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体育祭  作者: 華火
3/6

さびた針の動かし方

 スクールカーストの位置づけで言うと、わたしは決して高くない。最下層とまではいかないけど中の下くらいの中途半端なところにあたるから、カースト上位陣としてはもっとも興味のないと思われる層にわたしは分類されているというのが、自分なりの分析。

 真樹といえば考えるまでもない。応援団長を務めるということはそれなりの対人関係があって、行動力があって、信頼がないとできない。真樹が団長ということはつまり、わたしと同列にはいないということで、放課後に一緒に帰ろうなんてことはもってのほかな話だった。

 午後のホームルームが始まるまでの時間、わたしは一人だけ授業の延長戦上にいるみたいに、机から立ち上がらなかった。

 どうやって真樹を誘おう。昼休みからずっとそのことばかり考えていて、未だにいい案が思い浮かんでいなかった。

 そもそもスクールカーストという見えない壁が邪魔で仕方がない。真樹を一緒に遊びに行こうと誘うだけでもかなりの勇気が必要なのに真樹の取り巻きの顔を気にしながら誘うなんて、いったい何倍の勇気を使えばいいのか、まったく見当がつかない。

「寝てる?」

 由美の声に、わたしはようやく我に返った。

「どした?」

 よっぽどわたしの様子がおかしく見えたのか、由美はわたしの目から視線を離さなかった。

「大丈夫、なんでもない」

 大丈夫なわけがない。でもここでどうにかしなかったら、わたしは本当にただ真樹に迷惑をかけているだけのお荷物でしかない。それはどうしても避けたかった。

「ちょっと悩んでるだけ」

「なーんだ」

 由美はやっぱり興味なさげなリアクションだった。それくらいの軽い気持ちで済むような悩みだったら、どれほどよかっただろう。

「悩んでるってことはやりたいってことじゃん。だからやればいいと思うよ。悩んでてもきついだけだし、いいことないし、何より疲れるからね。だからあたしは我慢しなーい」

 鼻歌でも聞こえてきそうな足取りで由美は教室から出て行ってしまった。もうすぐホームルームが始まるというのに。

 もう一度、確認する。わたしがやりたいことは真樹と一緒に帰ること、アイスを食べること、そして明日から練習に参加すること。

 一般的に女子は話を聞いてほしいだけだから、悩み相談をされたときは指針を示すなと言われることがある。でも由美はわたしに指針を示してくれた。わたしにとってそれはとてもありがたいことだった。友達の少ないわたしの友達は自由で、正直で、とても頼りになる。高校になってからの友達だからまだ付き合いとしては短いけれど、由美はこれからもずっと友達でいてほしいと思った。

 ふと真樹を誘うのはいつぶりだろうと考える。小学生のころは、まだわたしが真樹のことを守ってた。友達の嫌がらせから、先生の質問から、真樹に押し付けられた仕事を手伝ったりもしたことがある。中学生になってから、真樹はすこしづつ自分の意志を持つようになった。わたしの真樹のお世話もそのころから減っていて、いまや真樹はクラスの中心の人間になっている。

 わたしは小学生の真樹を守っていたころから、なにも成長していない。待っていても始まらないのに行動しないこととか、特に成長のなさを感じるから悔しい。

 だから、すこしだけ頑張ろうと決めた。行動を起こして、反応がないとわたしと真樹の時間は進まない。久しぶりに動かすわたしたちの針はきっとさびていて、回り始める瞬間はきっと歪な音がする。でも、いまはそれでいい。すこしずつ、ゆっくりと、きれいな時計にしていけばいい。まだ、時間はある。


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