セーミャにて
「着きましたよ、今日はこの町で宿泊しましょう。」
馬車から降りると、目の前には大きな広場。そしてその奥にはスタジアムが広がっている。町は沢山の人々で賑わい、まるでお祭りである。
「お祭りでもやってるんですかね?」
「いいえ、セーミャの町はいつもどんちゃん騒ぎですよ。」
スポーツと娯楽の町、セーミャ。そこにいるだけでワクワクしてしまう。
僕たちは王宮の兵士たちに連れられて宿までやって来た。
「出発は明日の朝です。我々は物資の調達に向かいますので、それまでに宿にお戻りになられますようお願い致します。くれぐれも、正体のばれないようにお気を付けて…」
「わかりました、ありがとうございます。」
正体も何も、本物の勇者ではないんだから、大丈夫なんだけども。
「ナギ様!折角セーミャに来たのです、町を見て回りませんか?」
「そうですね、その前に寄りたいところがあるんですけど、付き合っていただけますか?」
「もちろん!大丈夫ですよ。一体どこにいくんです?」
「本屋で、錬金術の本を買いたいんだけど…」
町一番の本屋は広場の近くだと住民が教えてくれた。僕たちは散歩がてら、本屋へと向かった。
「ナギ様は勉強熱心ですねぇ。」
「知らないことを知るのが好きなだけだよ。自分の興味のあることしか勉強しないから、学校のテストだとギリギリの教科があるんだ。」
「私は勉強がすごく苦手で…ナギ様を尊敬します。」
「ヘラさんは知的好奇心が旺盛じゃないですか。机に向かう勉強が苦手でも、その好奇心があれば十分賢くなれますよ。」
「ありがとうございます…ナギ様に言われると照れ臭いですね。これからも色々なことを教えてくださいね。」
「僕でよければ。」
本屋について、気づいたことが二つある。まず、こちらの言葉が読めないと言うことだ。会話はできるのに、文字に起こすとダメらしい。二つ目は、お金を持っていないことだ。すっかり忘れていた。
「ヘラさん、本当にごめんなさい…なんとお礼を言えばよいのか…」
「いいんですよ、出世払いの倍返しで。」
「もちろん倍にして返させていただきます…」
ヘラに錬金術の本を買ってもらって、さらに文房具屋でペンとインクとノートを買ってもらった。女の子の、しかもこんな美女のヒモになるなんて思ってもみなかったな…
早くどうにかしてお金を稼いで、ヘラに恩返しをしなくては。
宿に荷物をおいたあと、僕たちは夜市に繰り出した。屋台で腹を満たし、スタジアムでサッカーのような競技を観戦して、すっかり娯楽の町を楽しんだ。もちろんヘラのお金で。
「楽しかったですね!今度アマルガのみんなとも来たいなぁ。」
「そうですね。僕の勇者騒動が落ち着いたら、今度はみんなで遊びにいきましょう。」
「賛成です。あー今日はぐっすり眠れそうです。」
「明日、寝坊しないようにしましょうね。」
僕たちは眠らない町を後にし、小さな宿屋に戻った。




