石板の力
今回の同害復讐任務を担当するもう一人は袴田という二十歳の青年である。短髪で清潔感があり、百八十くらいの身の丈、細い目をしているが愛想が良い青年であり、とても人を殺めることができそうにない体裁である。
もう何十年もそのままになっているであろう殺人の加害者がいる廃墟は特定できているが、被害者を殺害した銃を所持していると考えられるため、危険を伴う任務であった。廃墟の周りから二人で囲み、中を覗くとそこには背筋を曲げた中年の男性が一人いた。複数人いる場合は出直しとなるが、今回は二人で任務遂行になる。
「人質がいる場合、私が突入したら後に続いて突入してください。そうでない場合は合図をしたら遠くから射撃してください。」と袴田は廃墟に着く前に簡単な指示をしていた。人質もおらず、中年男性一人だが様子がおかしい。ぶつぶつと独り言を言っており、目は泳いでいて震えているようにさえ見える。殺人をしてしまったことへの後悔やこれから殺されることへの焦燥感だとその時は思っていた。
袴田から合図があった瞬間、心臓めがけて銃を撃った。人に銃を向けるのは初めてであったが、殺された遺族の気持ちを自然に自分に置き換えているのか何の抵抗もなく射撃できた。
「うっ」という声だけ発し、中年の男はそこに倒れこんだ。袴田に合流しようと建物は影から出た瞬間、銃声がなった。何が起こったかわからなかったが、中年の男性が笑みを浮かべながら銃をこちらに向けていた。下を向くと胸から出血し、血が流れているのが遅れてわかった。その場で仰向けに倒れこみ、死を実感した。
「おい、今救急車を呼ぶ。」と、冷静な袴田は慌てて電話をかけているが、意識がなくなりかける。血は腹をつたいどんどん流れ出る。血が抜けるのが心地よくなり死を覚悟した。その瞬間、背中から眩しい光が放たれた。光りが出たのは背中ではなく、倒れていた体の下にある石板であった。「は、袴田」袴田を見ると口を開けたまま止まっている。話しかけても応答がなく、本当に止まっている。光りから映し出された馬のような巨大な獣のホログラムが浮かぶ上がった。後でわかったことだが、バビロンの都のイシュタール門の壁画である一角を持った馬と類似していた。
「汝、何を望む。喜怒哀楽と引き換えに智・力・時・作を授けよう。」ゆっくりと重々しい声が響き、死んだのだと思った。「さあ、何と引き換えに何を得る。」続けてその獣は語りかける。死んだ後なのだから喜は必要ない。智があれば様々な選択肢ができる。と直感し「喜と引き換えに智を」と願っていた。一瞬さらに光りを増し、閃光のような一瞬でその獣と光りは消え去った。袴田が動き出し僕に近寄ってきた。
「大丈夫か。傷は・・・」胸の撃たれたはずの傷が消え、どこも痛くない。おそらくさっきのホログラムから何かしらの力を得て傷が回復したのだろう。撃たれた時下にあった石板がなくなっていること、この考えるスピードからして智を得たということなのだろう。
その時、自分がどういう状況かを瞬時に把握した。