~即席魔動人形(インスタントゴーレム)②~
『魔象使い』。
私達は一般的にそう呼ばれている。
能力は扱う者によって多種多様。
ファンタジー世界の『魔法使い』みたいに、炎や風といった俗に言う『四大元素』を操る者。
あるいは主の意志に忠実に従う『魔動人形』を操る者。
『傀儡』と呼ばれる、操り主と魔象の糸で繋がり、操り主の操作によって動く兵器を使う者。
あぁ、そうそう、『妖術』みたいな何とも言えない、超能力みたいなのを使う奴もいれば、『忍術』みたいな、いかにも『忍者』みたいな奴もいるっけ。
そういうのを全てひっくるめて、『魔象』という。
……多分めんどくさかったんだろうね。
それくらい、魔象には色んなタイプや種類があるから。いちいち名称付けていたら本当にきりがないからね。
『魔象』を扱える魔象使いは、だいたい人口の1%未満。
だから、珍しいと言えば珍しいのかな。
私も魔象使いだから、私の目線で言えばもう珍しくもなんともないんだけど。
普段から当たり前に目の当たりにしてると、珍しいとかそういった感覚はもうないな。
でも、人口が増えて、それに合わせて魔象使いも増えたとはいえ、社会的にはまだまだ珍しいみたい。
だから、法整備や色々なシステムがまだまだ追い付いていない。
魔象の力は当然強力なもので、強力な力を持った人間はたいてい二つの選択肢を迫られる。
その力を、良い方に使うか、悪い方に使うか。
人間って良い奴ばかりじゃないから、当然魔象による凶悪な犯罪も増えてくる。
それこそ、警察じゃ対処しきれないくらいにね。
警察も、ただ指を咥えて傍観してる訳じゃない。
有能な魔象使い、優秀な人材を集めようとはしている。
けど、いかんせん上手く進んでいない。
何故なら、給料が安いから。
そりゃそうだよ。安い給料で公僕になろうなんて奇特な人、なかなかいないって。
正義感の強い、使命感のある人は警察に就職したりもするけど、決して多くはない。
業を煮やし、警察は別の一手を打った。
『国家のバックアップによる、警察の補助機能を持つ企業の創設』
だ。
警備会社やシークレットサービスのように、魔象を使った悪事も専門に扱える会社を作ってやろう、と考えたんだ。
警察のように取り締まる権利は持ちながら、一般企業のようにある程度自由に動ける組織。
それを目標に掲げて、いくつかの『魔象企業』が生まれた。
その中の一つの企業、『㈱ムラクモエージェンシー』。
私は、そこのエージェントをやってる。
給料は……うーん、正直微妙な所。
普通よりは当然多いんだけど、仕事のキツさやリスクを考えると、やっぱり多くはないんじゃないかと思うんだよね。
ただ、国力が落ちてる今のこの国の現状を考えると、仕方ないとは思うんだけどね。
それに魔象企業の中では、ウチはよくやってる方だと思うな。
地方に支社も幾つか持ってるし、労働組合だってある。有給も取ろうと思えば取れるし、ボーナスだって年に2回ちゃんと支給される。
社長についてはいまいちよく知らないけど、理解があるからか、魔象使い社員への待遇も業界では悪くない。
ホワイトだとは思わないけど、少なくともブラック企業ではないと思う。
それが、ウチの会社の現在の状況だ。
で、私が所属している部署は、『魔象3課』。
本当に優秀な人材を厳選した少数精鋭の『1課』、
組織行動と能力の平均化、ある意味『兵隊』の『2課』、
バックアップや非戦闘的支援に特化した『4課』
に対して、3課は簡単に言ってしまえば
『半端者のごった煮』。
ちょっと問題のある人や能力の使い方が定まらない人、始末書をたくさん書いてる人なんかが3課に集まってる。
……あ、私はそういう人じゃないので。一緒にしないで下さい。
たまに始末書は書いてはいるけど、会社からの評価は上々だからね、うん。課長にもよく誉められてるし、周囲や同僚からの評判も悪くないし。よくやってる方だよ、うん。
今の目標は、『1課』への異動。
本当に優秀な人材に囲まれて、より難易度の高い仕事に挑戦してみたいんだ。
……なんだか社畜っぽいね。
でも、優秀になりたいのは本当。もっと経験値を上げて、能力を高めたい。
確かめたい、調べたい事があるから。
だから今は目の前の仕事をしっかりこなすんだ。
人生は長いようで短い。内容の濃い時間を過ごさなきゃ。
私の、自分の目標のために。
「はい、お疲れー。吐くなら吐いてきていいよー」
呑気な声で、はっと我に返る。
気絶……まではいってないけど、意識ちょっと飛びかけてた。
だから嫌なんだよ、速見くんの運転は。
本人に悪気がないところが、またタチが悪い。
「いや……もう大丈夫、多分……」
バイクモードに戻った彼の相棒から、そっと地面に足を降ろす。
いまいち感覚がまだはっきりしてなくて、フラッとする。
これでもう、しばらく遊園地は行かなくていい。というか、行きたくない。本当、絶叫マシンとか何で存在するのかな。こんな体験、お金払ってしたいもんなの?普通の人は。
「大丈夫?ちょっと休む?」
「いや、いい……緊急だから……」
速見くんの腕に支えられて、私は歩きながら目的地へと目をやる。
4階建ての広そうな校舎。
ここが今回の仕事場になる訳か。
確か、体育館に閉じ込めたって言ってたっけ。
まずは、仲間を見つけて話を聞かないと……。
「あ、来た来た。ミサ、待ってたよー」
ふらふらと歩く私に、きゃぴきゃぴした感じの高めの声がかかる。
「……あれ、ヒトミ、来てたの…?今日確か休みじゃ……」
「そうだったんだけど、急に緊急で呼び出されてさぁー、本当ウチの会社って人使い荒いよねー」
女子力高めのゆるいウェーブがかかった、メープルブラウンの長い髪。休みだから私服かな?可愛い花柄の入った膝上丈のシフォンのワンピースは、およそエージェントには見えない。
……多分、女子会かデートに行く予定だったんだろうな。
彼女は『結城 ヒトミ』。24歳だけど、入社が20歳の時だから、大卒入社した私より1年先輩にあたる。
ウチのエージェントの一人で、魔象使いだ。使う能力は『結界』を使う結界士。対象を一定の場所に閉じ込めたり、エージェントを守る壁を作り出したり、何かを隔離するフィールドを作り出して操作する能力だ。
……そうか。対象を体育館に閉じ込めたのは彼女のおかげなのか。
「これから合コン行くとこだったのに、完全に遅刻ー。魔象使いにもプライベートあるっつーのぉ」
はい、私当たり。洞察力も私の武器だからね。
「もしかして、体育館に閉じ込めてくれたのって……」
「そうそう、私だよー。結構ヤバめだから、気をつけてね……って、ミサ大丈夫?何かふらふらしてない?」
「大丈夫、速見くんの運転に慣れないだけ……」
「いい加減慣れなよー。仕事の前に疲れちゃうよー?」
「うん、そうだね……」
「速見くんもさ、もうちょっと女の子に優しい運転とかできないの?」
「無茶言うなよ。スピードこそが俺の長所なんだから。むしろ速攻で送って来たんだから感謝してくれよ」
バイザーを開け、速見くんが抗議の視線をヒトミに送る。
「……あ、ちょうどいいじゃん。私これから合コンなんだけどさ、送ってってよ、ガーデンスクエアまで」
「はぁ?それ、仕事と関係ないじゃん。何で俺が……」
「お願い、ね?ね?どうせ分かんないってー。今回私幹事だから、遅刻したくないの。ね、お願ーい」
「はぁ……俺はパシりじゃないっつーの。それに、そんなカッコじゃ走ってる途中でパンツ見えるよ?」
手を合わせて頼み込むヒトミの、太腿チラ見せしてる脚を速見くんが指摘する。
「大丈夫大丈夫、速見くん速いから大してみんな見れないって。それに、今日勝負下着穿いてきてるから大丈夫っ」
……勝負下着だと何故大丈夫なのか。私には分からん。
「……分かったよ、しょうがないなぁ」
……何を分かったんだ。
「ありがとーっ!今度機会があったら合コンセッティングしてあげるねー」
調子いいな、相変わらず。私はある意味ヒトミが羨ましいよ、うん。
「あの、話がまとまった所申し訳ないんだけど、状況説明してくれませんか、ヒトミ先輩」
皮肉混じりの私の言葉とジト目に、上機嫌になったヒトミが「ごめんごめーん」と笑顔を見せる。
くそっ、あざといけど可愛いな。さすが女子力高めの合コンマスターは違うな。
「えっとね、女子高生が1人、多分『魔動人形』と思われる魔象を出して暴れてたの。警察から通報来て、カゲ先輩とキヨ先輩が対応したんだけど、結構手強かったみたいでー」
カゲ先輩は『桐生』さん、キヨ先輩は『近衛』さんの事だ、ちなみに。
「追加で私が呼ばれてー、とりあえず体育館に閉じ込めた、みたいな感じかな」
「相手の大きさは?魔動人形は何製?」
「大きさは、とりあえず体育館の天井まではいかない、バスケのゴールよりちょっと高いくらいかな。多分土でできてるっぽかったけど、学校の椅子とか机とかも巻き込んでるから結構ヤバいよ」
土製、ということは古典的な一般魔動人形で、大きさは中型くらいか。確かに手強いかも知れない。
「あと、その女子高生も魔動人形に半分取り込まれてるから、保護するの大変かもよー」
「……え?けど、その子が主なんでしょ?普通取り込まれるなんてないと思うけど」
「でも、下半身は完全に胴体に埋まってたよ?あと、意識もなかったっぽい。だから変なんだよー」
魔動人形を止める場合、状況にもよるけど一番手っ取り早いのは主を止める事だ。
操作系魔象の多くは、操り主を止める事によって全て止まる。速見くんもそうだけど、主が魔動人形に力を供給し、それによって動作している場合がほとんどだからだ。
その主がもう気を失ってるのなら、魔動人形自体の暴走?なら、ほっとけば止まるはず。
けど、実際はまだ止まっていない。
また、主は魔動人形の近くに居る事はあっても、人形内に取り込まれる事は普通ない。
……どういう事なんだろう。
「分かった、ありがとう」
「いいえー。一応もう少ししたら警察も来るから、状況見ながら頑張ってみてね。結界は、体育館の入り口を外側から開けたら切れるようにしてあるからね」
「ミサ、1人で大丈夫?役に立つか分かんないけど、俺も手伝おうか?」
「ちょっとー、速見くんは私を送ってくんでしょー?」
「仕事優先なの!」
速見くんは本当に社畜体質だなぁ。運転がアレな以外は、本当に使い勝手のいい、優しいイイ人だよ。
「あぁ、もういいよ速見くん。ヒトミ送ってってあげて。休みの所をわざわざ出てきてくれてるし、後は3人でなんとかするから」
「……まぁ、ミサがそう言うなら……」
私が言うと、速見くんはおとなしく引き下がる。これ以上ごねてると私が現場に行くのに時間がかかるって判断した部分もあるかもしれない。
「んじゃ、私体育館行ってみるから。よろしくね」
「お疲れっすー」
呑気な速見くんの声を残し、私は現場へと急ぐことにした。
……うわ、案の定人だかりができてる。
体育館近くの廊下に集まってる多くの制服姿に、私は思わず嘆息を漏らした。
教員ぽい人が何人かいる。それ以外はミーハーな野次馬だろうね。
さて、二人はどこにいるかな……。
「おー、来た来た。ミサちゃん、こっちこっちー」
制服姿の人の中から手が挙がり、おいでおいでしてる。
その中の人物は多くのセーラー服に囲まれて、いささか上機嫌な様子だ。
やっぱりイケメンは違うなぁ。集まってる女子高生達がきゃぴきゃぴ黄色い声をあげてる。
中心には、『キヨ先輩』が花壇の縁に座り込んで私を待っていた。
ムラクモエージェンシー魔象3課のエース、『近衛 キヨマル』先輩だ。
20歳で入社して8年、早い段階からその戦闘能力を高く買われ、ウチの課のエースとして現場を引っ張ってきた人だ。
女子が羨む、エンジェルリングのできた艶々の黒い長髪を無造作に後ろで束ねた脚長のイケメン。柔らかな視線で、どれだけの現場をきゃっきゃと騒がせ、女子社員の瞳をハートマークにしてきたことか。
ライトグレーの着こなしが難しそうな色のスーツを華麗に着こなし、立ち上がるだけで周りから黄色い声があがる。
……めんどくさいな、色んな意味で。
「お疲れ様です……って、先輩ケガしてるじゃないですか」
見れば、キヨ先輩の左手は包帯がぐるぐると巻かれている。その上から血がほんのりにじんでるのを見る限り、かすり傷ではなさそうだ。
「いやぁ、ちょっと油断してたね。僕もまだまだ修行が足らないってことだよ、ははっ」
そう言ってキヨ先輩は頭をかく。
「いきなりばぁーって掛かってきたかと思ったら、くっついてた破片がばしーっ、てね。気づいたら血がぶしゅぅ、って」
……お気づきだろうか。
そう、キヨ先輩は正直、頭が余り良くない。
もともと状況説明を期待なんてしてないけど。擬音まみれの説明を聞いた所で多分なんにも分からない。
キヨ先輩は直感人間というか、感覚で生き、感覚で戦う人だから仕方ない。ただ、その戦闘能力はホンモノだ。頭さえ良ければ、きっと8年もやってればあっという間に1課のエース級になってただろうに。
「まだ戦えますか?」
「うん、余裕余裕。利き手じゃないし、大丈夫だよ」
私の問い掛けに、彼は右手に持った鞘入りの刀をひょいと上げて見せる。
あれが彼の武器、『神斬り御雷』。
見た目はただのよくある日本刀だけど、その秘められた力は未だ伸びしろの限界を見せない。
あの刀に掛かれば斬れないものはなく、彼の供給する魔象に合わせてその刀身を大きくも小さくもできる。
神をも真っ二つに出来ると言われる、名刀中の名刀。
シンプルではある魔象だけど、だからこそ彼の身体能力と相まって彼にエース級の活躍を与えている。
「それにミサが来てくれたからね。もう片付いたようなもんだよ。忙しい所ありがとうな」
そう言って、キヨ先輩の華奢な手が私の頭をぽんぽんする。
きゃーっ、と上がる黄色い声と、私への嫉妬の眼差し達。
……あの、嬉しいですけど、私はキヨ先輩はタイプじゃないです、すみません。
だってこんなイケメンで実力のある人と一緒にいたら、私いつか殺されるよ誰かに。
でも、まんざらではないのですけど。
ちょっと顔が熱くなってくるのを感じながら、私は『あのヒト』を探す。
「来たか。意外と早かったな。アキラに送ってきてもらったか」
……きた。
ちょっと心臓が、ドキドキする。
それをポーカーフェイスで何とか隠し、私は声のした後ろを振り向く。
ライオンの鬣のような、ボリュームのあるブリーチしたウェーブヘアを、忍者の鉢金のようなバンドで後ろへひっつめた髪型。いかにもチンピラっぽいところが、私としてはまたたまらない。
黒いロング丈のジャケットに、キヨ先輩に負けず劣らずの脚長。ただ、姿勢は猫背でガラが悪い。しゃんとすればスタイルイイはずなんだけど、私は猫背の方が好きだ。
ちなみに、あのロング丈のジャケットの内側には彼の力が込められた様々な武器が納められている。
キヨ先輩と双璧を成す、3課のもう1人のエース、『桐生 カゲナリ』先輩。
キヨ先輩と同い年の同期入社。ずっとキヨ先輩の良き同僚、ライバルとしてしのぎを削ってきた実力者だ。
彼も、きちんとしていれば1課への異動辞令はすぐ来ていたはず。
彼の欠点は……
「おい、うっせーぞ女子高生ども。任務中なんだから静かにしてろ。っつーか帰れよ。し××べんくせーんだよ」
圧倒的口の悪さと、染み付いたヤンキー気質だ。
今まで依頼主と揉めた回数は数知れず、それで書いた始末書も数知れず。
どんな状況も対応できる力を持ちながら、3課で燻っている理由はそれだ。
まあ、お陰で私は彼と同じ部署なんだけども。
「ちょっとカゲ先輩、みんな引いちゃいますよ」
「知るかよ。こっちは真剣勝負してんだよ。きゃっきゃとイベントみてーに騒ぎやがって。見せ物じゃねーんだよ」
そう言って、ジャケットの内ポケットから煙管を取り出して火を付ける。
「これだから一般人はよ。暇人なら帰って勉強してろっての」
口から紫煙を、ぷはっと空へと吹き出す。
あれはタバコじゃない。『魔象』の力を回復させる『経口魔象増幅剤』の一種だ。周りに害はない。匂いも煙たさはなく、どちらかと言えば怪しいハーブのようなスパイシーで甘めの香りだ。
だから、余計怪しいんだけどね。
けど、私はその匂いを嗅ぐとドキドキしてくる。
近くにカゲ先輩が居る、って事を嫌でも実感させられるから。
彼がそれを必要とする理由は、彼の『魔象』にある。
カゲ先輩の力は、様々なあやかしの『忍術』だからだ。
忍術は多大な魔象を消費すると言われている。時間がある時に回復しておかないと、枯渇する可能性が高い。
カゲ先輩こと桐生カゲナリは、古流忍術『忌流』の一族の出身、忍者界のスーパーエリートだ。
古の忍びが使った様々な術を自在に繰り出し、前線から後方支援まで何でもこなすユーティリティエージェント。
ただ、口の悪さとヤンキー気質、更には権力が大嫌いな事が災いして本家から半ば追放される形でムラクモに入社したらしい。
本当なら警察の上層部に飛び級入社するか、もっと特殊な組織に秘密裏に入り、社会を暗躍するような一族なんだって。
親睦会で酔ったカゲ先輩から直接聞いてるから、それは間違いない。
……か、カッコいい~っ。
そんな中二病みたいな人が今ここにいるとか、カッコ良すぎだろーっ。
……いかん、取り乱してしまった。
「カゲ先輩、対象はどうですか?強いですか?」
「あぁ、まぁまぁな。つーか、女子高生1人取り込まれてるからよ、そいつを保護しながら無力化するのが苦労しそうだな」
「ヒトミから話は聞きました。どうします?」
「とりあえず俺とキヨで相手を足止めすっから、その間に見定めてくれねーかな。どうやったら魔動人形だけ止められるかをよ」
「了解です。よろしくお願いします」
「おう。んじゃ、やるか。おいキヨ、もう一回いくぞ」
「あいよー。はいみんな、どいてー」
カゲ先輩の呼びかけにキヨ先輩が帯刀し、場の空気がぴんと張り詰める。
カゲ先輩自身も戦闘準備に入り、口を布で覆う。それこそ時代劇の忍者のように。
忍術は、手で印を組むと共に口でも印を唱える。それを悟られない為の覆面だ。
腕まで覆う、尖ったデザインのごつい戦闘用の籠手を両手にはめ、がんがんっ、と鳴らすカゲ先輩。
私には、それが痺れるくらいにカッコいい。
さて、私も準備しなきゃ。
私はバッグから一本のチョークを取り出し、それを使って地面に円を描く。
さらに円の中に、三角形と四角形を合わせた図形をさらさらと描いて。
私の『魔象』を出すための『法陣』だ。
書き終えると、そこへ私は両手をかざす。
心を集中させ、私の『相棒』を呼び出す。
私の両手が、ぼうっと光を持ち始める。それこそ速見くんの時と同じように。
……おいで、私の可愛い相棒。
……おいで、私のかけがえのないたった一つの『武器』。
「……いくよ、『アザミ』」




