アシハルトから
「アシハルトを出ると、キャンベールの東地区に入ります。キャンベールは東西に広く、王宮がある中央地区へはもう少しかかりますね。」
宿で朝食を食べながら、兵士の一人が言った。なるほど、僕たちは西へ向かっているのか。なにかのミルクを飲みながら、そんなことをぼんやり考えていた。
朝食を食べ終わると、僕たちは宿屋の店主に礼を言い、アシハルトを後にした。またしばらく馬車に揺られることになる。魔物に襲撃されたとき僕が蹴破った扉は、アシハルトで簡易的に修理されていた。
「さぁナギ様、これからの私たちの戦術について話し合いましょう。」
ヘラが言った。次の町に停まった際には、郊外で戦闘練習をする約束をしている。
「そうですね。次の町までに、試したい戦術を考えておかないと。」
「何かアイデアはありますか?」
「うーん、いくつかはあるんだけど…」
僕たちは紙とペンを取り出し、たくさんのアイデアを出しあった。この中に実行可能なものが存在するのかは分からないが、どれも合理的で、理論上は実行可能に思えるものばかりだ。
勉強ができない、成績が悪い、と常々言っているヘラだが、相当頭が切れるようだった。
「よし、これだけあれば一つくらい使える技があるだろう。」
「そうですね、これぜーんぶ試しましょう!なんだか私、ワクワクしてきました!」
可愛い。僕もワクワクします。
「そうと決まれば、僕は錬金術の勉強の続きをします。」
「がんばってください。私は昼寝をします…あ、あの、魔力を貯めるために!」
「魔力のため…ね…」
「ほんとですよ?決してサボってるわけでは!」
「はいはい、おやすみなさい。」
自分の力がどこまで通用するのか。どれだけみんなの役に立てるのか。早く確かめたい思いから、気持ちが焦る。早くキャンベールについて欲しいとさえ思っている。出発の日の朝には、キャンベールになんて一生着いてほしくないと思っていたのにである。
「僕も変わっちゃったな…」
ぼそりと呟く。隣ではヘラが気持ち良さそうに寝ている。
そういえばこっちの世界に来てから、馴染むことばかり考えていて、元の世界に帰る方法についてなんて考えたこともなかった。
元の世界に未練がないと言えば嘘になる。こちらの世界に来てから、怖い思いもたくさんした。
でも、どこかこの刺激的な毎日にワクワクしている自分がいる。やれるところまでやってみたい。アマルガのみんなの役に立ちたい。ヘラと一緒にいたい。
僕はたくさんの好奇心と、ほんの少しの不純な動機で、突き動かされている。




