第6話 特別な日
笑みが思わずこぼれる。瓜生隆の偉大さに対して。一言でコイツは僕のすべてを溶かしていく。
間違いなく、瓜生は僕にとっての「大」がつく親友なのだろう。
「お前らの関係気持ち悪いな」
聞いた瞬間は何をいっているか意味が分からなかった。
刹那、時が止まった僕にかまわずソイツは続けた。
「思い合ってるのに、まずい方向にしか伝わらない。変な気遣いしか後には残らない。そんな感じかぁ・・・」
真意をはかるよう僕に呟く。
「・・・・・・」
コイツが読んでいた本のタイトルを思い出す。
まさか、ホントに心を読まれたとか!?
背筋に冷や汗がつたう。思わず視線をそらしてしまった。
「・・・・・・なーんてな。そんなビビんなよ。ジョークだって」
拍子抜けするほど雰囲気が変わった。さっきの重苦しいものから、一気に軽い感じに。
まじめな顔から、満面の笑顔に。
「お前、もしかして心の中読まれたとか思っただろ。ほらっ」
そう言って、ソイツは僕にむかって読んでいた本を放ってきた。
「なか、読んでみっ」
おもむろに開いてみる。唖然として。
「やーい、騙されてやんの。だいたい、たとえそんな本読んだって人の内面がそう容易くくわかるわけねーだろ」
中身はただの漫画だった。しかもラブコメ。「――ぶっ!?」
しかも開いたページがちょっとエッチなシーンだったので思わずふいてしまった。ギャップがつぼにはまった。
「やぁっーと笑ったかぁ。朝から辛気くさい顔ばっかしてるから、笑わないやつかとおもったぜ」
「くくくっ!さすがにこれは笑っちゃうだろ。お前いいギャグセンスしてるよ」
「どういたしましてぇ」いきなり教室の隅で笑い出す二人に、まわりの生徒は少し怪訝そうな顔をした。それから、まだ笑いが抜けない僕にむかってソイツは少し改まって聞いてきた。
「少し聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「別にいいけど、なに?」
息を吐き出し、逡巡するような間をとって、
「お前の名前、星野千秋でいいんだよなぁ。それでさっきの子が、確か宇井野・・・・・・」
「うん、宇井野未兎。あってるよ」
「・・・やっぱ当たってたのか・・・・・・って悪い、俺は瓜生っていうんだけど、まぁそんな事はどうでもいいか。で、本題だけどさ、ズバリお前らどんな関係なの?」
瓜生のいきなりの言葉に少し驚いた。
先程のやり取りが頭をよぎる。
「お前未兎たちの噂聞いたことないの?」
自分でこんなこと言ってるあたり、やはり、僕の内に動揺があったのだろう。
星野は二人のオマケ。
噂なんて普段最も僕が嫌ってるものなのに・・・・・・でも、その言葉がすんなりでるほど、瓜生に僕は独特のものを感じていた。
「いや聞いたことはあるんだけど・・・・・・。なんていうかな、なんかお前ら見てるとさぁ・・・・・・」
「・・・?」
またもや内考に入る瓜生。僕にはその内側をはかることはできなかった。「まぁいいや・・・・・・そんなこと俺が気にしても意味ないし・・・・・・」
語尾にいくほど音量が下がっていき、最後の方はもうささやきに近かった。
――結局、それからHRまで瓜生と他愛もない話を続けた。最近、初対面のやつとこんな風に笑いあうことなんてなかった僕にとって、やはり瓜生は異端だった。これも瓜生の才能かもしれない。それを証拠にその日のうちに、シュウや渡会とも仲良くなった。圭介や美羽とも然りだった。
およそ一年間。
その日から今まで重ねた期間。
その間に僕が瓜生についてわかったことは、 ごくわずかだ。バカで変態で、どうしようもなく人というものを咀嚼するのがうまい。僕のつまらない厭世観なんてぶっ飛んでしまうくらいに。
たまにマジメになり、いつもは空気みたいに掴み所がない。
変なとこでお節介で、めんどくさがりや。
そして、星野千秋恋のキューピット作戦会議の皆勤賞で、唯一僕の心の中を覗くことができるテレパシーの持ち主。
……そんなところだろうか。
僕は変わったと思う。
どこがどういうふうにと問われると困るが、確実に。
この男のおかげで。
それくらいこの一年間は今までとはちがっていた。
でも僕は知らない。
この特別な日に瓜生が吐いた最後の言葉を。
「――オマケねぇ。本当にそうなんだろうか。あの子の目はそう言ってるとは思えないんだけどなぁ・・・・・・」