また忙しくなります。
またいつの日か。あまり肉付けができませんでしたが、これにて完結です。




