凡人の剣術を
ルルに紹介してもらった剣術教師のフランに、三日ほど稽古をつけてもらった。最近体を動かす機会がなかったせいか、最初の内は激しい筋肉痛に襲われた。
「少しは体を使えるようになってきましたね。そろそろ実践といきますか。」
「実践!?先生、僕にはまだはやいですよ…」
「ナギ君、もうすぐ王都に行かないとなんでしょ?少し早いかもですが、そろそろ本物の剣を握ってみましょう。」
本物の剣。今までの木の剣とは違い、本当に切れるのだ。金属でできた剣を手にすると、重量感と緊張感が走った。
「少し町の外に出てみましょう。大丈夫、この辺りの魔物は強くありません。」
町の外に出るのは、初日以来である。といっても、倒れていたから記憶にはないが…
町外れの門を一歩出ると、本当にゲームのような一本道と、草原が広がっていた。
「すごい…」
「そうでしょう?この草原、魔物さえでなければ絶好のお昼寝スポットなんですけどね。少し歩きましょうか。」
「わかりました。」
僕たちは一本道を歩き始めた。これはセーミャへ続く道だろうか?もっとずっと先に、分かれ道があるんだろうか?
そんなことを考えていると、草むらがカサカサと音を立てて動いた。
「うわぁっ」
「大きな声を出さないようにしてください、魔獣です。」
「す、すみません。」
僕の声に気がついたのか、虎のような、狼のような生き物がこちらに走ってきた。僕は剣構えたが、振ろうとする前に魔獣は大きくジャンプし、僕の背後をとった。
「まずい、ガルガナだ!どうしてこんなところに…」
フランは素早く剣を振り、魔獣を僕から遠退けた。
「ナギ!さがって!!」
これはまずい。速さについていけない。フランの焦りからして、普段この辺りには現れないような強敵なのだと察した。
僕はこの戦闘を夢中になってみていた。本当にゲームのような世界が広がっているのだ。
フランが剣術のスキルを繰り出すと、魔物は少し怯んだ。この隙にフランは、魔獣を僕から遠ざけるように戦闘場所を移した。
その時、草むらからもう一体の魔獣が飛び出してきた。
僕を狩るため、強敵であるフランが離れるのをまっていたかのように。
足がすくんで回避行動が取れない。辛うじて剣で上半身をガードするような構えをとった。しかしガードもむなしく、大きな爪が僕の腰から膝にかけてを切り裂いた。
ぁぁああああ痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!!!!
「ナギ!!!」
フランの声が聞こえる。だめだ、痛い、寒い、熱い、暗い…
こんなところで死ぬのか?折角異世界に来たのに?
まだなにもしていないじゃないか…
僕はゆっくり暗くて寒い闇に落ちていった。




