僕の心
僕たちは錬金術と化学、そしてヘラの魔法を駆使し、戦場で大きな成果を挙げていた。
殺さなければ殺される。
そんな状況下で、命を奪うことへの抵抗は無に等しかった。
二足歩行ではあるが、人のような見た目ではない魔物を相手にしていることを幸運に思った。
しかし、戦場で過ごし一週間が経った頃、魔物の軍勢に大きな変化が見られた。援軍としてゴブリンが参戦したのだ。
いままで豚のような魔物を相手にしていた僕は、背筋が凍った。
半端な攻撃をすると、落ちた自分の手を拾い上げ、悲痛な叫び声を上げながら、仲間に肩を借りて退散していくのだ。
彼らには、痛覚があり、知能があり、そして感情がある。
僕はその事実から目を背けることができなかった。
「ナギ様…」
ヘラが心配そうに呟く。
僕が使い物にならなくなって5日目。
戦えなくなったその日から、僕は奪ってしまった命の重さに耐え兼ね、奪ってもよい命とそうでない命の境界線を探しつづけていた。
ヘラは相変わらず吐いてばかりの僕に優しくしてくれる。
「無理を…させ過ぎてしまいましたね…。
もっと早く気がつくべきでした。こちらの世界の常識と、あちらの世界の日常があまりにもかけ離れていることに…。」
「いや…僕が…」
僕が悪いんです。といいかけてやめてしまったのは、僕は悪くないだろ…と思ってしまったからだ。
もとの世界で平凡な日々を過ごしてきた僕に、命のやり取りを要求するなよ…。
そもそもなんでこんな世界に来てしまったのだろうか…。
考えればキリがない。しかし、勿論ヘラも悪くないのだ。
「申し訳…ありません…。」
ヘラがうつむいて言う。
「ヘラさんの…せいじゃないのに…」
僕はこの理不尽を誰に抗議すれば良いのか分からず、途方にくれていた。
重い空気が流れる。
「…申し上げにくいのですが…ナギ様が不調による休暇をとられていた間、私が代わって王国幹部からの通達を受け取っていました。そして昨日、以下のような命令が下されました…。」
「今すぐにゴブリンを殲滅せよ。いままでの戦果に免じて猶予は10日。達成できなければ、故郷アマルガは焼け野原と思え。」
「これは、私たちの利用価値に気付いた王国幹部からの脅迫です。絶対に許してはいけないし屈服してはならない…!」
ヘラは続けた。
「しかし…!今の私には王国に屈服し、ナギ様に救いを求めるしかないのです…。」
その声はいまにも泣き出しそうだった。
僕はどうすれば…
僕は…




