勇者か悪魔か
僕たちは魔物の国の国境付近を走っていた。
戦争に参加して一ヶ月、僕もようやく馬をまともに扱えるようになったが、今回はハルピュイアを輸送しているため馬車での移動だ。
ハルピュイアとは、人と鳥の間のような生き物で、高い知能はない。そのため、魔物からも人間からも家畜として扱われており、物の輸送や伝書鳩のような役割を担っているようだ。
小高い山を登り、高所から魔物の国を見渡すと、人間のそれと全く変わらない町が見えた。
「ナギ様…。あまり見ない方が良いかと…」
ヘラが言った。
「今更殺すことに躊躇いはないよ。」
僕は言った。
本心なのか、強がりなのか、僕にも分からなかった。
元いた世界の戦争は、相手を屈服させ領土を奪ったあとは民を殺さず、捕虜にしたり、人的資源として労働をさせたりする。
しかし、この世界では殲滅させる。なぜなら双方、軟弱な人間に、野蛮な魔物に与えてやる食いぶちなど無いし、寝首をかかれても困ると考えているからだそうだ。
つまり、国の敗戦は死であり、女子供であれ助かる方法はどこにもない。
僕は魔王と聞いたとき、血も涙もない強靭な魔物が人々を殺戮しているのだと思っていた。
しかし、魔物たちも我々の王を人王と呼んで恐れているそうだ。
僕は妙に納得してしまった。
片方の正義は、片方の悪なのだな、と。
ではこちらで勇者と呼ばれ崇められている僕も、視点を変えれば悪魔なのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、目的地についた。
山の頂上から町を見下ろし、絶対に失敗できない今回の作戦をシュミレーションした。
そして、これから起こる惨事に思いを馳せた。




