感謝と怨嗟
近頃、町の奇襲ばかりしている。
「そういえば、魔王は倒さなくていいんですか?」
僕は部隊の兵士に尋ねた。
「直接殺すよりも、不適任だ!って内部分裂で処刑される方が我々にとって都合がいいんですよ。」
?!
魔王って処刑されるの?!?
「へ…へ~。魔物の国って実力主義で、魔王って誰も殺せないほど強大な魔力を持ってるようなイメージでした。」
「そんな時代もあったようですが、やはり現在は頭のよさと政治力ですね。純粋な強さより、知性と腹黒さの方が重要なように思います。」
奥が深い、魔物の世界…
「ですので、我々の役目は魔王の信頼をなくすことです。国民が殺されても、異世界の殺戮技術は原理がわからないので、魔王は黙ってみているしかない。それを不安に思う国民によって処刑されるのも時間の問題かと。」
「あんまり人間と変わりませんね…」
「そうですね。それより私は命令以外で勇者様と初めてお話し出来たことに感激しております。」
「えっ、あれ、そうだったっけ?すみません。いつも余裕なくて…」
「いえいえ、滅相もないです。勇者様が来てくださってから、戦況は大きく変わりました。居てくださるだけで、どれ程心強いか。いつもありがとうございます。」
「そう…ですか。ははっ…」
僕は乾いた笑い声を捻り出した。
誉められるようなことをしてきた覚えはない。
僕はいつだって生きることに必死で、ヘラの故郷を守ることに必死で、ヘラに迷惑をかけないために必死で…。
自分の自由のために奪った命を数えるとキリがない。
いつか僕はこの罪を精算しなければならないと思う。
それはいつだろうか?
それまで僕は、笑っていてもいいのだろうか?




