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㈱ムラクモエージェンシーの社畜ども   作者: ケムリネコ
即席魔動人形編(担当:四季守ミサオ)
4/6

~即席魔動人形(インスタントゴーレム)④~







ごとんっ、と音をたて、少女から落ちた物。

手のひらにギリギリ収まりそうなくらいの、硬質な塊。


『多機能携帯式機器』、通称『携帯(ツール)』だ。


電話にゲーム、カメラ、コミュニケーションツール、位置情報登録に買い物。

その機能を挙げればきりがない。

国内での所持率は95%を越え、都会圏に至ってはほぼ100%、それどころか一人2台、3台持ちは当たり前になっている超便利道具。

特に若者層の普及率は凄まじく、持っていなければいじめの対象どころか、社会から置いてきぼりにされる。

それくらいの物。


それが私の視界の先の方で、光を放っている。

その光は携帯のものじゃないと直感した。


あれは、『魔象』的な輝きだ。


もしかしたら、あれが根源なのかも知れない。


「ほらよッ!」


私の声にすかさずカゲ先輩が反応し、拾い上げてこっちへ投げる。

両手が塞がってキャッチできず、携帯は私の足元に転がり私へその画面を映し出す。


これは……。


画面に映っているのは、ミミズが這い回ったような一見すると意味不明な文字のようなもの。それが発光してるみたい。

普通の人なら分からないだろうけど、私は分かる。

私は魔象使いで、傀儡使いだから。


これは、魔動人形の『刻印(こくいん)』の一種だ。


こんな意味不明な文字一つが、この泥人形を司っているのだ。

でも、どうして携帯に?

普通なら、泥人形、つまり造り出した対象に直接刻み込むもの。


「何だよ!?それが関係あんのか?」


カゲ先輩の声で、私は判断を迫られている事に気付く。

アザミは泥人形を食い止めてるけど、パワー馬鹿な相手だ。いつまで持つか分からない。

それに両先輩はまだ少女を完全に助け出せてない。

……でも、とりあえずはこいつを止めなきゃ。


「あります!こいつ、これの画面に刻印が……!」


「マジかよ。踏め!踏んでぶっ壊せ!」


カゲ先輩の言葉に、私は脚を伸ばす。

けど……と、届かない。

恥ずかしながら、私は身長が155㎝もない。実は小柄なのだ。

ミニマム……といえば聞こえは良いが、要するにチビ。

身長も欲しい。ついでにバストも欲しい。美脚になりたい。可愛い女の子になりたい。

私はコンプレックスの塊なんだ、実は。


「と、届かないですっ」


「あー、ミサちゃん小さいもんね、仕方ない仕方ない」


やんわりと同意するキヨ先輩。お気遣いありがとうございます。

でも、届かないのは良くないですよね。

だから、早く何とかしてくれぇっ。


「これだからチビは!俺がやる!」


「あ、今チビって言った……」


カゲ先輩のグサッと来る言葉とともに、彼の手から何かが放たれる。


ばきんっ!


硬いものが割れる音がして、転がっていた携帯の画面が砕け散る。同時に、浅く何かが画面に突き刺さった。

三菱型の営利な刃。忍者の古典的武器、『手裏剣』だ。

画面が砕けたからだろう。刻印は消え、携帯を包んでいた魔象の光も電源が切れるように消えた。

これで魔動人形は止まり、自壊するはずだ。

……待てよ。

……自壊する……!?

やばっ。


「先輩、崩れます、逃げてッ!」


叫んだときには、もう遅かった。

泥人形は只の泥土となり、音をたてて崩壊する。

物凄い量の土が、両先輩とアザミ、少女に降り注ぐ。

……というか、泥土が3人と1体を押し潰す。


「先輩ーっ!」


目の前にあるのは、もう泥人形じゃない。只の山盛りの土だ。

……し、しまった。タイミングをもっと考えれば良かった。

多分酷い事にはなってない……ならないはず。

とりあえずアザミだけでも何とかしようっと。

まだ繋がっている糸を手繰り、アザミを操作する。

積もっていた土を払い飛ばすように腕を大の字に開き、アザミが姿を見せる。

まぁアザミはね……傀儡だし。


「ミサぁ……てめぇやってくれるじゃねーか。クリーニング代は出してもらうからな!」


ドスの効いたカゲ先輩の低い声。

めっちゃ怒ってる。凄くヤンキー感が出てる声だ。

すみませんすみませんすみませんすみませんすみません!

土山から、泥まみれの両先輩が姿を見せる。

同じく泥まみれの少女を抱えて。


「ミサちゃーん、こうなるんなら早く言ってくれよ」


「すみません、つい焦ってしまいました……」


謝罪の意を込めて、90度に頭を下げる。

顔を上げると、泥まみれのキヨ先輩が白い歯を見せて笑っていた。キヨ先輩の場合、何故か笑ってる方が怖い。そして、何故かカゲ先輩より怖い。


「ま、女の子は無傷で保護できたし良しとしようか」


「……だとよ。一個貸しな、ミサ」


「はい。すみませんでした……」


覆面の中まで土が入ったんだろう。それを外してカゲ先輩がぱたぱたと払う。

本当にそれが泥人形となって私達に掛かってきていたのが嘘のように、あるのは泥土の山と、片付いた静寂。


終わった。


「おー、片付いたか。さすがムラクモさんは良い仕事するねぇ」


不意にしゃがれた声がして、くたびれたコート姿の男が入ってくる。

……制服姿の警官を、何人か引き連れて。


「傍観してやがったな。多少手伝ってもいーんじゃねーのかよ」


警官に噛みつくのはヤンキーの性なんだろうか。間髪入れずカゲ先輩がそのおじさんにメンチを切る。

飄々とした雰囲気のそのコート姿のおじさんは、へらへら笑いながら手をぱたぱたし。


「いやいや、ムラクモの人が来てるんなら俺らが手出ししたら逆にこっちが怪我しちまうよ」


……半分は嫌味だ。

ムラクモエージェンシーは業界でも指折りの実力派であり、同時にクラッシャーだからだ。

ましてや、魔象3課は特に。


「ヤマさん、そういうのあちこちで言わないでよ?評判下がっちゃうからさ」


「悪い悪い」


キヨ先輩が、またやんわりとたしなめる。

私達が主に担当する事が多いエリアの刑事、『山神 テツオ』、通称『ヤマさん』。

見てからに刑事ですと言わんばかりの、薄手の茶色いチェスターコートがトレンドマーク。

どちらかというと軋轢や衝突が多い、警察と私達魔象企業。

何でって、やっぱり縄張り争いやメンツが絡むから。

魔象企業の面倒や始末を警察がつけることも多々あり、警察の私達への評価は決して良いとは言えない。

でも、その中でもヤマさんは少し違う。一般人でありながら私達を純粋に『自分より有能な者』として見てくれている、中々珍しい人だ。

その代わり、結構さっきみたいな嫌味も言うけど。


「んじゃあ後始末はまた俺らがやっときますか。ムラクモさんは忙しいだろうからなぁ」


「あ、山神さん、お疲れ様です」


「お、四季守ちゃんもいたのか。相変わらずちっせえから、わかんなかったわ」


ムカつく。アンタだってそんなに大きくはないだろう。

というか、その不精ヒゲを剃れ。渋いと思ってやってるんだろうが、小汚ないだけだぞ。

……と心の中で毒づく。


「あの、アザミがいるんだからいるに決まってるじゃないですか」


「おぅ、そういやそうだな。四季守ちゃん、相変わらず可愛いねぇ」


本気で言ってるのか分からない誉め言葉に、とりあえず愛想笑いをして会釈しておく。


「ありがとうございます。あの、この子、多分だいぶ体力を奪われてると思います。出来れば救急車の手配をお願いします」


「あぁ、もうしてあるよ。ちょっと待ってな」


さすがに老練の刑事、場数踏んでるからちゃんとしてるな。

私達は体育館を後にし、再び渡り廊下へと戻る。

泥土の始末は警察にお任せしよう。めんどくさいし。

ギャラリー達はまたきゃっきゃと集まってくる。

帰ってなかったのか。めんどくさいなぁ。


「終わったっぽいよ」


「うわ、泥だらけじゃん」


「体育館も泥やべー。明日使えんのかな?」


「マジ?うわっ、アイツもじゃん。きったねー」


本当に感じ悪い言葉しか出さないなこいつら。

良かったとか、安心したとかないのかよ。

なんと言うか、やりがいが感じにくいな、これじゃ。


「戻れ、アザミ」


私はアザミを操り、呼び出した時に使った法陣の上へと戻す。

そこで勢い良く手を振り、糸を切り離す。

音もなく、アザミの姿が法陣の中へ消えていく。

出てきた時と逆回しのような感じだ。

またギャラリーから、おーっとどよめきが起こる。


「さて」


私は、床に転がっている携帯を取りに戻る。

突き刺さった手裏剣を抜き、もう一度画面を確認する。

ばっきり割れてブラックアウトした画面は、私の顔をいびつに写しているだけ。


「おいミサ、一体どういう事だったんだよ?」


「私もいまいち確証が持てないんですけど……どうもこれが大元だったみたいです」


「……つまり?」


「この携帯の画面に、魔象人形(ゴーレム)に本来直接刻み付けるべき刻印が映し出されていました。多分、人形を呼び出したのはこの携帯で、あの子はどちらかというと原動機(エンジン)役だったんじゃないかな、と」


「魔象使いじゃなく携帯が召喚()んだってか?馬鹿馬鹿しい、世も末だな」


「でも、そう考えるのが自然だと思います」


カゲ先輩と話していると、ヤマさんが割って入る。


「おい、それ証拠品として押収するぞ。いいか?」


「あ、待ってください。こちらでちょっと調べたいので、少しお借りできませんか?もしかしたら、新しいパターンの魔象犯罪かも知れません」


「しゃあねぇなぁ。上には言っとくけど、早めに出してくれよ?」


「はい、もちろん。ありがとうございます」


サイレンの音が聞こえる。

それは段々と大きくなり、こちらへ近付いてるのが分かる。

救急車だ。女の子を搬出しなければ。


「先輩、女の子は?」


「うん、多分気を失ってるだけ。息はしてるよ」


キヨ先輩が、脇に抱えていた女子生徒を抱き上げ、『お姫様だっこ』する。


「うわ、うぜー。アイツ役得じゃん」


「むかつく。帰ってきたらぜってーまた……」


「ぎゃんぎゃんうるせーぞ、さっきから!なんなんだてめーら、ごちゃごちゃごちゃごちゃと!なんだ、こいつをイジメてたとかか?クソうぜーんだよ!全員ぶちのめしてやろうか、あぁん!?」


……あ、キレた。


激昂したカゲ先輩が、物凄い剣幕で怒鳴り付ける。

ドスの効いた声に、切れ味抜群の目力。それで周りの生徒にガンを飛ばしまくってる。

一瞬で辺りの空気が凍りつき、しんっと静まり返る。


「おら、どうしたぁ!ごちゃごちゃ言ってた奴出てこいや!俺はな、そういうウジウジした奴はマジで大嫌いなんだよ!親の脛齧って生きてるクソガキが、調子に乗ってんじゃねーぞオラぁ!」


当然、反応はない。

事情を察したのか、ヤマさんがカゲ先輩の肩をぽんと叩く。


「もうその辺にしとけ桐生。お前も大人げないぞ」


「……ちっ」


たしなめられ、カゲ先輩は一人その場を離れる。

痺れるような啖呵。私も1度でいいからあんな風に言ってみたいな。


「カゲはさ、ああいう奴だから。不器用で真っ直ぐなだけなんだよ。口はめちゃくちゃ悪いけどさ」


「そうですね、知ってます。あぁじゃなきゃ、ある意味カゲ先輩じゃないですよ」


「だよね。ミサちゃん、フォローしといてね。こっちは俺がやっとくから」


「はい、お願いします」


キヨ先輩、本当にカゲ先輩の事理解してるんだな。

こういう時のキヨ先輩は本当に頼りになる。

私は事後処理を任せ、カゲ先輩を追いかけた。












ぷかぁっと、暗くなった空にたゆたう煙管の煙。

校門の端っこで、カゲ先輩はばつが悪そうに煙管を吹かしていた。


「先輩、お疲れ様でした」


「……おう」


ヤンキー座りしている先輩の隣に、少し距離を置いて私もしゃがむ。

やりきれない感じのカゲ先輩の表情に、胸が少し締め付けられた。


「……私も、ちょっと変だなって思ってました。誰も『良かった』って言わないし、みんな冷やかすみたいにしてて」


「……そうか」


言葉少なに、カゲ先輩は煙管を吸い込む。

また、独特な香りの煙がゆらりと宙に浮かぶ。


「……俺はさ」


先に話し始めたのは彼からだった。


「俺は、知ってると思うが『忌流』の一族だ。忌流の忍びと言えばその世界じゃ名門に入るんだ。でも俺はこんな性格だからな、一族の中で落ちこぼれというか、異端扱いだった」


「はい」


「だから俺も散々陰口やら文句を言われててな。俺は実力で跳ね返したが、当然世の中皆が皆それをできる訳じゃねー」


「はい」


「一概に比べられる訳じゃねーけど、陰口を叩かれたり嫌味や文句を言われたり、何らかの理由で爪弾きにされてる奴はさ、何となく自分と同じような気がしてさ」


「はい」


「だから、どうしてもムカつくんだよ、ああいうの。言われる側にも問題がねー訳じゃねーとは思う。けど、大前提として、ああいう物言いはダメだろ」


「そうですね。私もムカついてました」


「そうか。無理して俺に合わせなくていいぞ」


「いえ、本当に。イジメなんて、見てて聞いてて気持ちいい訳ないじゃないですか」


「……まぁそうだな」


日が暮れて、辺りは暗くなった。

街灯に明かりがつき、夜を群青に照らし出す。

その光が映し出すカゲ先輩の横顔は、落ち込んでいるんだけど、私にはやっぱり、凛々しく見える。

カゲ先輩は、私の憧れの先輩だから。


「あの、さっきはすみませんでした。スーツ、泥だらけにしちゃって」


「あぁ、もうそれはいいよ。キヨの言う通り、対象が無事だったんだからな。それで充分だ」


「でも、そのスーツ自前ですよね?高いやつじゃないんですか?」


「まぁな。特注品だしな」


「今度クリーニング代、払いますね」


「要らねーよ。女に金出させるのは嫌いなんだ。会社に出させるから気にすんな」


「……ふふっ」


「……俺何か変な事言ったか?」


「いえ。先輩、なんだかんだで真面目ですよね。口は悪いですけど」


「……うるせーな。どうせ俺は社畜だよ」


「くすっ、そうですね。私もです。私も、多分社畜体質なんで分かりますよ」


「じゃなきゃやってらんねーよな」


「はい。こんなキツくて大変だなんて、入社したときは思いませんでしたし。残務処理や管理作業もたくさんあるし」


「な。魔象使いって言やあ、華々しく見えるかも知れねーけど、逆に俺達は普通の仕事なんてやらせてもらえねーんだよな」


「そうですね。でも、きっと必要な仕事ですよ」


「そうだといいけどな」


「元気出して下さいよ。カゲ先輩が落ち込んでると調子狂います」


「馬鹿、別に落ち込んでねーよ。普通だ普通。ただ……」


「ただ?」





「………………ちょっと認められたかっただけだ」





最後の言葉は、結構グッと来た。


仕事は、本来賃金を得るための手段に過ぎない。

だけど、やっぱりやるからにはやりがいが欲しいし、責任感を持っていたい。

そして何より、頑張りを認めてもらいたい。

『ありがとう』とか、『助かったよ』とか、ありきたりな言葉かも知れないけど、それがあるだけでどんな仕事も次に繋がるモチベーションを得られる。

それは私達、魔象使いも同じだ。

一般人とは違う、異能の者。

それでも、やる気や使命感はあるし、欲しいし。

それを望む事って、そんなに高望みな事なのかな?


私達は魔象使い。




異端の力をそれぞれ持つ、普通とは少し……いや、結構違う者たち。





そして何より、只のサラリーマン。
















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