異世界の殺戮技術
僕はトリニトロトルエンを合成した。
この世界では、錬金術で有機合成までできるらしい。
トリニトロトルエンを選んだのは他でもない。僕がこれしか爆発物の構造を正確に覚えていなかったからだ。
この世界の錬金術では、構造さえ分かっていれば炭素からベンゼンを作ることも造作ない。
つくづく、僕と相性の良い技術である。
この作戦を思い付いたとき、僕は危険物取扱者の資格を取得していた過去の自分に心底感謝した。
それと同時に、僕の中に眠る残虐性に心底驚いた。
合成したトリニトロトルエンを水素を充填した気球で飛ばし、風魔法で敵地まで送る。
ゴブリンたちは普段、火のついた矢で遠距離の獲物を攻撃する。
空に浮かぶ気球を見つけた魔物はきっとそれを攻撃し、水素に引火した火でトリニトロトルエンが爆発するだろう。
遠隔爆弾の完成である。
射程距離に制限のある魔法には成し得ない技術だ。
僕が王宮で嘯いた「異世界の殺戮技術」とは、あながち間違いではないのかもしれない。
僕は「人の心」がじわじわと失われていくのを感じた。
この作戦が功を奏したのか、ヘイラムの兵士が優秀だったのか、僕たちは国境を守り抜くことができた。
つまり、ゴブリンは殲滅され、ヘイラム王国の国民と、そして小さな町、アマルガは救われた。
王国幹部の命令から8日目の出来事だった。




