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第7話 深淵の底

人間は脆いものだ。

昔、読んだ本に書いてあった。ヒトは五感を駆使することによって世界を感じ、自分のいる場所を知覚できる。いや、むしろできるではなくて、そうしなければできないのである。

ならばもしそのツールを奪われたとしたら、ヒトはどうなってしまうのだろうか。

答えは実に簡単。

確かその本にはこう書かれていたとおもう・・・・・・


発狂する、と。










暗い、暗い闇。

自分の声の反響音すら何一つ聞こえない静寂。

自分が立っているのか座っているのかすらわからない。

視覚、聴覚、触覚がすべて断絶された空間。限りなく僕の五感は奪われている。

思考のみが唯一自分が星野千秋だ、と顕示していた。

まるで深海にいるみたいだ。見えない、聞こえない、触れれない。



正気を取り戻し、周囲を見渡して、僕はある魚を思い起こした。

ブラインドケープテトラ。

詳しいことはもう覚えてないが、確かそんな名前だった気がする。小学校に進級する時にせがんで買ってもらった、海の生き物の図鑑にのっていた。深海魚。海の底で暮らす魚。

僕はケープテトラが怖くてたまらなかった。

暗い海の中、そのせいで退化してしまった目。

虚ろで光がなく、すべてに絶望してしまっているようだった。


でも今ならわかる気がする。ケープテトラは光が見えないんじゃない。見る必要がないんだ。

幼い自分には理解し得なかったことが、今ならできる。

普通なら五分と自我が保たないこの空間を、居心地がいいと感じる今なら・・・・・・。



ただ、結局のところ、今僕はどういう状態なのだろうか。その疑問が頭をよぎる。

なにもない世界。

これが、僕がいるこの場所が、現実だとはおもえない。

しかし、死後の世界かときかれると言葉に詰まってしまう。


確かに僕は自殺した。

首を吊って死んだはずなんだ。イスから飛び降りたところまでは記憶がある。ただし、その後がない。

気がついたら、ここにいた。

どれくらい時間がたったかすらわからないが、きっとこの状態は長くは続かないということは直感的にわかる。

始めは散文していた思考が、今となっては状況把握するほど正常化している。

絶対このままなはずがない・・・・・・はず・・・。




思考がまとまり始めて凡そ一時間くらい。僕が疑問を時が解決してくれるだろうとほったらかしにし、自分史を小学校くらいまで遡った頃合い。

待ち望んだ(?)変化が訪れた。


「あかり・・・・・・?」

前方に、今まで見渡す限り広がっていた漆黒が、一点だけ白んでいた。

その数瞬後、目映いほどの光が僕を包み込む。その光源は先ほどの方向らしかった。


「〜っ!!」


眼球の奥が痛む。

暗闇から急に当てられたことを抜きにしても、それ程強烈な光だった。その光はまるで僕に敵意を持ち襲ってきているようにさえ感じられた。

思わず目を手で押さえ体をくの字に曲げる。

なんだ!なにが起こったんだ!驚きのあまり冷静に分析する余裕もなく、ただあわてる僕。

そんな僕を嘲るように何かが近づいてくる。

いや、ようにではなくソレは完全に僕を見て笑いを浮かべている。

そして僕への光を遮るように数メートル手前で仁王立ちして止まる。

勿論僕はそんなことに気づかないが、ただ、何かがそばに近づいてきたことだけはわかった。だが、それどころではないのだ。目が痛くてたまらない。


「おい、そこの人間。」

だから目が痛いんだって!

話しかけてきたソレに驚くことなく、僕は無視する。


「聞いてるのか?聞こえてるなら返事くらいしろ!」


怒気を孕んでるにしては妙に甲高い声が響く。

僕も誰なのか気になるのだが、如何せん目を開けられる状態ではない。

何とかソレを視認しようと必死に薄目を開けようとする。


「まっ、眩しい・・・し、痛い」


「ああっ、すまない。目を痛めてしまったか。ちょっと待ってくれ」


わざとらしくソレは謝罪をする。顔に笑みを貼り付けながら。

そして何事かブツブツと呟き始めたかと思うと、不思議と目の痛みが弱まっていく。

数秒にして先程の刺すような痛みは嘘のように引いてしまった。


「よしもういいぞ。目を開けてみろ」


恐る恐る手をどけ、目を開けていく。僕の眼前にいるソレに期待と不安を込めるよう慎重に。

おそらく、ソイツは僕の疑問にたいする解答を持っているのだと予想をして。

瞳を大きく見開いた。


「――なっ!!」


そこにいたのは子供だった。

後光に照らされながら、小さい背を精一杯伸ばして仁王立ちし、いやな笑みを浮かべていた。


「星野千秋、お前は選ばれたのだ。我にひれ伏して懇願するがよい」


その子供(ガキ)は高らかにそう言いはなった。

僕は考える人の像も真っ青なくらいに、その場で固まってしまった。

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