着実に勇者へ
「自己紹介がまだでしたね。失礼しました。私はヘラルーシ・ヘルラータ。気軽にヘラと呼んでください。」
「あー、よろしくお願いします。僕は国木なぎさです。よければなぎって呼んでください。」
「ナギだなんてとんでもない。勇者様と呼ばせていただきます。」
ほんと、なんで勇者ですなんて言ってしまったんだろう。
あの後、ヘラが町のみんなに「勇者様が来てくださったわ!」なんて報告して回るから、家に野次馬が押し寄せて大変だった。
今更嘘だとは言えない雰囲気だが、いま言わなければ本当にヤバイ。
「ヘラ…さん。僕あの実は勇者じゃなくてですね。本当はただの日本の大学院生なんです。騙すつもりはなくて…本当にすみません。」
「いいえ、ナギ様は勇者様ですよ。異世界、ニホンから来られたのがなによりの証拠です。勇者様は、ヘイラム王国が滅亡の危機に瀕すると、異世界から民を助けに来てくださると言い伝えられています。前回お越しになったのは、約1000年前です。」
ヘイラム王国とは、現在地アマルガや隣町のセーミャが属する国のことだそうで、相当な大国らしい。
「勇者って一体何をしたらいいんですか?僕頭使うのは好きですけど体を使うのはからっきしで。絶対他に適任がいますよ。僕は偶然異世界から来た、ただの人です。きっと多分。」
僕は必死になって勇者の座を降りようとした。
美女にちやほやされるのは悪くないが、危険な目に遭うのはごめんである。
「ヘイラム王国は今、魔王率いる魔族から攻撃を受けています。このままだと、土地は侵略され、民は滅びてしまう。」
「それはお気の毒です。しかし…」
「過去に現れた勇者様は、皆強靭な攻撃魔法や闇魔法耐性をもっていました。きっとナギ様も、なにか潜在的な能力を持っているはずです。体力や筋力は戦いに必ずしも重要ではありません。」
これは…!異世界転生もののチート能力の類いではないだろうか…!!折角異世界に来たんだから、チート能力無双ハーレムしたくないと言えば嘘になる。問題は、魔法理論なんて微塵も分からない僕に魔法が使えるのかどうかだ。
「その、能力?とかって、今確かめることはできるんですか?」
「可能ですよ。ただ、勇者様の魔法となると町を破壊…とかしかねないので、魔法学校と町役場とギルトと治安維持部隊に立ち会いをお願いしてきますね!」
なんか大変なことになってきたぞ…