平和な日常は
「うわぁぁぁぁ!!!」
!!
自分の叫び声で目が覚めた。どこだここは。
気持ちが悪い。
「ナギ様!!!」
突然大きな衝撃が走る。なにかに抱きつかれた。
ヘラだ。
「無事で…無事で本当によかったっ!」
「いったい…何が…」
「フランと一緒に町の外に出たところを、A級魔獣に襲われたのです。フランが運んできたときには、ナギ様は出血多量で瀕死の状態で…」
ヘラはポロポロと涙をこぼしながら言った。
そうか、僕は死にかけたんだった。記憶がじわじわ戻ってくるのを感じる。痛くて、さむくて、くらくて、なにも感じなくなって、それで…
「うっっ…」
思いだすごとに気持ちが悪くなって、ついには吐いてしまった。
「俺がついていながら…本当に申し訳ありません」
フランは泣き腫らした目でそう言った。本当に重症だったんだな、僕。
「ナギ様、治癒魔法も完全ではありません。もうしばらく安静に寝ていてください。」
「わかりました。すみません、僕が弱いばっかりに。」
この件で、僕は弱いのだと痛感させられた。でももっと思い知ったのは、弱いと死ぬということ。死ぬのは怖いということだ。前の世界では、死に直面したことなんてなかった。死なんて、せいぜいゲームの中の出来事だった。
大学でキツい課題が出たとき、実験がうまくいかないとき、片思いの女の子に彼氏がいたとき、僕は死にたいと言った。僕は、ひどく後悔した。
死にたくない。絶対に死にたくない。
死んだら終わりなのだ。
この世界だと、僕はこのままだと、
長くは生きられない。
まだやりたいことだってたくさんある。おいしいものだって食べたいし、初任給で親に温泉旅行もプレゼントできてないし、まだ彼女だってできてない。
僕が感じたのは、ただただ大きな絶望だった。