化学の矛
「さあ、きっちり説明してもらいましょうか。私に一体何をしたのか!」
魔物を追い払った僕たちは、再びアシハルトへ向けて出発した。
初勝利に喜んだのも束の間、僕はヘラにひどく怒られている。
「何から説明すれば…。まず、空気中には水蒸気の形で水が存在しているんです。」
「もう、なんの話ですか!誤魔化さないで下さい。」
「すみません、良ければ最後まで聞いてください…。で、その水を錬金術で水素と酸素に分解しました。」
「水素と酸素…また化学のやつですか?」
「化学のやつです。実は、水素と酸素が混ざっているとき、それに火を付けると水素爆発と呼ばれる爆発が起こるんです。」
「うーーーん。」
ヘラは難しい顔をしてしばらく空中を見つめていた。
「つまり私に強化魔法をかけた訳じゃない、と。」
「そうですね。錬金術で戦う方法を見つけたって感じです。」
「着火しないといけないから、1人では戦えませんよね?」
「痛いとこ突いてきますね、その通りです。」
「…私達、いいコンビになれるかもしれませんね。」
「それ、僕も言おうと思ってました。」
水素爆発を使うことで、上級魔法に負けずとも劣らない程の爆発を起こすことができた。直接は戦えないとはいえ、自分も戦いに参加できたことが嬉しかった。僕は逃げなかった。そして魔物に初勝利をおさめたのである。
「ナギ様は本当は本当に勇者様なのかもしれません。」
「いや、そんなことないよ。爆発くらいで大袈裟な…」
「錬金術をあんな風に使う人、初めて見ました。さっきの爆発の原理、あとでゆっくり教えてください!」
「もちろん、僕でよければ。」
そうこうしているうちに、アシハルトへ到着した。
セーミャ同様、翌日の出発まで僕たちは自由行動を許された。
「魔物初討伐祝いに、美味しいもの食べに行きましょう!」
「えっ、僕お金持ってないんですけど…」
「いいからいいから~」
ヘラにつれられて、お洒落な居酒屋に入った。
オススメを注文すると、ドイツ料理に似た食べ物がどんどん運ばれてきた。お酒を頼むと、ビールのようなものや、果実酒、さらには元の世界のものでは何とも例えがたいものまでたくさんの種類が並んだ。
ヘラは酒豪だった。
僕たちは美食と美酒を前に、朝まで飲み明かした。もちろん、ヘラのお金で…




