王都キャンベール
「ヘラさん、起きて。街に入ったみたい。」
僕はヘラの肩を揺らしながら言った。
「ううん…、お…おはようございます…」
眠そうに伸びをしながらヘラが言う。
「わあ!もう王都ですか!?すごい!きれい!」
「さっき門を入ったところです。他の町とは比べ物にならないくらい栄えてますね。」
大きな噴水に高い建物が立ち並び、市場も活気づいている。早く散策してみたい。
「日も落ちてきたし、今日はここで宿泊かな?ヘラさん、また本屋に付き合ってもらえませんか?」
「いいですよ~、またお金貸してあげないといけませんしね~」
「必ず!必ずや返しますので!!」
「うふふ、冗談ですよ。いつまででも待ちますから。」
予想通り、僕たちはここで宿をとることになった。ここはキャンベール東地区で、明日には王宮に到着するそうだ。王宮に着くまでに、戦術や技の訓練をしておきたかったが、そんな余裕は無さそうだ。
知識だけでも詰め込んでおかなければ。焦る気持ちを押さえて、ヘラと共に街へ繰り出す。
「この楽しい旅行も明日で終わりですね。」
「ヘラさん旅行だと思ってたんですね。」
「いや、あの、冗談ですよぉ。」
「僕もなんだか寂しいです。これからどうなるのかも分からないし。」
明日王様に会って、そして僕はどうされるのだろう。不安が頭をよぎる。
「ナギ様、心配しないで。私がついています。しかもナギ様は、十分戦えるじゃないですか。」
「ヘラさん…」
弱気になっちゃダメだ。前向きに生きないと。僕にはヘラがいる。
「ヘラさん、ありがとうございます。勇気出ました。」
「よかった。暗い顔は似合いませんもの。笑ってください。」
「ひとつだけ…お願いがあるんですが…」
「なんですか?」
ヘラが僕の顔を覗き込む。かわいい。いつから僕はこんな美人と対等に話をできるようになったんだろうな。なんてことを思いながら、異世界生活も悪くないなと笑った。
「僕が勇者の名を騙る反逆者だと判断されたら、僕を見捨てて逃げてください。」
「なっ…」
「ヘラさん、僕が勇者と嘘をつき、国を混乱させたことは事実です。恩人であるヘラさんまで巻き込むことはできません。」
「そんなっ、私が悪いんです。私が先走って…」
「大丈夫、ヘラさん。ヘラさんがいなくなったら悲しむ人がいます。僕のことは心配しないで、ヤバイと思ったら逃げてください。」
「ナギ様がいなくなったら…アシハルトのみんなが悲しみます。ルルや…フランが悲しみます。」
ヘラは涙を流してしまわないように必死になりながら言った。
「なにより…なによりわたしがっ…悲しいです!」
「ヘラさん…」
「一緒にアシハルトへ帰りましょう?お願いですから…そんな悲しいこと言わないで…」
月明かりに照らされ、僕達の影が少しだけ揺れた。




