第8話 神
“神”という絶対的な存在が実在するかなんてことは、サンタクロースやUFO並みにどうでもいい話だ。
いると思う奴は、ああっ主よ、なんて曰ってそいつらを崇め奉ればいいし、いないと思う奴は勝手に悪事でもなしてくれればいい。
ホントどうでもいいのだ。
無償で聖夜におもちゃをくれる赤服ジジィや、もしかしたら地球制服をたくらんでいるかもしれない三頭身ヤローを乗せた円盤の方がまだましな話ができるかもしれない。ただ今ここでは、いるという前提のもと僕に一言いわせてくれ。
おい、神!
お前にわざわざ“様”を付けるほど僕は殊勝じゃないんだ。そこは気にすんな。こっちだって頭にきてるのを必死にたえてるんだ。
聞いているんなら僕の願いを叶えろ。
僕の前に出てきて、一発でいいからぶん殴らせろ!!
後光を浴びて仁王立ちする子供。
ある意味ひれ伏したかのようにひざを突き、呆気にとられ固まる少年。もし今、第三者が見ていたら、どんなシュールな構図やねん、と思わず関西弁でつっこみたくなる状況がしばし繰り広げられた。
そんな均衡を破ったのはやはり子供だった。
「おい、何か答えろ。それともまだ目が痛むのか?」
嘲るような顔をけし、少し心配顔で子供が近づいてきた。それにより、その子供は少女だということがわかった。
そんな彼女を僕はまじまじと観察してみた。
年の端はいって中学生くらい。
日本人がする金髪が黄色にしか見えないくらい見事な黄金の頭髪を、未兎と同じくらいにまで伸ばしている。
少し幼いが、猫のような見ているとぞくぞくしてくるような目と、スラッとして高い鼻梁が特徴的な整いすぎた顔立ち。
漆黒のローブを身にまとい、その全身からは特別なオーラが漲っているように感じられた。
極めつけが、ローブの上から背負っている刀。
意味わかんねぇ。
今にしてみると、神というよりも、魔女の方が合っているというのが僕の少女に対しての初めての感想だったと思う。尚も反応のない僕に、彼女はさらにゆっくりと近づいてきた。そして、軽くペチペチと頬を叩いてくる。
「「・・・・・・」」
両者、無言が続く。
見つめ合うこと数秒。
怪訝そうに覗き込んでくる少女に、はっきりいって僕はただ呆然と機能停止するのみ。
全く思考が働かない。
あまりにも予想していた展開とはちがう。
子供でしかもこんな奇妙キテレツな格好をした美少女。RPGならはもっとヒゲを伸ばした物々しい感じのじいちゃんとかがあらわれるところだろ。と、くだらないつっこみを内心でいれることしかできない。
僕のキャパシティーのメーターを振り切るにはこの突拍子のなさは十分だった。
まさに、はぁ!?。
しかも自分が神だとかこのがきんちょはのたまってくている。何か起こるかもと予想していたもののこの状況は何なんだよ・・・・・・
・・・まぁ、まぁ落ち着け星野千秋。頭を一回リセットするんだ。
僕は再度目をつむり、無想する。
そんな精神集中に取りかかる僕に、その後も少女はつねったり、デコピンしたりと色々と試してきた。
そして彼女が僕の鼻を中指で押してぶたっぱなにしている時、ようやく決心が付いた。
おもむろに少女の腕を掴む。逃げられないように。
少女は少し体をビクッと震えさせたが、逃げることはなかった。
もうなんだっていいじゃないか。この少女は僕が求める“解答”を知っているはずなのだから。
「・・・教えてくれ・・・・・・すべてを。何なのかを。なぜなのかを。どうなるのかを」
おそらく、今まで一度も見せたことがないような顔を、僕はしていたただろう。
それは未知への扉を打ち崩すための緊張のせいだった。
冷たい。僕の顔に触れる彼女の手はとても冷たかった。
結局、目の前に現れたその手の持ち主、少女、神、を僕は殴ることはできなかった。
その時も。
最後まで。