悪夢を見る
作戦は成功だった。
僕はたくさん褒美をもらった。
あの日の風景が脳裏に焼き付いて離れない。
僕は
毎日
悪夢を見る。
僕が作戦に使ったのはC4H10FO2P。
サリンだった。
ナチスドイツで開発された神経性の毒ガスだ。
ガラスの密閉容器にサリンの原料をいれ、中で錬金術により合成。
これを金属ナトリウムと共にハルピュイアの足にくくりつけた。
あとはハルピュイアを飛ばし、魔物の町のど真ん中に位置する水場へ着地させた。
あとは予想通りだった。
水と反応した金属ナトリウムは爆発し、サリンが飛び散る。
揮発性が高くすぐに気体になるため、町を取り囲むように風魔法を発動させることで、町中にガスを充満させた。
爆発音を聞き付けて集まった魔物たちはバタバタと倒れ込み、周囲は何が起きたのか全く分からないようだった。
サリンを吸収すると、体内のアセチルコリンという物質が分解できなくなる。
このアセチルコリンが増えすぎると神経が動かなくなり、めまいや嘔吐、失神の後、やがて死に至る。
魔物が体内にアセチルコリンを有しているのかは不明だったが、効いたということは人間と構造が似ているのだろう。
町に残ったのは、スライムだけだった。これにより、スライムはアセチルコリンを有していないことが考えられた。
新たな策を練らなければならない。
あの日からヘラには会っていない。
誰とも永らく喋っていない。
この作戦の決行には僕が必要で、僕は各地を飛び回っていたからだ。
でも、会っても口を利いてもらえる気がしない。
というか、僕にはもうそんな権利はないのだ。




