~即席魔動人形(インスタントゴーレム)③~
ムラクモエージェンシー魔象3課、四季守ミサオ。
魔象使い。
使用魔象、『傀儡』。
名称、十指操作型傀儡人形『アザミ』。
私の両手の全ての指から、光る糸がするすると伸びる。
ピアノ線のようなその糸は真っ直ぐ法陣へと向かい、それに合わせて法陣も呼応し光り始める。
釣り上げるように両手を上げ、ぐいっと引っ張る。
応えるように、『私の相棒』がその姿を現す。
鈍く金属的に光る、魔象金属製のボディ。
人間と同じ、二本の腕と二本の脚。掌は人間のそれよりもずっと大きく、指はもっと凶器的に尖っている。
人間とは違う、単眼の武骨で無機質な顔。口すらも武器として使う為、使用しないときは上顎と下顎は拘束されている。
レンズのように光る赤い単眼は、西に傾いた太陽の光を反射して煌めく。
屈葬された屍のようにその長い手を体に巻き付けて屈んだ姿勢で姿を現す、私の相棒。
十指操作型傀儡人形、アザミ。
そう、私の扱う魔象は『傀儡』。
私は、傀儡使いだ。
「……いくよ、アザミ」
アザミの各関節に、私の指から伸びた操り糸が結合される。
私が指を動かすと、それに合わせてアザミが屈めていた体を広げる。
ばぎっ、ばきばきばきっ。
両手両足を展開させ、アザミを立たせる。腕が長いから、人間というよりはテナガザルのようなシルエットだ。
全身を武器として使う為、体の色んな所が鋭利になっている。特に指先、頭、肘、膝、背中。
「はい、危ないので離れて下さい。ケガしても責任は負えませんので」
私の言葉とアザミの大きさに、周りにいた野次馬達はそろそろと距離を取り離れていく。
「なにあれ、ヤバくない?」
「人形?ヤバーい、超トゲトゲじゃーん」
「でかいし。ヤバい、写メ撮っとこ」
……ウザい。
私の許可もなく、ぱしゃぱしゃ写メ撮りやがって。
……ダメダメ、慣れなきゃ。いい加減慣れなきゃ。
私の傀儡にしろ速見くんの魔動人形にしろ、こういう事は毎回付いて回る事だ。
「ちょ、ちょっと、ウチの生徒の安全は保障されるんですかっ!?」
教員だろうか。スーツ姿の男性が強めの剣幕で私に詰め寄ってくる。
その発言、本当に生徒の事を思っての事?
それとも、その先の自分の保身のため?
「最善は尽くします。近づかないでもらえますか?両手を操作で使いますので」
私は教員の剣幕に怯むことなく、眼鏡の奥から鋭い視線を送る。
戦う前から、無関係なギャラリーを傷つけたら始末書ものだ。
「大丈夫だよセンセー。この子優秀だから。まああとは俺達に任せといてよ。ちゃあんと片付けるからさ」
アザミで両手を使う私の代わりに、キヨ先輩が教員をなだめ、両肩を押さえて私から教員を離す。
「一般人は黙って見てろ。あとはプロに任しとけばいーんだよ」
覆面ごしにくぐもった、ドスの効いたカゲ先輩の声。
さすがに教員もビビったのか、自分で下がっていく。
「よし行こうか。俺が扉開けるから、カゲ、ミサちゃんの順で入って。……っていうか、アザミ入れる?」
キヨ先輩の言葉に、私は改めてアザミのサイズと扉を確認する。
「無理ですね。ぶち破ります」
「頼もしいねー。ま、それくらいはさすがに必要経費だよね」
多少の損害は、この場合やむを得ないでしょ。
キヨ先輩が、ケガをしてる左手で鞘を握り、右手を扉にかける。
両手を籠手で武装したカゲ先輩が扉の前に詰め、前傾姿勢。
その後ろにアザミと、更にアザミの後ろに私。
ふと。
「やばっ、あの子死んじゃうんじゃない」
「くすくすっ、おもしれー。死んだら机に花飾ってやろーぜ」
「超ウケるー。そうなったらざまーみろだよねー」
……何?こいつら、何言ってるの?
私の後ろの何人かの生徒の会話だ。
明らかに強い悪意を感じる言葉と、くすくすと嘲笑う声。
……これは何かあるな。
今回の対象の生徒絡みだろうか。
「いくよ、せーのっ」
ヤバい、集中しなきゃ。
私は後ろの声を意識から切り離し、扉に集中する。
がらららーっ!
扉を開けるキヨ先輩。
合わせて、何かが弾け飛ぶようにその先で光っていた幕が砕ける。
ヒトミの張ってくれた結界が壊れたんだ。
もう後戻りは出来ない。
「っしゃ、行くぞミサぁ!」
先陣を切って、カゲ先輩が忍者らしい身のこなしで体を館内に滑り込ませる。
「はいっ!」
続けて私の操るアザミが突入する。
べきべきべきぃぃぃ!!
入口がアザミの体に押され、扉の枠ごと砕ける。
仕方ない、必要損害だよ、必要損害!
こうして、魔動人形の鎮圧戦は幕を開けた。
……なんだ、コイツ。
私は目の前に居る、酷い造りの魔動人形を睨み付けた。
泥を固めて作った土製の体は人の形を成しておらず、まるで崩れかけの泥人形か、溶けかけのフィギュアみたいだ。
その体を、学校の机や椅子、よくわからない備品等がごてごてと飾り付けている。
余りに出来が悪い。いや、別にどうでもいい事かも知れないけど。操作系魔象使いとしては、こんな中途半端な造りの物は何となくムカつく。
胴体と思われる、人形の中央辺り。泥に胸まで埋まった状態で、1人の生徒が取り込まれてる。目を閉じて、意識がないようだ。
ずっ、ずずずっ。
私達を認識したらしく、出来の悪い人形がこちらへ体を向ける。
「まずはもう一回、契約の印がどこかにないか確認します!」
「了解。キヨ、散開するぞ」
「あいよー」
私の指示で、二人が左右に散る。
人形はどう動く……?
ず、ずざざざぁぁっ!
泥でできた腕らしき部分が、キヨ先輩を追う。
「お、来るか?望むところだー」
軽いノリでキヨ先輩が納めていた刀を抜き、白刃が体育館に射し込む光に反射する。
机や椅子を巻き込んで凶器化した腕部の攻撃をひらりとかわしている間に、カゲ先輩が華麗な身のこなしで人形の肩に取り付く。
それを払おうともう片腕が動くが、遥かにカゲ先輩の方が速い。
肩から背中、脇腹、脚へと瞬く間に移動し、印を確認していく。
「どうですか?有りますか?」
「いや、見当たんねーぞ!」
ばきぃぃぃっ!
「カゲ先輩っ!」
私の問い掛けのせいだ。カゲ先輩が返答して私の方を向いた瞬間、彼の体が腕部の攻撃で吹っ飛ぶ。
「先輩っ!」
「大丈夫だよ、でけー悲鳴あげんな!」
吹っ飛んだカゲ先輩が壁に着地し、クロスさせた籠手の奥から私を睨む。
うう、すみません、すみませんっ。
「こっちも見当たらないなー。ミサちゃん、どーする?」
「おいミサ、とりあえずこっちも反撃すっからな!」
待って、いっぺんに色々言わないで。
「えっと、はい!とりあえず人形を出来るだけ無力化しましょう!」
「っしゃ!片腕もらうぞ!」
カゲ先輩が、胸の前で何回か指を使い印を組む。
「『飯綱』!」
ばしゅっ!
籠手を振ると、繰り出された衝撃波で人形の片腕から激しく泥が散る。
細くなった部分に、更にカゲ先輩が籠手で一撃加える。
どしゃああぁぁぁっ!
千切れた腕部が床に落ち四散する。
「じゃあ俺もっ!」
もう片腕の攻撃をかわしていたキヨ先輩が刀を下段から斬り上げる。
どしゃああぁぁぁっ!
振られて閃く冷たい刃は、紙切れでも斬るように容易く腕部を切断し、人形はもう片腕もあっさり落とす。
のろまな泥人形は操り主の力の弱さを如実に物語る。パワーはあるけど、スピードと防御はからっきしみたいだ。
一旦攻撃が止まり、二人が私の所に戻ってくる。
「……多分、ありゃすぐに復活するな。いたちごっこになるぞ」
カゲ先輩の言う通りだ。現に、泥人形は四散した腕を繋げようと図体を屈めている。
散っていた泥土が、少しずつまた腕の形を取り戻している。
時間稼ぎにしかならないか……。
「とりあえずあの女の子を保護した方がいいみたいだね」
「そうみたいですね。どうやってやりますか?」
「そうだなぁ……カゲ、籠手付けてるよね?俺とカゲで掘ろう。ミサちゃんは腕が復活したらフォローしてよ」
「馬鹿か。やっぱりお前は馬鹿か。俺はモグラやオケラじゃねー」
「だって埋まってるんだから仕方ないでしょ?掘り出すしかないよ」
「っざけんなよ。アザミで掘りゃいーだろうが」
「アザミじゃあの子を傷つけるかも知れないじゃないか」
言い合いを始める両先輩。20代も後半になって、なにやってるんだか……。
「あの、さっさとしないと腕復活しちゃいますよ?」
「ちっ、後で何かおごれ。それで手を打ってやるよ」
「なんでそうなるんだよ。大変なのはお互い様じゃんか」
「早くして下さいっ!」
我慢できなくなって私が一喝する。
「おー、怖い怖い」
「カゲのせいだからね?ごめんね、ミサちゃん」
私の剣幕に多少気圧されてくれたのか、二人は渋々泥人形へと向かっていく。
真剣なんだか適当なんだか。
でも、あれくらい肩の力が抜けてる方が本来の力量を発揮できるのかも知れない。
勝手に深読みする私をよそに、キヨ先輩が泥人形の胴体に斬撃をくわえる。
ざんっ、ざしゅぅっ!
人形の胴体が深くえぐられる。埋まっている女子生徒を傷つけないように、その周りを削っていく。
「しゃーねーなぁ!」
カゲ先輩が泥人形の真ん前に取り付き、籠手をはめた両手を振り回す。籠手に付いた鈎爪で、女子生徒の周りを掘っていく。
なんというか、うん。シュールな光景。
カゲ先輩はぶっきらぼうだけど、本当は繊細なんだろう。まるで化石採掘のように丁寧に、しかし素早く女の子を掘り出す。
本当はこういう使い方、もう過去にやったことあるんじゃないだろうか。慣れてるし。
ずっ、ずずずっ。
泥人形の肩に、少しずつ腕だった泥土が集まってる。それは小さな砂嵐のように渦を巻いたかと思うと、最初の状態のような形へと戻る。
思ったより復活が早い。
「アザミ、行けッ」
私が糸を手繰り、アザミを動かす。長い腕を引きずりながら私の傀儡が泥人形へ疾走する。
よし、実力の差を教えてやるっ!
がっしぃぃぃ!
アザミの金属質の手が、カゲ先輩を叩き潰そうとした右腕を受け止める。
がっんんんっ!
更に先制して、攻撃態勢に入っていた左腕を押さえつける。アザミの腕がギリギリと軋む。やっぱりパワーだけはちゃんとあるらしい。けど、許容範囲だ。
「ナイス、ミサちゃん!」
カゲ先輩がある程度掘り出した女子生徒を、脇を抱えて引っ張り出すキヨ先輩。カゲ先輩も、乱雑に襟首を引っ張っている。ちょ、もうちょっと優しくやってあげてください。なんで掘り出すのはめちゃくちゃ丁寧だったのに、引っ張り出すのはあんなに乱暴なの?カゲ先輩、貴方最高に支離滅れ……いや、ミステリアスだよ。
二人に引っ張られ、女子生徒の埋まっていた体が姿を見せる。埋まっていた部分が徐々に土まみれの姿を見せる。
……ところが。
「……なんだこれ?おいミサ、どういうことだ!?」
「こっからは抵抗強くて……抜けないよ!?」
「なに、あれ……」
私も状況がよく理解できない。
生徒から無数の光る糸が、粘糸のように泥人形と繋がっている。本数は私がアザミを操る数の比じゃない。数えきれないくらいの糸が、女子生徒を引き離すのを拒むかのようにぴーんっと張っている。
おそらく本当に抵抗しているのだろう。二人が強く引いても、それ以上女子生徒の体が出てくる気配がない。
落ち着け、私。よく観察するんだ。
自分に言い聞かせ、私はその様子に目をこらす。
多分、あれは操り糸じゃない。こいつは間違いなく魔動人形なんだ。傀儡じゃない。
じゃあ、あの糸はなんなのか。
考えられるのは……女子生徒は魔動人形の主ではない、という可能性だ。
もしかしたら、あの糸は女子生徒から生気を吸い上げているのかも知れない。つまり、魔動人形の原動機役なのかも。
魔象と繋がる者は、何かしらを対象に取られる。私だって、アザミを動かすのに力を消費しているし。
……だとすると、ヤバいんじゃないだろうか。
彼女を傷なく保護できたとしても、魔象使いではない一般人だ。吸いとれる力なんてたかが知れてる。
まして、不細工なパワー馬鹿でも大きな魔動人形だ。消費される力もきっと大きいに違いない。
「先輩、それ、切ってくださいッ!」
「合点!」
すぐさまキヨ先輩が御雷を糸へ振り下ろす。
音もなく糸は断ち切られ、空へと霧散した。
それを何度か繰り返し、少女の周りの糸を散らしていく。
「お、動いたぞっ」
カゲ先輩が、また乱暴に生徒の首根っこを引っ張る。
先輩、だからもうちょっと優しく。いたいけなガールなんですよ?
その時だ。
ごとんっ、と音がして何かが床に落ちた。
なんだろう?手のひらにギリギリ収まりそうなくらいの、硬質な塊。
「……?」
それは光を強く放ちながら床に転がっている。多分少女の物だろうか?ポケットかどこかから落ちたようにも見えたし。
……もしかして……。
私は叫んだ。
「先輩、それ、それッ!それをこっちに下さいッ!」




