思わぬ来訪者
ヘイラムの領土の7割を取り返した頃。
滞在していたエルフの街で、思わぬ来訪者があった。
空間の裂け目から顔を出したのは、
なんてことない中年のおじさんであった。
「え、誰?…誰です?」
僕は驚き、戸惑った。
転移魔法のようなものを初めて見たからではない。
久しぶりに出会ったからだ。
黒髪の、小太りの、おそらく日本人のおじさんに。
「初めまして、田中信久です。」
「あ、初めまして。国木なぎさです。」
え??ん?
ノブヒサって言った?
これ、魔王ってこと?魔王が会いに来たってこと??
「え、ノブヒサってあの、魔王の、えっと、魔王の人ですか?」
「そうですね、人間の皆さんには魔王と呼ばれています。国木さんは、新しい勇者の方ですよね?」
「あ、そうです。でも魔法が使えなかったので、賢者ということでこちらにはおいてもらってます。」
あれ、これって言っていい情報なんだっけ?
だめだ、混乱してる…
「あぁ、そうですか。」
おじさん改め、魔王が答えた。
「あの…ご要件って…」
僕は思い切って聞いてみた。
「ああ、お会いしておこうと思って。
サリンがわかるってことは地下鉄の事件のことも知っていて、ゾンビや人体錬成について調べているということはおそらく某錬金術漫画も知っていて。
こんな若い方なんて思わなかったな。もう少し、ご年配のかたかと思っていました。」
怖い。
なんか冷静すぎる。
殺し合いの戦争をしている国の王と、敵対する勇者だぞ?
「そうですか…僕もお会いしたいと思っていました。一つ質問させていただいても?」
「どうぞ」
「あの…1000年前に来たのにどうしてまだ生きているんですか?」
いやなんでその質問?!
帰る方法があるのか聞けよバカ!自分のバカ!
「ああ、死ねないからですよ。もしかしてまだ死んだことなかったですか?」
「え、それはどういう…」
「死ねないんですよ。
歳もとらないし、死んでしまっても何故か治療されて目覚める。
寒くて冷たくて熱くて…死ぬ経験は何度もしましたが、慣れるもんじゃないですね。」
その感覚…
もしかして僕も、過去にアマルガで魔獣に襲われたときに死んでたってことか…?
一気に恐怖が襲ってきて、鳥肌が立った。
「せっかくなら僕も、若くてかっこいいときにこちらに来たかったですよ。
ほら、僕はずっとこんなおじさんで。」
頭を触りながら笑うおじさんに、狂気を感じる。
「目的を果たすまでは死ねないんだと思うんですよ。
僕たちをこの世界に呼んだ人の目的をね。
魔王を殺してもだめだったから、今度は人間世界を滅ぼそうと思って。」
「…」
言葉が出ない。
「まあそういうことなんで、もうしばらくよろしくお願いします。
あなたの主の目的が、魔王討伐ならいいですね。」
そう言うとまた、おじさんは空間の裂け目へと戻っていった。
「待って!最後に一つだけ!」
「なんだい?国木の少年」
「元の世界には、帰れるんですか?」
魔王は言った。
「帰り方が分かったら、こんな地獄に1000年もいないよ。」




