目には目を、歯には歯を
目には目を、歯には歯を
一度は聞いたことがあろうこの言葉は、古バビロニア王国の六代目の王であるハンムラビが成文化した法典である。目を奪った者には目を奪う罰を与えるという復讐法を彷彿させるが、現在の日本の憲法にこの「同害復讐の原則」が加えられることとなった。
「同害復讐こそが、本当の刑罰なり」2020春というには肌寒い日に誕生した岩波茂内閣が第一声を発した。日本国憲法に「同害復讐の原則」が加えられることが世論を大きく賑わせ、今までの刑法を大きく変革させることとなった。今までの刑法では残虐な事件ほど、それに見合った刑罰ではないがために被害者側がどうしようもない憤怒を情動調整する他なかった。「同害復讐の原則」では被害者側が加害者に対して同様の報復を認めているため、もし人が殺されたならば、殺し返してもよいということが法で容認されている。岩波内閣はマニフェストで刑法の改革を掲げ、どうしようもない怒りを溜めた被害者の票を多く集めるという斬新な選挙活動が実を結び、内閣総理大臣まで上りつめた。それほどまでに世の中は今までの刑法では満足しえない、世論情勢だったのであることが露呈された。
岩波内閣は自分で報復が行えない者の代わりに刑を執行する専属騎士7人で構成される部隊、セブン・ベイリフを組織した。セブン・ベイリフはファーストをリーダーとし、セブンスまでの完全階級制となっており、この組織に十七になる少年、徹がセブンスとして執行吏となった。徹は十年前に両親を殺され、その加害者は捕まり刑務所に入ったが、情状酌量になり数年で出所し現在に至る。岩波茂の提唱した刑法の改革に心酔し、セブン・ベイリフを志願した。セブン・ベイリフの出願条件は十六歳以上の男女、適正な学力と基礎大体力、人型ロボット兵器であるソドムの操縦が主な条件となり、徹はゲームで得意な操縦と精密射撃が重宝され、セブン・ベイリフに配属となった、実際、危険と隣り合わせの職務となり、給与などさほど支給されないため、志願者はそう多くはないことも幸いした。岩波内閣が人型ロボット兵器を重視したことには訳があった。大きな変革には大きな反対運動が不可欠だからである。人間は十人十色、みな考え方も違え己の正義も違う。大きな改革になればなるほど、比例的に反対の規模も大きくなる。その鎮圧ももちろんだが、目まぐるしい世界情勢でいつ日本が攻撃されても自衛できるように、海外からの脅威も自衛できる力が必要であった。国民は軍隊を持つなというが、実際に日本が攻撃されたら、なぜ軍隊を持っていないんだと利己的に行動するのが人間だからだ。
セブン・ベイリフに配属となり3日後には初仕事となる同害復讐の命令が出された。
殺人の復讐として被害者家族から頼まれたため、セブン・ベイリフが代わりに同害復讐することとなった。一つの件でセブン・ベイリフ全員が出動になるわけではなく、今回は僕ともう一人の2人で執行することになった。