王都へ
「勇者様、ご準備はよろしいでしょうか。」
ついに王宮からの使者が現れ、僕たちは王都へ向かうことになった。
「ここからは我々が責任をもって馬車にて王都へお連れ致します。」
いかにも屈強そうな男達は、そう言って僕達に跪いた。ここから王都のキャンベールまでは7日間程かかるらしく、通過する町で食料などを補充しながら進むそうだ。
「それではいってきます。」
「ナギ君、ヘラ、くれぐれも気を付けてね。」
「はい、頑張ってきます。」
みんなにお別れを告げて、僕たちはたくさんの荷物と共に馬車へと乗り込んだ。服や食料に加え、簡易な武器や装備まで、町のみんなが無一文の僕のために繕ってくれたのだ。
「今までありがとうございました!」
「すぐ帰ってくるからね!農場は頼んだわよ!」
徐々に遠くなるみんなに向けて、僕とヘラは手を振った。さあ、冒険の始まりである。といっても、こんなに気の乗らない冒険は、ゲームでも経験したことがない。
「ふぅ…」
「ナギ様、早速町が恋しいのですか?」
「いや…あの…先行きが不安になって来ました。」
「それは…そうですね。」
「本当に生きてかえって来れるのかな…」
重い空気が流れる。僕はヘラを困らせてばかりだ。
「ナ、ナギ様!見てください、もうすぐアマルガを出て、セーミャへと向かう道に入りますよ。」
ふと顔をあげ前方を見ると、大きく立派な門が見える。剣術の実践訓練で通った門とは別の門だ。
「すげぇ…」
「すごいですよね。セーミャに着いたら、きっともっと驚かれますよ!セーミャはなんといってもスポーツと娯楽の町ですから!」
「へぇ、それは楽しみですね。」
ヘラが嬉しそうに言った。どの世界にもスポーツはあるんだな。
そういえばヘラと最初に出会ったとき、アマルガは工業と錬金術の町って言っていたような…
「ヘラさん、この世界には錬金術があるんですか?」
「そうですよ、そういえばまだ説明していませんでしたね。というか、ナギ様の世界にはないのですか?」
「うーん、概念的なものはあるんだけど、おとぎ話に近いというか…空想上のもののような扱いですね。」
「そうなんですか。まず、錬金術は向き不向きはあるものの、魔法と同じで基本的にすべての人が使えます。しかも魔法と違って魔力を介する訳ではないので、ナギ様にも適性があるかもしれません。」
「適性…かぁ…。自信はないですが。で、どんなことができるんですか?」
「基本的に生産系ですね、海水から塩を作る様なことができます。」
それは便利な能力だ。料理がおいしいのはこのおかげか。
神様、魔法の適性の件は許しますから、本当の本当に錬金術の適性をください。
セーミャまでの馬車の中、僕はヘラに錬金術を教えてもらうことにした。